第30話 山は天候が変わりやすい
「おい起きろ。出発するぞ」
翌朝。まだ周囲が暗い中、コロッサスに叩き起こされる健人。
「う〜ん.........」眠い目を擦り、地べたから起き上がる。「まだ夜じゃん.........」
「なに言ってんだ、曇って分かりづれぇがもう朝だ」カンテラを片手に健人を待つコロッサスとツバキ。
「探検家なのに、朝が弱いんですね」
「まだ見習いだからなぁ、これから慣れてもらわねぇと」
「時間厳守。これお仕事の基本ですよ、ジェシーくん!」
「.........うるさいなぁ、今行きますよ」寝起きから2人にぐちぐちと言われ、イラつきながらもキャンプを出発する。
「今日には、神殿付近に着いておきたいな」周囲を照らし先導するコロッサス。「けど用心しろよ。これから中腹に入ると、怪物どもが襲ってくるかも知れん」
「怪物ですか?!」
「資料によるとな、クローフコーストと呼ばれる黒いぼろ布を纏った飛行生物が存在するらしい。小雨と共に現れ、生者の命を狙ってくる」
「な、なんですかそれって、まるで幽霊みたいじゃないですか.........」
「まぁ土砂降りの雨が降れば現れないがな、布が濡れて上手く浮遊できねぇらしい」
話を聞いたツバキは恐怖で体が小刻みに震え上がる。「どうかこのまま雨が降りませんように.........」必死に両手を重ね、晴天祈願を念じ始めた。
「大丈夫だよ。俺に任せろ」後ろで聞いていた健人が、自身ありげな表情を見せる。
「本当.........? 君なんだか頼りなさそうだけど」
「まぁ見とけって、資料見て何度も構想練ったからね」
「昨日蜘蛛1つであんなに悲鳴出してたのに?」
「蜘蛛には苦いトラウマがあるんだよ.........説明したでしょ」
「トラウマってオオグモでしょ、けど昨日のは親指ぐらいの小ささだったよ」
「大きさは関係ないの! 人の心の傷抉ってそんなに楽しいのかよ!」
「だってジェシーくん反応面白いんだもん」
山中に響き渡る健人とツバキの掛け合い。「ハハ、賑やかな登山になってきたな」昨日とは違って、退屈はしなそうだ。
出発から数時間、3人は中腹へと入った。周囲も明るくなった頃、突如雨が降り始める。
「雨だ」3人の体に落ちる雨粒に緊張が走る。
「ゆ、幽霊が来る.........!」雨足が強くなり、小雨が絶え間なく降りしきる。
各々、鞘に収めた剣に手を伸ばし身構えた瞬間、周囲の木陰から漆黒の布が姿を現す。
空に浮遊するクローフコースト。不気味な見たと予測不能な動きで翻弄する怪物。数多の探検家が、この怪物によって命を落としてきた。
「俺がやるよ.........」健人は2人をかき分け、クローフコーストの前に出る。
「危ねぇと思ったらすぐ引けよ」
「あぁ」2人が見守る中、鞘から剣を引き抜く「この日のために用意したんだ」剣をクローフコーストに向けて構えた途端、剣身に炎が纏う。
果敢に攻めてくるクローフコースト「はぁっ!」健人は剣で斬りつけた途端、炎がクローフコーストに燃え移り、瞬く間に炎上した。
クローフコーストは奇声をあげてすぐさま健人から離れるも、燃え移った炎が全身を燃やし尽くし、その場に落下した。
「やったか?」健人達は落下したクローフコーストに近づき確認する。静かに燃える残骸に動く気配はなかった。
「やったみてぇだな、もう死んでるぜ!」
「やっぱ布だから、資料見た時から燃やせば死ぬんじゃないかってずっと思ってたよ」
健人がこの日のためにルエフ鉱石で造った剣には、エーデルワイスから譲り受けたファイヤストーンが使われていた。
剣身に組み込んだことで、威力が増したフレムを剣身に纏えるようになった。
「この調子で進みやぁ、クローフコーストも余裕だな」
「へへ、めちゃくちゃ熱いけど.........」調子づいた健人はツバキの方を振り返り「なぁ、頼りになる」
「そんな場合じゃない、前見て!」ツバキの目線の先には5体のクローフコーストが宙に浮いていた。
「うぉっ! いつの間に?!」仲間を殺された恨みなのか、静かに健人達を見つめる。
「倒せることがわかった以上、もう何も恐れることはない。どいて、私がやる」
「ツバキさん?!」それまで怯えていたツバキが、急に人が変わったように1人クローフコーストの前に出る。
ツバキが近づいた瞬間、クローフコーストは一斉に動き出し、周りを囲むように巡回飛行し始める。
鞘から剣を抜き、両手で構える。「火龍・演舞」魔法を詠唱した瞬間、剣から現れる龍の形をした炎が、クローフコーストに襲いかかる。
炎が1体を燃やし尽くした途端、逃げるように散開するクローフコースト達。ツバキは1体づつ目で追い、5体全部逃すことなく全滅させた。
「す、すごい.........」その様子を後ろで見ていた健人。初めて見る魔法に見惚れていた。
「終わりましたよ、もう安全です!」魔法を解き、剣を鞘に収めるツバキ。2人に安全だと伝える。
「今の何?! 魔法?!」駆け寄った健人がツバキに質問する。
「まぁねぇ〜私の十八番奴かな」
「ほう〜大した魔法だな。これなら怖いもんなしだな」
「へへへ、まぁこれぐらいはサービスしとかないと」2人に持ち上げられ、気分を良くしたツバキ。照れて鼻の下が伸びる。「今後何か依頼があれば、ぜひツバキを指名してください」
「けどまだこの先にもクローフコーストは沢山潜んでる。気は抜かず行くぞ」
「おう!」
「ま、私全部任せなさいジェシーくん!」
3人は気を引き締め、小雨の降る未風山を登り進める。
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