第21話 死人に口無し

 魔法死霊操しれいそう。死人に魔力を流し、魂を憑依させ遠隔で操る禁忌魔法。


 傀儡くぐつとなった者は生前に会得した魔法に加え、操縦者の魔法が使えるようになる。13世紀に魔法の会得、使用が禁止された。


 「そいつは傀儡だ! 速く心臓を刺せ!」


 傀儡は血液の代わりに魔力が体内を駆け巡っている、ポンプの役割である心臓を破壊することで機能を停止する。


 アプルとエーリッヒは背後からカゼキリでカマルを殺そうと魔法陣を展開する。カマルは首を180度後ろに頭を回転させ「バァ!」と舌を出して2人を挑発する。


 「まずはお前からだ!」すると勢いよく飛び空中にかわす。「いい声聞かしな!」体を180度回転させ、高出力の魔力の玉スフィアを生成し2人に向けて放つ。


 紫の魔力の大玉が暗闇に光る。地面に到達した瞬間、破裂し爆風と衝撃が村中に吹き荒れる。


 「へえ〜やるじゃん」地面に着地したカマル。視線の先にはエーリッヒとアプルの姿。2人は互いに魔力で球体の障壁を作り耐え凌いでいた。


 「なんて奴だ.........」


 「動けるか.........アプル?」2人は意識が朦朧とする中なんとか立っていた。高威力のスフィアを耐えるのにほぼ全ての魔力を使い果たしてしまった。


 障壁を解除した途端、2人は気を失い倒れた瞬間。テカラが息を殺し、カマルの背後から心臓目掛けて剣を突き立てる。


 胸部から突き出る剣先。「残念、ハズレ」カマルは体を捻ってテカラから剣を奪う。


 「確かに心臓を!」戸惑うテカラ。正確に心臓の位置を狙ったはずだった。


 「こいつ心臓なんだよ!」カマルは振り返り、テカラの胸部目掛けて拳を撃ち込む。


 「うぐっ!」後方に吹き飛ばされるテカラ。鎧が耐えきれず損壊してしまう。


 体に突き刺さった剣を投げ捨て「いい体してんじゃん! 殴らせろ!」鎧からはだけて見える鍛えられた体を見たカマルがテカラに迫る。


 「させるか!」颯爽と立ち上がり、ボロボロになった鎧を剥ぎ取りカマルにぶつける。


 カマルはそれを払いのけ、テカラに殴りかかる。


 「イカすぜ! おかげで身軽になっただろ!」


 「今すぐ黙らせてやる!」


 テカラは咄嗟にカマルの拳を避け斬りかかるが、華麗にかわされる。


 両者譲らぬ攻防戦。テカラの斬撃、カマルの拳がぶつかり合う接戦が続く。


 「どうした? 魔法は使わないのか?」


 「お前みたいな雑兵に割く魔力はない! これで十分だ!」


 「そうか!」テカラは拳をかわした後、柄頭をカマルの胸部に押し当て「ボルト!」風の魔法を詠唱し、リーフストーンから緑の矢が放たれる。


 「なっ?!」咄嗟にかわすカマル。胸部から逸れた矢は彼の左肩を貫き、もげた左腕が宙を舞う。


 「雑兵を甘く見てたな」


 「この下等種がァ!」見下した相手に深傷を負わされ荒れ狂うカマル。残った拳をテカラに振るうが、かわされ距離を取られる。


 風の魔法ボルト。魔力で形成された矢を対象に撃ち込む遠距離魔法。エメラルダの柄頭に備わったリーフストーンを介すことで欠損させる程高威力の矢が射出された。


 「雑兵の癖に.........これほどの威力の魔法を!」


 「次は外さん!」エメラルダを構えカマルに突進するテカラ。遠距離では射線を読まれかわされてしまうと考え、斬撃で攻めた後隙を突いて撃ち込む。


 「図に乗るなぁ!」迫り来るテカラに残された腕を突き出す。「ボコして飼い慣らしてやろうと思ったけどもういい!」魔法陣を出現させ。「灰にしてくれるわ!」巨大な火球を放出する。


 火球は地面を抉りながらテカラ目掛けて一直線に向かってくる。「灰になるのは.........」急いで足を止め、狙いを定め全ての魔力をリーフストーンに集中させ「貴様の方だ!」ボルトを火球に撃ち込む。


 柄頭から放たれる高出力のボルトは、疾風を纏い火球を貫き消滅させ、止まることなくカマルに到達する。


 「はっ?!」火球が消滅し焦るカマルの腹部にボルトが突き刺し、衝撃で胴体が2つに千切れた。


 「はぁ.........はぁ.........」魔力の過剰消費で息が上がるテカラ。「いやまだだ!」無惨にも2つになった死体が動いていたことに気づくと、ふらつく足でそばに駆け寄る。


 「うっ.........うぅっ.........」瀕死の重症を負ったカマルは、うめき声を上げながら残った腕を動かす。「なぁ.........教えてくれよ」駆け寄ったテカラに話しかける。「その.........」


 まだ喋っていたにも関わらず、早々にテカラはカマルの心臓を突き刺す。「死人は黙っってろ.........」

 

 心臓を破壊されたことでカマルの体から魔力が抜け出し、本当の死体へと戻った。


 「終わった.........」もう死体が動くことはない。そう確信したテカラはアンドの表情を浮かべ辺りを見渡す。


 カマルの猛攻に耐えきれず倒れるエーリッヒとアプル。豪火の中うなりを上げ手下と闘う村の兵士たち。


 そんな彼らに戦果を伝えようと、残った力を振り絞り「聞けぇーーー!」大声を出して村中に響き渡らせる。


 「奴隷商の頭は討ち取ったぁーーー! 我らの勝利だぁーーー!」


 テカラが叫んだ後、力尽き地面に倒れる。薄れゆく意識の中で兵士たちの歓喜の声が村中から返ってくるのが聞こえた。

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