3章

第23話 異世界一面雪だらけ!

 数ヶ月の月日が流れた。紅葉を見せた秋晴れから一変、エーデルワイスの村では豪雪に見舞われた。


 村は一面銀世界。健人とコロッサスは降り積もった大量の雪の除去に追われていた。


 「はぁ〜さみぃ.........」健人は屋根に登り大きなスコップで雪を地面に落としていた。「まさかこんなに雪が積もるなんて.........和光じゃ着いた瞬間溶けるってのに」


 「早く済ませろ〜夜までに村中の雪全部溶かさなきゃいけねぇからな」


 下ではコロッサスが落とした雪を1ヶ所にまとめていた。


 「なんで俺たちがこんなことしなきゃなんないわけ?」


 「火の魔法フレム使えるのが俺とお前だけだからだ。それに今は仕事が進まねぇし、暇つぶしだと思え」


 少なからず依頼は舞い込んで来たおかげで、工房内の素材が尽きてしまった。連日の豪雪の影響で鉱石採取に出かけることができず、現在休業中。


 「はぁ.........地下に篭って剣造りてぇ〜」


 「仕事したきゃ雪消せ」


 「う〜す」終始ぼやきながらもなんとか屋根の雪を全て落とし地面へと降りる。


 2人は1ヶ所にまとめた雪に向かって手を添え、フレムの魔法を唱える。魔法陣から放たれた炎で雪を溶かしていく。


 「燃えろ〜燃えろ〜」


 「最初見た時はあんなはしゃいでたのに」


 「みんなで雪合戦やろうと思ったのに、誰も外出ないんだもん」


 「この時期に風邪なんて引いたら洒落にならんしな」


 「仕方なく1人で雪だるま作ってたら、 ってエーデルワイスさんに怒られるし」


 「そりゃ20体も作るからだろ、バカみたいにでかいのを」


 「だって初めて雪だるま作るんだもん.........後でこっそり屋敷の前に作ってやる。ちっちゃいやつを」


 2人が他愛もない会話を繰り広げている間に雪が全て溶けた。


 「そうだな、じゃあ行くぞ」その足で次はコットンとフリルのお宅に向かう。


 「お、やっとうちの番ですか」


 「精が出ますなお父さん!」


 自宅の前で雪にスコップを突き刺しきさくにコロッサスに話しかける男のエルフ。


 彼の名はドパーグ。この家の亭主であり、コットンとフリルの父。身長180cmで眼鏡を掛け、頭の先から毛皮の防寒具を着ている。


 「これも家族サービスの内ですよ」


 「家でゴロゴロしてるぐらいなら、雪でもかけってカミさんに言われたか?」


 「ハハハ! そんなところかな」


 この時期になると遠方に出ていた男達が、みな一斉に村へと帰ってくる。ドパーグも普段は海に出て漁をしている。


 「どうも、お久しぶりです」


 「やぁ健人、いつも娘達のわがまま聞いてくれて助かるよ」


 「いえ、こちらこそいつも2人に美味しいご馳走になってます!」


 コロッサスの弟子ということもあって男のエルフ達といい関係を築けている。


 「じゃあ後は頼むよ。僕は読書の続きでも戻らしてもらうよ」そう言ってドパーグはスコップを持って家の中へと戻っていった。


 「ごゆっくり〜」2人も積み上がった雪の除雪へと取りかかる。「どこの世界もお父さんって大変なんだな.........」


 「数ヶ月家を留守にした挙句、帰ったら家の雑用。俺なら死んでもやらんな」


 「たまには川に洗濯行けよ。秋からずっと俺にやらせてんじゃん」


 「そのうちな、ほら次行くぞ」除雪が終わった瞬間足早に次の場所へと歩き出す。


 「手が冷たくなるぐらい我慢しろよ」健人もその後を追って歩き出す。


 その後も村中を歩き回り、1軒1軒訪問し除雪を行う。夕方に差し掛かった頃、最後であるエーデルワイスの屋敷へと向かう。


 「よう、屋敷の除雪に来たぜ」コロッサスは屋敷に続く道を守護する兵士には話しかける。


 「ど、どうぞ中へ」この豪雪の中、兵士達はいつもの鎧を着て立っていた。


 「大丈夫ですか.........唇が青いですよ」


 「へ、平気です。も、森の守護と比べれば、私なんて大したことないですね.........」健人に平気な顔を見せるが、肌が白く生気がこもっていない。冷えた鎧が体温を奪っている。


