第31話 雷雪にご用心

 クローフコーストの群れを掻い潜りながら、3人は未風山の中腹を登って行く。


 「しつこい!」先陣で襲いくるクローフコーストを火龍・演舞で掃討するツバキ。「後行ったよ!」


 しかしクローフコーストの標的を後いる健人とコロッサス。ツバキを素通りし2人に襲いかかる。


 「了解!」迫り来るクローフコースト。健人はフレムを纏った剣で斬りつけるが、数が多く全てを裁ききれない。「数が多い!」


 「俺の前に出るなよ! 髪が焼けちまうぞ!」コロッサスは手からフレムを出し、宙に炎を放つも、華麗に避けられ中々命中しない。


 「ちっ! すばしっこいな!」魔法だけでは埒がかない、剣を抜いて斬りかかろうとする。クローフコーストに命中するも、地面に叩きつけるだけで、すぐに体勢を立て直される。


 「落ちたやつは俺がやる!」すかさず健人が斬りつけにかかる。炎が燃え移り、1体倒す。


 「おい嬢ちゃん! 真面目にやってんのか?! 数がちっとも減ってねぇぞ!」


 「やってるわよ! みんなあんたに向かって行ってんのよ!」


 「ならこっちを手伝え!」


 「ここで食い止めてんでしょ! じゃないと全部流れ込んでくるわよ!」


 クローフコーストの猛攻に苛立ちを覚えるコロッサスとツバキ。


 「2人とも落ち落ち着いて! 数は減ってる、このままいけば!」2人を宥める健人。


 「大丈夫か?!」


 「まだやれるよ! はぁっ!」また1体剣で斬りつける健人。しかし慣れない魔法を使った戦闘、徐々にフレムの炎が弱まっていた。


 「嬢ちゃん少しは剣動かしたらどうだ! 並行して使えるだろ!」


 「指図しないでよウォルター! 戦い方ってもんがあるのよ!」


 「ならもっと駆使しろ! このままじゃ全滅だ!」


 「好き勝手言いやがって、人間のくせに.........!」ツバキは剣を振りかざし、クローフコースト目掛けて斬りかかる。


 しかしかわされるどころか、クローフコーストに届きもしなかった。「ぐっ.........こんにゃろーがっ!」1人でヤケを起こし一心不乱に剣を振り回す。それもことごとく空振りに終わる。


 「何やってんだあいつ」ツバキの剣撃を見て呆れるコロッサス。「真面目にやれ! 死にてぇのか!」


 「真面目にやってるぅ!」剣撃を繰り出しながらも、着実に火龍・演舞でクローフコーストを倒して行く。


 「はぁ.........はぁ.........でもさぁ、数は減ったんじゃね」3人の奮闘の甲斐あって、数えられるぐらいにまで数は減った。


 「確かになぁ.........うん、おい雨止んでねぇか?」


 「たし.........かに止んでる!」周囲に振りしきる小雨はいつの間にか止んでいた。その影響か、クローフコーストは攻撃をやめ木陰の奥へと身を潜んでいく。


 「運が味方してきたぜ、今のうちに進むぞ!」


 「おう.........!」剣を鞘にしまい、2人はツバキの元へ駆け寄る。「進もう! 敵は引いた!」


 「へえ?! う、うん」ツバキも剣をしまい、共に山頂を目指す。「い、いつの間に?」


 「小雨が止んだんだ。また降ってくる前に少しでも距離を.........!」突如空に轟く雷鳴。その轟音が3人の耳に伝わる。


 「きゃあー!」


 「雷.........先生!」慌ててコロッサスの方を振り向く健人。


 「確か雷が鳴り続くと、土人形の化け物が出てくるぞ!」


 資料によると。雷が鳴り響くと、サンドマンズが現る。地中から這い上がる、人の形をした土の塊が群れを成して襲ってくると記されている。


 「また襲ってくるの?!」


 「ここまで来たんだ、切り抜けるぞ!」


 3人は新たな敵に向けて身構える。「うん?」そんな中、健人の目の前に謎の白い小さな塊が降ってきた。


 「どした?!」


 「これって.........」何かを察した健人は上を見上げる「雪?!」空から大粒の雪が周囲に振りしきる。


 「なんだって.........?!」


 「雷に雪.........てことは雷雪?」


 「先生! 資料に雷雪の情報載ってなかったよ!」


 「まずいぞ.........何が出てくるのか予測ができん!」


 嫌な予感は現実となる。地面が振動するほどの地響きと共に、巨大な石の塊が木々を薙ぎ倒して3人の前に姿を見せる。


 資料に存在しない雷雪の怪物。ジャアントロック。全長3メートルの岩石の巨人。


 「な、なんじゃこりゃー!」巨人を目の当たりにしたツバキは恐怖のあまり、その場に尻もちをつく。


 「なんだよあれ.........」


 「こんなの相手に出来ねぇぞ.........」規格外の怪物にーを前に開いた口が塞がらない健人とコロッサス。

 

 高みから静かに見下ろすジャアントロック。巨大な豪腕を振り上げ、3人に向けて振り下ろす。


 「危ねぇ!」上空から岩石の拳が迫り来る。コロッサスはツバキと健人を引っ張り、後ろに走る。


 地面に到達した瞬間、凄まじい衝撃が周囲に鳴り響く。


 「悪い、コ.........先生」


 「まだ足があるよ.........」


 「お前ら気を引き締めろ!」コロッサスの声で、我に帰った健人とツバキ。「こいつをなんとかしねぇ限り、頂上に辿り着かん!」


 「でもこんなデカいのどうすんの?!」


 「まともに闘えるのかすら怪しいけど!」


 「.........潜るぞ」


 「なんだって?!」


 「闘えねぇなら股下潜り抜けるぞ!」


 「はぁ!」


 「正気かよ先生!」コロッサスの突拍子もない案に、驚く2人。


 「あの図体じゃ、機敏な動きはできん。さっきのパンチかわす時間があった」


 「だとしても、もし踏み潰されたらどうするわけ?!」


 「だったらここでやり合うか?! 倒せる算段がお前にあるのか?!」


 「そんなの無いけど.........でも流石に無茶すぎ!」


 「.........わかったよ。それしか方法が無さそうだ」


 「マジで言ってんのジェシーくん?! 正気じゃ無いよこのかけっこ!」隣で騒ぐツバキをよそに、覚悟を決めた目でコロッサスとアイコンタクトをとる。


 正面から徐々に迫り来るジャイアントロック。「時間がねぇ。覚悟がねぇなら嬢ちゃんとはここまでだ」2人は片足を引き、走り出す体勢を取る。


 「うぅ.........私だってお仕事でここまで来たの、今更引き返す訳には行かない.........」ツバキも覚悟を決め、健人の横に並ぶ。


 「覚悟はいいな.........」


 「うん!」


 「今更聞かないで.........」


 地面を揺らし近づくジャイアントロック。もう拳の届く位置にまで到達していた。

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