第22話 縁が会ったらまたどこかで

 終戦から1夜が明け、荒廃した村の一角では戦で犠牲になった者達の葬儀が行われていた。


 「これより、先の戦で犠牲になった者達の追悼の儀を執り行います」意識を取り戻したエーリッヒ。まだ十分な休養が取れていないにも関わらず、参列者の前に姿を見せる。


 地面に置かれた6つの棺。犠牲になったのはどれもこの村で平穏に暮らしていた女子供達。


 悲しみに暮れる参列者達に見送られながら、1人ずつ兵士達によって地面へ埋葬されていった。


 「この者達の肉体は木となり、魂は生命となり、この森を繁栄していく。再び我らがこの地に戻る時、森は以前の姿を見せる。皆で黙祷を捧げよう」


 エーリッヒの言葉の後、皆一斉に目を瞑る。しばし静寂の時が流れた後、葬儀は終わった。


 重い足取りで離れていく参列者。エーリッヒは最後尾で参列していた健人の元へ駆け寄る。


 「この度は遠方から物資を届けてくださってありがとうございます」エーリッヒは2人に深々と頭を下げる。「それと、戦に巻き込んでしまって申し訳ございません。今この命があるのはあなた方のお陰でございます」


 「そんな.........こちらこそ粗相をしてしまったうえに治療まで施してくれて.........」こめかみと腹部に生じた殴打の腫れとアザ、左脚の切り傷。医師は薬草で作った薬を塗って治療してくれた。


 「元はこちらが起こしたことなので、お気になさらず。アプルには私からキツく言っておきます」


 「それは.........どうもです」こういった状況には慣れておらずどう話せばいいかわからない健人。「あの.........さっき戻るみたいなこと言ってたんですけど、この村を去るんですか?」


 「.........あぁ。残念だがこのような事態になってしまった以上、そう決断せざるを得ない」


 「そうなんすか.........それは仕方がないですね」


 「英断だと信じたい。先祖から受け継いだこの森を、私の代で断つことになるのだから」


 「もう戻らない言い方ですね.........」


 「皆にはああ言ったが、正直王都が存在する限りここへ戻るのは難しい.........」


 「もう会えなくなるんですね.........」


 「短い間だったが、キミに出会えてよかった」


 「俺もです。どうか.........お元気で」


 「健人殿も」2人は互いに頭を下げその場を離れる。


 健人は左脚を引きずりながらテカラが療養してある建物へ向かう。


 「テカラさん〜今戻り.........ました」建物に入った瞬間。寝床に腰掛けていたテカラと話していたアプルが、健人に気付き振り返る。


 「げっ.........!」今の健人はアプルを見ると気まずくて傷跡が痛むらしい。「ど、どう」


 引きつった作り笑いでアプルに話しかけると、無言のまま顔を赤ながら足速に外に出ていった。


 「も〜気まずいな.........」


 「それは私もだ.........」顔を赤らめ大きくため息をつくテカラ。部屋の隅ではコロッサスがニヤニヤしながら笑いを堪えていた。


 「何話してたんです?」


 「特に何も.........勲章を渡しに来たんだ」テカラはすぐに話を逸らし、アプルから貰った木で出来た勲章を見せる。


 「村を救った英雄としてだってさ。まるで私が倒したみたいに扱われてるけど、あれはみんなで勝ち取った勝利。エーリッヒ様にアプル、そしてコロッサスに健人」テカラは健人を見つめ朗らかに笑みを浮かべる。