 「.........そういえば、テカラさん見てないな? 非番ですか?」


 「て、テカラ先輩ならきょ、今日森の守護にあたってます.........なんか最近お、多いんですよ」


 「マジ.........?!」


 「帰る頃には雪だるまか冷凍のどっちかだな」


 「無事だといいな.........」


 2人はテカラの無事を思いながら階段を登りエーデルワイスの屋敷へと向かう。


 「たくあのばあさん! 全然雪かき終わってねぇーじゃんか!」着くや否や手付かず雪を見て愚痴をこぼすコロッサス。


 「この時間からやるのはきついって.........」


 「もっと効率よくやらないからだろ!」屋敷の中で2人の話を聞いていたエーデルワイスが外に出てきた。「なにも一緒になってすることはなかろう。お互いフレムが使えるなら、別れて作業すれば今頃とっくに終わっておるのに」2人の効率の悪さを指摘する。


 「.........偉そうに上から目線で.........」


 「それもそうだが、ばあさんが雪かきしてくれてたら、溶かすだけで今頃とっくに終わってたかもな」


 「お、上手いこと言い返す!」


 コロッサスも悪知恵を働かせてエーデルワイスの怠けぶりを指摘する。


 「このまま言い争ってもいいけど、除雪するまで帰さんからな」


 「そっちからふっかけてきた癖に.........」


 「ぬくぬくの部屋にこもってる以上、俺たちに勝ち目はねぇ。さっさと終わらせるぞ。屋根登れ」


 「ふーい」仕方なく屋根に登る健人。スコップで雪を落としていく。


 軽快に落とし終えると、地面に降り残った雪をフレムで炙る。


 「絶対に家を燃やすな!」


 「わかってますよ〜」エーデルワイスの視線を感じながら黙々と作業を進めていく。


 「昨日エーリッヒから連絡があってな、無事に新たな居住地を見つけたらしい」


 「それはよかったですね。どこなんですか?」


 「詳しい場所は知らんが、はるか南に陸路で数ヶ月はかかる場所と聞いた」


 「南に数ヶ月か.........なんか暖かそうな場所ですね」


 「そうだな.........時に健人。こっちの生活には慣れたか?」


 「すっかり慣れましたよ。食べ物も合うし、虫もちょっと平気になりました」


 「そうかそうか.........余裕が生まれたからテカラとより親密なったんだな.........」


 「親密と言えばそうかな〜仲良しな親戚のお姉さん? あ、恋仲には至らないですよ! あくまで友達として.........」なんとなくエーデルワイスの方を振り向いた健人。


 そこには眉間にシワができるほどの眼力で健人を睨んでいた。


 「昨日エーリッヒから聞いたぞ.........テカラがお前のこと愛してるって言ったそうじゃないか.........」


 「は、はぁ?! テカラさんそんなこと言ったけ?!」


 「お前の前で堂々と高らかに宣告したって聞いたぞ.........」


 「えっと.........あぁ、あれか! あれはですねちゃんと続きがあって、大事な村の一員として愛してるって意味ですよ! 決して恋愛的意味はございません!」


 必死に弁解する健人。そうでもしなければ、今晩にでもエーデルワイスのスペシャルディナー孤独な晩餐になってしまうからだ。


 「まぁそんなことだろうな」


 「へ?」突如人が変わったように表情が元に戻るエーデルワイス。


 「テカラから何度か聞かされておるしな。弟みたいで守ってやりたくなるって。ちょっとからかっただけだ」


 「からかうってレベルじゃねぇよ.........」


 「.........健人ここらは少し真面目な話だ」


 「なんですか.........? 心臓痛いんですけど」


 「.........君は。これから先どう生きる?」

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