第26話 聖剣復活プロジェクト

 聖剣の誕生は天地創生期まで遡る。


 宇宙の爆発により、数多の星が消滅し数多の星が誕生した。灼熱と極寒の時代が過ぎ、この星に新たな天地が形成される。この星に海ができ、地上に山や森ができ、やがて生命が誕生した。


 聖剣が初めて観測されたのは2世紀中期。1人の人間が山頂に突き刺さる剣を村に持ち帰ったと記された古文書が発見された。その剣には雷の力が宿り、後にプロンカドルの剣と名付けられたと記されている。


 これまで、聖剣は神々によって創造された神の力を宿した剣として古来より言い伝えられてきましたが、以上の調査の結果1つの仮説を立てる。


 聖剣は天地創世期、この星によって創生された自然物であると考えられる。


 「以上が、聖剣を鉱物に戻せない理由だ。最初っから剣の姿で誕生したから、戻すことができねぇんだ」


 「.........理解はできないけど、なんか妙に納得してしまう」難しい言葉が飛び交う座学を聞かされて、疲労の色が顔に出る。


 「この論文の発表以降、世の学者たちは血眼になって研究し始めたらしいぜ」


 「本当に常識がひっくり返る内容だもんな」


 「おまけに書いたのがの卒業課題だったもんだから、そりゃ必死にもなるわな」


 「.........ならなんで、この依頼俺に託したんだ? 修理できないんだろ」


 「まぁ修理はできんな、残念ながら」


 「.........修理は?」コロッサスのある言葉が気になった「まさか.........きじゃないよね」


 「.........言っただろ、要望に応えるのが武器職人だって。修理できないんだったら造っちまおうぜ、人工の聖剣を」


 「ま.........マジで言ってんの?!」コロッサスの突拍子のない発言にたまげて飛び上がる。


 「同じ素材で造っちまえば人工だろうと聖剣は聖剣だ」


 「いやいや、大分違うじゃん! なんかこう、歴史の重みを感じないと言うか.........エーデルワイスさんならすぐ見抜かれるよ!」


 「心配すんな。ばあさん意外と鈍感だから。しょっちゅう豚肉と牛肉間違えるしな」


 「いやそこは気づけよ.........待てよ、もし本当に鈍感なら、この剣身の一部が聖剣じゃない可能性が出てくるんじゃない?」


 「あぁそれはないな、現物じゃないが、実際にアトラカヨトルの剣を見たことがある」コロッサスは作業台を離れ、工房の片隅から1枚の絵画を手に取り健人に見せる。


 「模写だけどな、この絵の中のエルフが持ってるのが、アトラカヨトルの剣だ」真ん中で勇ましい表情で剣を縦に構える男のエルフ。


 エルフの上半身程の長さを持つ鋼色の剣身、風の模様が剣先にまで彫ってある。緑の鍔には持ち手を守る護拳が付いており、片方には緑色の尖ったクリスタルが装飾されている。


 「シンプルだけど、どこか奇抜なデザインだな」健人は作業台に置かれた剣身の一部を持ち、絵画と見比べる。「錆びててわかんなかったけど、よく見たら剣身に刻まれた模様が同じなんだ」


 「そうだな、ばあさんはここを見て聖剣と判断したらしい」


 「じゃあ後は何で出来ているのかが分かれば、これと同じ物を造れる」


 「問題はそこなんだよ、オトギリにも調べてんだが、今のところいい返事が返ってこねぇ」


 「.........オトギリ?」


 「初めに頃に会っただろ、俺の知り合いだ。頭もいいし、王都ならここより情報も多い」


 「あ〜あの子供たいな人か」


 「絶対目の前で言うなよ。グーで殴られるぞ」


 「はぁ.........」


 「だから今は待ちだ。あいつならいい情報を持ってきてくれる」


 「そっか.........1ヶ月前から裏でこんなことやってたんだ」


 「1ヶ月前からじゃねぇ.........もう何年も前からだ」


 「何年も.........?」急にため息を吐き、沈んだ顔を見せるコロッサス。その様子を見た健人は、謎の緊張に襲われる。


 「.........別に隠すつもりはなかった。ただいつ話せばいいのかわからなかった」


 いつもと違う雰囲気のコロッサスを目の前にして、なんて話せばいいか言葉に詰まる健人。


 「最初に言っとくが、聖剣が造れなくてもお前に責任はないし感じなくていい。全て俺が招いたことなんだ」


 「ど、どう言うこと.........? 急にしおらしくなっちゃって」


 「.........俺はなぁ。もう時期死ぬことになってるんんだ」


 「はぁ? .........しぬ?」


 「俺はこの村に来る前、どうしようもねぇ奴でな。口には言えねぇようなことを平気でやっちまうボンクラだったんさ」


 「.........もしかして殺人?」


 「否定はしねぇが、それも死をもって償うレベルのな」


 「.........うそ.........だよね.........」コロッサスの口から語られる耳を疑う話に、次第と冷や汗が体から湧き出る。


 「だ、だけどそんなふうには見えないよ! 村のみんなからも慕われてるし、エーデルワイスさんにだって好かれてるし.........」


 「これ以上深く言及しない方がいい、耳が腐っちまう」


 「想像がつかないんだけど.........」


 「その結果。俺は呪われてしまった」


 「呪い.........?」


 「5年後。冬と春の狭間で神の裁きが下る。要するに冬から春に変わる頃に俺は謎の死を遂げる。呪いをかけた奴にそう宣告された」


 「冬と春の狭間.........もしかして後数ヶ月.........」


 「.........早ければ来月にでも訪れるんじゃねぇか」


 「でもその呪いって本当かよ?! そんなの信じるようには見えないけどな! ハハハ.........」


 「俺だって最初は信じなかったさ。でもこの5年間。毎晩のように悪夢を見るんだ。これまでの悪行が、走馬灯のように繰り返す。次第に罪悪感に襲われ、苦痛へと変わった」


 「.........コロッサス。悪い冗談はよしてくれよ、笑えねぇよ。ドッキリでしょ」


 冗談であると信じたい。そう思う健人だったが、次第にコロッサスの目から涙が流れてくる。


 「.........すまねぇ!」


 「お、ちょっ?!」感情が抑えきれず、突然階段を駆け上って工房から出て行く。「待ってよ! どこ行くんだよ!」


 コロッサスの後を追う健人。1階に上がると玄関の扉が開いていた。「コロッサス! どこに行ったんだよコロッサス!」すぐに外に出て名前を呼ぶが、コロッサスの姿はなかった。


 「どこ行ったんだよ.........」まだ雪が残る中、忽然と姿を消したコロッサス。虚しくも健人の彼を呼ぶ声が村中にこだまする。

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