第24話 エーデルワイスの依頼

 人生は無数の選択から形成される。その多くはなんの前触れもなく訪れ、その場で選択を強いられる。


 必ずしもそれが最良の選択とは限らない。後になって後悔することもある。


 こうして人生は形成されていく。


 「.........エーリッヒさんのとこでも言いましたが、俺にはここで生きるしか選択肢がないんです。武器商人としてこの村に住んで生涯を終えるかな」


 「そうか。でも選択肢が無い訳じゃない。この村の外にも世界は続いてる。そこで生きるのも、選択肢の1つではないのか?」


 「.........やっぱり、俺嫌われてるんですか。遠回しに出て行けって言われてる気がするんですけど.........」


 「そう言う話じゃない! 初めと違って君に嫌悪を抱く者はいない。永住を望むのなら、正式に村の一員として迎えてもいいか.........果たしてそれが君のためになるのか、最近悩んでいる」


 「.........俺はこの村に命を救われました。だからこの村に恩を返したい、この村の役に立ちたいです! これからもずっと!」


 「.........そうか。本当にそれが、君が心から望むことなんだな」


 「後悔はしません」


 「.........わかった。立ち話もなんだ、改めて中で話そう」エーデルワイスは健人を連れて屋敷の中へと入っていく「コロッサス! 少し健人を借りるぞ!」とコロッサスに告げた。


 「なんだよ! 俺だけ仲間はずれかよ!」


 屋敷の中に入るのは初めてこの村に訪れた時以来だ。「まぁ楽にしたまえ」そう健人に伝え奥で何やら探し物をし始めるエーデルワイス。


 「あまり落ち着かないな.........変に身構えてしまうなぁ」


 ひな壇の前でソワソワしながら待つこと数分。探し物を終えたエーデルワイスが健人の元へ戻ってきた。


 「健人。君を正式に村の一員として迎えるにあたり、1つ依頼を頼みたい」エーデルワイスの手には紫色の布で包まれたある物を持っていた。


 それを健人に見せ、包みを開ける。「な、なんです?」中には、錆びついた古い折れた剣身の一部。


 「これは、聖剣アトラカヨトルの剣。これを君に修復して欲しい」


 「修復.........聖剣を俺が?!」


 「14世紀、闇の時代を生き抜いたエルフが持っていた物だが、ハイゼンベルクとの闘いに敗れ今は鉄屑同然の姿になってしまったが」


 「うぅ.........ん」聖剣だった物を手に眉を歪ませまじまじと凝視する。「よくこんなの持ってましたね.........」


 「先月遠方に出てた狩人が偶然見つけたらしい。珍しい物があると私に見せてくる癖があってな」


 「どんな癖なんですか.........」剣身を指で小突いて見る「これ、鉄じゃない.........かと言ってルエフ鉱石でもない」


 「聖剣は特殊な素材で出来ているらしい。コロッサスの工房に忍び込んで調べてみたんだが、なんの情報を得られなかった」


 「そんなことしなくても、直接聞けばいいじゃん.........なんなら俺じゃなくコロッサスに頼んだら?」


 「そのコロッサスが、君に託すよう言ったんだ」

 

 「え? なんで俺に?」


 「さぁ.........」エーデルワイスに事情を聞くが、視線を逸らし話さなかった。


 「ばあさん終わったぞー!」


 外で雪かきを終えたコロッサスが屋敷に入り、空気も読まず2人会話に割って入る。「お前たちも終わったみたいだな、暗くなる前にさっさと帰っちまうぜ」


 「いや、俺はまだ終わってな.........」


 「まぁ私よりあいつの方が専門的な知識が豊富だろ。今日はもう帰りなさい」


 「え? あ〜そうですね.........でも最後に1ついいですか?」


 「なんだ?」


 「もし俺が造れなかったら、俺正式に迎入れてくれないんですか?」


 「そうではないが.........その剣を君が仲間である証にしようと思ってな。その剣はエルフの間で伝説として語り継がれている。今後もし他のエルフと会った時に誤解が生じないためにもな」


 「そんな剣を俺に修復させる気なのかよ.........」


 「君の腕を見込んでの頼みだ」


 「まぁ.........頑張ってみます!」


 「うむ!」


 エーデルワイスからの無茶な依頼を聞き入れ、聖剣の一部を譲り受け、コロッサスと共に屋敷を後にした。


 外はすっかり日が落ち、村中に篝火が灯っていた。雪が降る中、2人は家に続く帰路を歩く。


 「ばあさんから厄介な依頼受けちまったな」


 「聖剣かぁ〜まさか本当に存在するなんて」


 「なんせ世界中に5本しか存在しないからな、普通はまず拝めねぇよ」


 「ねぇ、なんでそれを俺に託したの?」


 「託す? なんの話だ?」


 「エーデルワイスさんから聞いたよ、最初にコロッサスに頼んだけど、俺に託すって」


 「そうか? 最近物忘れが酷いんだ、ボケでも来たかな」コロッサスは話をはぐらかし、家のドアを開け2人は中に入る。


 「なぁ.........何か隠してるよな」


 「なにが?」


 「普通こんな大きな依頼があったら、すぐ俺に言うよね。あのばあさんとんでもねぇ仕事持ってきやがったーって。なんで話してくれなかったんだ?」


 「だって依頼が来なかったからな」


 「これ先月狩人が見つけて来たってエーデルワイスさんが言ってた、少なくとも先月には依頼が来てたんだよ! なのになんで黙ってた」


 「それはばあさんも同じだろ。今までなんで黙ってたんだろうな」


 「.........それもそうだけど」


 「まぁ今日のところはこの辺にしよう。明日即行で雪かき終わらせて、まずはそいつを徹底的に調べないとな! 工房にでも置いてこい」


 またも話をはぐらかし、大きなあくびをして寝床に横たわる。


 「.........わかったよ」腑に落ちないと思いつつ、地下の工房に降り聖剣の一部を作業台の置いた。「なんか隠してる。絶対」

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