第25話 聖剣は謎だらけ

 翌日。朝の除雪を早急に済ませた健人は、昼食も取らずに真っ先に地下の工房へと降りる。


 「飯食わないのか?」


 「後で、今は仕事したい気分なんだ」


 1晩経ってもコロッサスに対する疑念が消えることはなかった。なぜこの依頼を黙っていたのか、そしてなぜ健人に託したのか。


 コロッサスが真実を語るまで、永遠にこのモヤモヤが消えることはない。


 工房に降りた健人は、作業台に置いた包を解き、改めて聖剣を観察し始める。


 「う〜ん.........劣化が激しくてわからん」剣身の表面には長い年月を重ねて出来た赤錆の層に覆われていた。


 「錆が出るってことは、鉄で間違いないんだけど.........」約1年、武具錬成に携わった健人は、触れるだけでどういった素材なのかほぼわかるようになっていた。


 「とりあえず1回戻してみるか」剣身に手を添え、魔法陣を出現させ素材に戻そうと試みる。「あれ?」聖剣は一向に形が変わることがなかった。


 「うそぉ?! 鉱物に戻らない.........?」未知の光景に驚きを隠せない健人。何度も繰り返すが、結果は変わらない。「なんなんだよ聖剣って。ホントに人が造った物なのか? 神様かなんかが造ったんじゃないよな.........」


 ついに人工物なのかも怪しくなってきた。原因がわからないまま聖剣を前にして頭を悩ませる。


 「.........そうだ、確かエーデルワイスさんここに来て調べたんだっけ」あることに気づいた健人は後ろを振り返り、本棚を見る。「なんの情報もなかったって言ってたけど.........俺も少しは目を通しておこうかな」


 作業台から離れ、本棚の前に立つ。高さ2m弱、上から下までびっしり本で埋まっている。


 足先を伸ばし、1番上にある本を1冊手に取る。「.........世界を記した巨人、東洋大陸編」中を開きパラパラとページを捲る。「これ小説かぁ。あいつこういうの読むんだ」


 巨人と名乗る航海士が、世界地図を作成すべく海を旅する娯楽小説。著者が誰でもあるか記されていない。「だとすると次は.........氷の大地、絶対零度のペンギン編。いきなり作風が変わったなぁ.........」


 恐らく上の段は小説で固められているみたいだ。早々に見切りをつけ、下の段に移る。


 「.........これだ!」健人が手に取った本には、手書きで描かれた鉱物の絵とその詳細が綴られていた。


 聖剣に繋がる手がかりがないか、じっくりと読み進めていく。1冊、また1冊。次々と資料を読んでいくが、有益な情報を見つけることができなかった。


 「よう、どうだい捗ってるか?」資料に目を通していると、コロッサスが工房に降りてきた。


 「.........今聖剣について調べてるところ」


 「そっか〜まだまだ先は長いようだな」床に座って資料を読み漁る健人を尻目に、作業台に座り聖剣を手に取る。「しかし無知っての恐ろしいねぇ〜聖剣を修理しろだなんて」


 「要望に応えるのが武器職人だろ。絶対にやり遂げてみせる」


 「修理なんて不可能なんさ」


 「.........はぁ?! 今なんて.........」コロッサスの発した言葉に耳を疑う健人。


 「さっき試しただろ、武具錬成で鉱石に戻せなかっただろ」


 「なんでわかるの、コロッサスも試したのか?」


 「いや、独り言が上まで漏れてたからな。それに俺は最初から知ってたし」


 「鉱物に戻せないってどう言うことだよ、意味がわからんないんだけど」


 「剣てのは鉱物を加工して造られる。だから例外を除けば、全て武具錬成で元の鉱物に戻すことができる。戻せないってことは.........わかるだろ」


 「いや勿体ぶらずに教えてよ!」


 「頭柔らかくして考えてみろ、常識を取っ払えばすぐわかる」


 「.........常識を取っ払うって」健人は再び悩み始める。コロッサスの言葉をヒントに思考を巡らせる。「鉱物に戻せない.........故に加工されていない.........てことは聖剣は鉱物?」自分でも何を言っているのかわからない答えを恐る恐るコロッサスに告げる。


 「.........俺も最初は疑ったさ。聖剣は人が造った人工物じゃねぇ、自然が造った自然物なんさ」


 「.........自然物?」聞き慣れない単語に困惑してしまう。「コロッサス、今考えた造語じゃないよね.........」


 「な訳ねぇよ!」そう言い、本棚の上段。小説の右端に置かれた1冊の本を手に取る。「いいか、今からある論文の一部を読み上げる。信じられねぇと思うが、よ〜く聞いとけよ」


 コロッサスの手に取った本には、聖剣の誕生の起源が綴られていた。

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