世界を狂わす黒剣

タコス総督

序章

第1話 異世界転生は突然に

 香川健人、県立和光第二高等学校に通う1年生。入学して半年、夏休みに拗らせたたちの悪い風邪で市民病院の個室に約2週間ほど入院している。


 「はぁ.........暇だ」腕に繋がれた点滴の滴る雫を眺める。「見舞いの一人や二人来ていいんじゃないのか? 底辺校だけど、まともな友達は作ったはずだけどなぁ〜」


 ベッドで横になって独り言を呟いていると、1人の男が病室のドアを開けた。


 「そんなでかい独り言を吐けるなら、学校来いよ」同じ高校に通う友人の小林がお見舞いにやってきた。


 「はぁ〜よかった! まじ退屈すぎて死ぬとこだったわ」


 「天井のシミで数えてろよ」


 「3日数えても数変わんなかったわ」


 「なんだよそれ」2人がたわいもない会話で笑う中、小林は持参した紙袋を机に置く。


 「なんこれ?」中を物色すると大量の小説が入っていた。


 「暇だろうと思って中村から大量のラノベ借りてきたんだ」


 「借りて来たんだ〜じゃねぇよ! もっと早く持ってこいよ!」


 「つかお前元気じゃん、さっさと学校来いよ」


 「いやそうなんだけど、医者が退院の許可くれねぇんだよ。熱はもう下がったのに」


 「ふ~ん」


 「今学校どんな感じよ?」


 「学校? そういやもうすぐ生徒会選挙が始まるな.........あ、2組の石浦知ってる?」


 「あの明るいドラマオタクのポニテ女子?」


 「あいつ生徒会長に立候補するらしいぜ」


 「中学の時もそうだけど、生徒会選挙って内申点いい奴が受かるヤラセ選挙だろ。受かるわけないのに」


 「先輩に聞いたけど、うちは独自らしいよ。石浦の奴、受かったら学校にジュースしかない自販機設置してやる! とか言うから、1年全員石浦に投票するつもりだぜ」


 「マジ?! じゃあもう不良のいるコンビニに買いに行かなくて済むじゃん! うわ~早く出してくれんか~」


 「だな、そんじゃ俺行くわ」


 「おいもう帰んのかよ、もうちょっといてもいいじゃん」健人の願い虚しく、小林は病室から出て行ってしまった。


 「まぁいいや、アイツどんな本持って来たんだ」紙袋から大量の本を取り出し、全て机に並べてみる。


 異世界に転生した俺は奴隷少女を買って楽しくスローライフを送る、全9巻。

 

 追放された俺は無能パーティに拾われ優雅なハーレム人生を送る、全7巻。


 魔王になった俺は裏切った女勇者を口説いてみた、全15巻。


 罪人、全1巻。

 

 死、全1巻。


 「おい後半異世界関係ないやん。なんで中村こんな物騒な本持ってんだよ.........」罪人と死の本は紙袋に戻し、異世界に転生した俺は奴隷少女を買って楽しくスローライフを送るを1巻手に取り読み始める。


 「個人的には学園ラブコメが好きなんだけどな~」


 文句を言いながらも、読み進めて3巻に手を伸ばし時、看護師が病室をノックして入って来た。


 「香川君、点滴変えますね〜」


 「はーい」


 しおりを本に挟んで机に置くと「あ、読んでて構いませんよ」


 「あ、そうすっか」続けて本を開いて読む進めるが、時折横目でちらちらナースを見る。


 その訳はいつものおばさんじゃなく、若い綺麗なお姉さんだったからだ。当然フィクションみたいにピンクの制服から下着は透けて見えず、生足が出ている事も無い。


 そのことに少しがっかりしていると点滴の交換は終わった。「終わりましたのでこれで失礼しますね〜」


 「うーす」看護師が出たのを確認すると「あ~消毒液の匂いしかしなかった.........いい匂い期待してたのにな.........うん?」ふと点滴を見ると、袋に少ししか入っていなかった。色も透明から青色に変わっている。


 「減ってる.........もう少しでシャバに出れるって事?! なのか.........まぁいいや」健人調べでは2分に1回雫が落ちる為、軽く見積もって30分で中身が切れる程しか入っていなかった。


 30分後。異世界に転生した俺は奴隷少女を買って楽しくスローライフを送るは4巻に差し掛かり、主人公が役人と税金で揉める名場面に差し掛かっていた。


 「ハハハ! 異世界ものなのに税金で揉めるなよ」これには健人も思わず口に出して笑ってしまう。「ハハハ! ゲホ、ゲホ、ゲホ!」


 気管に入ってしまい咳が止まらなくなってしまった。「ゲホ、ゲホ、ゲホ!」突然、咳と一緒に口から大量の血を吐き出し、持っていた本にかかってしまう。


 「なんだ.........これ」頭の理解が追いつかなかった、この間にも口から大量の血が流れ出てる。


 「ゲホ、ゲホ、はぅぅ.........!」次は息が出来なくなった。違和感を外に訴えるため本能的に喉を両手でおさえ、全身の筋肉が痙攣し始める。そして口に続き鼻と目からも流血しだし、顔全体が白くなっていく。


 「がっ.........!」最後の力を振り絞り、ベッド脇のナースコールに手を伸ばそうと体の体重を移動した瞬間、体勢を崩しベッドから崩れ落ちた。床に額を強く打ち付けてしまい、16年という短い生涯を終えた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る