第20話 反撃開始

 「3人なら.........勝機はあるんだな」


 「奴のメイン・ウェザーは1対1の闘いには長けているが、多人数の戦闘には不向きだ。3人の動きを常に把握し対応するなんざ並の人間にはできん。いずれ脳が悲鳴をあげる」


 「その隙を突いて一気に攻めるって訳か」


 「まずはエーリッヒに協力を仰げ、下っ端は俺が数を減らす」


 「任せろ!」コロッサスとの作戦会議を終えたテカラは全速力でエーリッヒの元へ走り出す。


 カマルの手下と交戦中のエーリッヒ。魔法で巧みに操り、着々と数を減らしていく。


 「エーリッヒ様!」テカラはエーリッヒの背後に回った手下を斬り捨て声をかける。


 「無事か?」


 「手下はコロッサスに任せて、3人であの男を倒しましょう!」


 「そうしたいのは山々だが、まだ手下が残っている」


 「奴は数を用いた戦闘が弱点です! 頭を討てば手下の統率はなくなり退くはずです!」


 「そうか、なら早急に手を打たねばな!」説得に応じたエーリッヒはテカラ共にカマルの元に急ぐ。


 「私とアプルで奴の注意を引きます! 距離をとって魔法で援護を!」


 「承知した!」


 カマルの元へ着いたテカラは、横から間合いに入り、剣を振り下ろし奇襲をする。


 「チッ!」テカラの存在に気づいたカマルは剣を避け距離をとる。


 「何しに来た女ァ!」アプルはテカラの存在に気づき邪魔されたと難癖をつける。


 「合わせろ、3人で殺る」テカラは近づき耳打ちで策を伝える。


 「今は目の前ことに集中しろ! カゼキリ!」大勢を整える隙を与えず、エーリッヒのカゼキリがカマルを襲う。


 今のカマルは突風よりも速い。俊敏にかわしアプルに迫る。


 2人が加わるまで1人で相手をしていたアプルはこの中でかなり疲弊している。全身に受けた打撃の跡がそれを物語る。


 テカラは前に出て剣でカマルの打撃を防ぐ。「ぐっ.........!」凄まじい衝撃が全身に伝わる。


 カマルはしゃがみ、下から無防備な脇腹めがけて拳を叩き込む。テカラは左手で腰に収めたもう1本の剣を逆手に握り、カマルめがけて抜刀するした。


 暗闇に光る緑の斬撃。一瞬の判断でカマルは後ろにに飛んで避けた。


 「私に力を貸せ、エメラルダ!」テカラの左手に握る剣は、かつて健人が造った物。エメラルダと命名し、常に腰の鞘に納めている。


 2本の剣を携え、カマルに斬りかかる。2刀流が生み出す隙を与えない斬撃によって、カマルは回避を余儀なくされる。


 「チッ、鬱陶しい!」テカラの猛攻に腹を立てるカマル。この状況に適応できていない。


 「何をボサっとしておる! 加勢せんか!」


 「わかってるよ!」棒立ちで見ていたところ指摘され、テカラの加勢に向かう。


 気づいたテカラは、背後から走って迫るアプルと入れ替わるスイッチ

 

 「クソが?!」目の前からテカラが消え、アプルの斬撃が迫る。なんとか避けるがその先にテカラが剣を構えていた。


 「はぁああ!」二筋の斬撃がカマルに迫る。回避するが間に合わず、肩に傷を負ってしまう。


 微量の血が宙を舞う。2人から距離をとるカマル。「逃がさん!」その先にエーリッヒが回り込みコンプレッションをカマルに放つ。


 コンプレッションとは玉状に圧縮した風を対象に撃ち込む魔法。


 「ぐあっ!」負傷した肩と腹部に命中し凄まじい苦痛が体中に響き渡る。


 3人は完全にカマルを包囲した。負傷した体ではこの包囲を突破することは容易なことではない。

 

 「連携を崩すな! 確実に追い詰めるぞ!」


 「女が俺に指図するな!」

 

 3人の猛攻は止まらない。息の合った連携で着々とカマルを追い詰めていく。


 カマルに反撃の手段を完全に失い、目の前の猛攻を避けることしかできなかった。


 「こんな.........下等種共に!」次々と刻まれていく斬撃。傷から溢れ出る出血でコートが滲んでいく。


 朦朧と立ち尽くすカマル。勝機と見たアプルは彼の首目掛けて剣を振り下ろす。「くたばれや!」威勢と共に剣は首を掻き斬り、カマルの頭が宙を舞う。


 「やったか?!」


 地面に転がり落ちるカマルの頭。彼の最後は呆気ないものだった。


 「しゃあー! 奴隷商の首は! このアプルが討ち取ったぞ!」


 勝利を手にしたアプルは、カマルの首を空高く掲げ村中に知らせる。


 「聞けー賊共! 奴隷商の首はこのアプルが討ち取ったぞー!」


 しかしその横である疑問を抱くテカラとエーリッヒ。


 「待ってくれアプル。何かがおかしい.........」目の前には首を斬られ不気味に立ち尽くすカマルの亡骸。死んでいるはずなのに、なぜか首からは一滴の血も流れていなかった。


 「はっ?! 今すぐ離れろ! 斬り刻む!」エーリッヒは2人に忠告すると、死体に向けてカゼキリを放とうと腕を突き出した途端。突如死体が1人でに動き出した。


 「なっ?!」死体はそのままテカラに向かって走り、彼女の腹部に蹴り込む。「うぐっ?!」そのまま勢いよく後ろに吹き飛ぶ。


 「テカラ!」


 「あぁ?」エーリヒの叫びに気づいたアプルが振り返る。

 「今すぐ心臓に剣を刺せ! 速く!」


 「何がどうなってんだよ?!」動くはずない死体を目の当たりにして動揺を隠せないアプル。


 「まだ終わってないってことよ」


 「はぁ.........?」カマルの頭が突如不気味に微笑みアプルを睨む。「うわぁあ!」恐怖のあまり頭を投げ捨てる。


 「バカ! なぜ離した!」


 「知るか! 死体がいきなり喋ったんだぞ!」


 地面に落ちた頭は不自然な挙動を見せ、離れたテカラの前に立ち尽くす体に吸い寄せられていく。


 そして死体は足元に転がった頭を拾い上げ、斬られた首にくっつけた。


 「な、何が起きている.........!」その光景を見たテカラは今まで感じたことのない恐怖に襲われる。


 「さぁて.........ラウンド2と行こうか」復活したカマルがテカラを見下ろす。

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