 「俺は? ずっと気失ってたし.........実感が湧かないんだけど」


 「まぁな。でもな、お前がテカラに造った剣.........なんて名だっけ?」


 「エメラルダだ」テカラは寝床に立てかけたエメラルダを手に取って健人に見せる。


 「そうそれだ! そいつのお陰でテカラはカマルを倒して戦が納まったんだ」


 「この剣が大勢の命を救った。コロッサスの言葉通りな」


 かつてコロッサスが言った。その言葉を思い出した健人は、次第に目から涙が零れ落ちる。


 「そうなんだ.........本当に実現したんだ.........」


 「これからも俺の弟子としてやっていけるか?」


 「うん。俺、これからも造り続けるよ。大勢の命を救う剣を!」健人は涙を拭い2人に満面の笑みを見せる。


 「ハハ! それでこそ俺の弟子だ!」健人は見失った自信を取り戻すことが出来た。コロッサスの高笑いがそれを祝福するかのように部屋中に響き渡る。


 「ふふ。私もこのまま休んではいられないな。コロッサスそろそろ出発しようか」


 「もう動けるのか?」


 「まだ安静にした方が」


 2人が止めるのも無理はない。医師の魔法によってカマルとの戦いで負った傷は完治したが、魔力の過剰消費の影響で1人では歩くことが出来ない。


 「これ以上迷惑はかけたくない。私たちがいる限り、みんな離れることが出来ないだろ」


 「それもそうだな」2人は健人よりも先にエーリッヒから事情を聞かされていた。

 

 「じゃあ一応エーリッヒさんに伝えて方が」


 「みんな忙しんだ。見送りしてもらったら、かえって邪魔になってしまう。このまま静かに出て方がいい」


 「.........そうだね。少し寂しいけど仕方がないね」


 「よし、じゃあ俺はテカラを抱っこするから、荷物を持って先行っててくれ」


 「わかった」健人はテカラの2本の剣を手に取って建物から出る。


 「ほ〜らプリンセス。王子様が抱っこしてやるぞ〜」


 「頼むから普通にやってくれ恥ずかしい.........」


 ひと足先に外に出た健人。「おい人間」突然アプルに止められる。


 「うぁっ?!」


 「少しいいか?」


 「な、なんでしょうか.........?」心無い目で睨んでくるアプルに固唾を飲む。


 「俺は認めない。人間は平気で本性を隠す」


 「.........はい」


 「目的のためならどんな汚い手でも使うこの世で2番目に残酷な生き物だ。そんな人間をこれからも殺す」


 「.........ど、どうぞご自由に」


 「.........それだけだ」とだけ言い残し健人に背を向けて立ち去る。


 「えっ? お、お達者で〜」


 漢は背中で語る。立ち去るアプルの背中には彼の過去が刻まれていた。


 その昔。アプルは人間の女性に恋した。純粋無垢な彼はそれが奴隷商とも知らず、利用され住んでいた村を滅ぼされた。男は皆殺し、女は捕えられアプルは命からがらこの村へと辿り着いた。

 

 それ以来人間に憎悪を抱くが、どこか心の底にはそれを否定する過去の自分が存在する。


 「またアプルに何か言われたのか?」コロッサスにお姫様抱っこされたテカラが健人に追いついた。


 「いや.........次はもっと辛いのをお見舞いしてやるって」健人は笑いながら冗談をテカラに言った。


 「なんだそれ。相当根に持たれてるみたいだな」


 仲良く笑い合う2人。しかしその背後で遠くから殺意のこもった鋭い目で健人を睨むアプルに気付き「は、速く行こっか! ハハ.........」身の危険を感じ足速に馬車に走る。


 急いで馬車に乗り込む健人。遅れてコロッサスはテカラを乗せ御者台で手綱を握る。


 「出発するぞー! 忘れモンねぇーな!」


 「多分大丈夫ー!」


 「よーし出発だー!」


 襲撃で荒れ果てた村。村人達は長年住んだ家を手放し新天地へ向けて荷造りをする中、広場の片隅ではカマルの手下達を飲み込む炎が燃え盛る。


 村を包み込む森の木々は、豪火に焼かれ灰となった。それでも火の手を免れた木々は、少ないながらも外界から村を守ろうと地面に根を張る。


 いつか戻るその日まで.........

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