第29話 いざ風の神殿へ

 1月後。冬の豪雪が去り、気候も穏やかになり春が近づく今日。村の出入り口では、健人とコロッサスは馬に荷物を積んでいた。


 「本当に、2人で大丈夫なのか?」村の出入り口では、テカラとエーデルワイスが2人の見送りに来ていた。


 「大丈夫だよ。俺もちょっとは頼もしいところ見せないとな」心配するテカラに頼もしい姿を見せるため、満面の笑顔とガッツポーズを繰り出す。


 「.........やっぱり心配だ! 今からでも遅くはない、私も同行を?!」


 「やめなさいテカラ。これは2人の問題だ。好きにやらせろ」2人に加わろうとするテカラ、鎧の襟元を引っ張り制止させる。


 「そんじゃ.........行ってくるぜ」


 「行ってきまーす!」


 「無事に戻って来るんだぞ」2人は馬に騎乗し、エーデルワイスにしばしの別れを告げ、村の外へ出発した。


 オトギリの懸命な調査の結果、鉱石の正体が判明した。村から南東に進んだ場所に位置する。

 

 森を抜け、果てしなく続く草原に流れる川に沿って走る。


 「しばらくはこの川に沿って歩くぞ」コロッサスは魔法パスコンを使い、方位を確認する。


 「懐かしいな〜確かこの川に沿って村に辿り着いたっけ」健人は流れる川を見て懐かしさに浸る。「初めて見た時はキラキラ輝いてたな〜あれから何だかんだ世話になってる。洗濯物したり、飲み水汲んだり。たまに剣で魚獲ったり」


 「たまに馬とかがションべしたりもするなぁ」


 「.........思い出を汚さないでくれよ」


 その後も、時折談笑しながら進む事半日。「ここを左だ」途中でコロッサスは左折の指示を出す。


 「こっち?」


 「遠くに山が見えるだろ。神殿はその中だ」


 「山?」健人は言われた方向を凝視する。「あぁあれか。あんなところに山あったんだ」遠くに聳え立つ緑の山。健人が最初に訪れた時には気づいていなかった。


 2人は目的地に向けて馬を再び走らせた。徐々に近づくつれ、その全貌が明らかとなる。


 「なぁ.........なんでここだけ雨雲がかかってるんだ?」周囲の空模様は快晴そのもの。しかしなぜか目の前に山だけ、山頂が黒い雨雲に覆われている。


 「通年この状態らしい」


 2にんが向かう未風山は、1年中雷雨と豪風が吹き荒れる危険な山。数多の探検家がこの山に挑み、何度も失敗に終わっている。オトギリの資料によると、過去に一度だけ調査に成功した探検家がいるとか。


 未風山のふもとに着いた2人。改めて頂上を見上げ、その迫力に圧巻される。


 「本当にここだけ天気が違うんだ」足元の地面には境界線ができていた。これから2人は濡れた地面を彷徨うことになる。


 「馬はここに置いておこう。万が一死なれたら困るからな」コロッサスは近くに木に手綱を括り付ける。「なるべく早く戻ってくるからな、大人しくしとけよ」馬に額を軽く撫でる。


 2人は積んでおいたリュックを背負い、未風山に1歩足を踏み入れる。


 神殿までの地図を広げて先導するコロッサス。「足場に気をつけろよ! 落ちたら洒落にならんぞ」


 「わかってるよ!」雨は止んでいるが、強い横殴りの風が2人を襲う。油断すれば、湿った地面に足を滑らせ転落してしまう。


 「へへ、まるで神の試練に挑んでるみてぇだな」地図には神殿の場所は山頂付近と記されている。それまでひたすら斜面が続く。


 数時間が経過した。日が傾き始め辺りが暗くなる。まだ2人はそろそろ中腹に差し掛かろうとしていた。

 

 「いやーーー!」


 「な、なんだ?!」突如山中に響き渡る女性の悲鳴に驚く2人。


 「上の方からだ!」足元に注意しながら声のする方へ急ぐ。「おいどうした?!」2人の目線先には崖ぎわで膝をつく女の姿があった。


 「う、馬が.........落ちた」崖下には積荷を積んだ馬が倒れている。落下の衝撃で血が一面に散乱していた。


 「ありゃもう助からんなぁ.........気の毒だったなじょう」


 「せめてお金置いてから落ちてよ馬っ子ぉ!」


 「えっ?!」心無い言葉に思わず戸惑うコロッサス。「お、おい待て正気か?!」馬に続いて崖を降りようとする女性を必死に掴んで止める。


 「離して! 2万Gがまだ残ってんのよ!」


 「命と金を天秤にかけんな! 死ぬ気か!」コロッサスは女を安全な場所まで引っ張る。


 「うぅ.........ぐす。よく考えれば、王都の外で使うことなんて滅多にないのに.........」落ち着きを取り戻した女性は、何やらぶつぶつと独り言を話し始めた。「やっぱ都会の生活に染まってしまたんかな.........平気だった虫も触れなくなったし、髪に泥が付いただけで風呂入りたくなってしまう.........」


 「こいつお前といい勝負するんじゃねぇか」


 「.........俺はここまで酷くないよ」


 「まぁとにかく嬢ちゃん、俺たちがいて良かったな。じゃないとあのまま馬と同じ運命辿っちまうとこだったぞ」


 「.........あっ」コロッサスたちに気づいた女性は「あぁそうですね。おかげさまで何とか命だけは助かりました.........金は惜しかったけど」煩悩が抑えきれていないが、感謝の言葉を述べる。


 「なんか素直に受け取れねぇ.........」


 「ところで.........見ない顔ですけど、どこのギルド所属ですか? ここにはお仕事で?」


 「えっ? ぎるど.........?」


 「健人、少し黙ってろ」コロッサスは健人を後ろに下がらせ「そう言うお前さんはどこの所属だ? こう言うのは自分から名乗るのが礼儀なんじゃねぇのか」


 「はっ! し、失礼しました! 私はツバキと申します。ハイネバランというギルドに所属しています!」


 さっきと打って変わって、足並みを揃えて2人に挨拶するツバキ。背中まで綺麗に手入れされた長い金髪。少し泥で汚れているが、高価な白と緑のドレスアーマーを身に纏う。腰の鞘にも派手な装飾の剣をぶら下げている。


 「ほう、ハイネバランと言えば、王都で結構名が知れたギルドだな〜」


 「はい! 一応看板背負って頑張らせてます!」


 「俺は、後ろが相棒のだ。あんたと同じ王都でも探検家をやってる!」


 「あぁそうなんですか、だからわざわざこんな山に。 私も依頼でここに来てるんですよ、山頂に眠る黄金の塊! それを持ち帰るんですよ!」


 「ほほうそれは夢があるなぁ! 俺たちは風の神殿の調査に来たんだ」


 「へ〜そうなんですか.........あの〜もしかしてこのまま山頂まで登ります?」


 「まぁそうだな」


 「よかったら.........途中まで同行してもよろしいですか? 荷物全部崖下に落ちたので、1人だと不安だし.........王都に戻ると納期間に合わなくなちゃうし」


 「う〜ん、そうだな.........まぁいいぜ、嬢ちゃんを1人にさせる訳にもいかないしな」


 「やったー! ありがとうございます! ありがとうございます!」


 「もう今日は遅いし、ここをキャンプ地としよう。俺たちションベン行ってくる、悪いが焚き火の材料を集めといてくれ」


 「はーい!」コロッサスは健人を連れ、ツバキの目の届かない場所まで移動する。


 「いいぞ喋って、ここならあいつに聞かれない」


 「なんで嘘ついたの?」健人はコロッサスが偽名を言ったことに疑問を抱いていた。


 「ちょっと探りを入れたんだ、あいつ馬より金の心配をしてたしな。けど話した感じチョロそうだったけど」


 「でもなんで一緒に行動するなんて言ったの?」


 「断れば何し出すかわからん。王都の人間で、しかもギルドに所属してる。無駄な戦闘は避けたい。決して俺たちが武器商人だってことは言うなよ」


 「わかったよ。常に警戒しろってことね」


 「その通りだ。戻ろう」


 密会を終えた2人はツバキの元へと戻る。

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