第32話 必ず迎えに来るから.........
「走れ!」コロッサスの合図で3人は一斉に走り出す。
ジャイアントロックは1歩後退りし、3人に向けて拳を振り上げる。
「このまま突っ切るぞ!」
迫り来る岩石の拳。3人は速度を落とすことなく、股下の空いた隙間に向かって走る。
拳が地面ぶつかり、凄まじい衝撃が発する中、3人は股下を走り抜きジャイアントロックの背後に出た。
「よっし!」
「抜けた!」命を賭けたかけっこを制した健人とツバキは、ジャイアントロックの背中を見ながら安堵の言葉を漏らす。
「立ち止まるな! このまま走るぞ!」コロッサスは2人を振り返らせ、再び走り出す。
背後では地面を揺らしながら、方向転換するジャイアントロック。巨体を走る3人に向け、追走し始める。
「追ってくるよ!」
「構うな走れ!」遅いながらも、大股を広げて迫り来る。
3人は豪雪の降る中、山頂に向けてひたすら斜面を登る。
「はぁ.........はぁ.........」
「む.........無理! もう走れない.........」徐々に息が上がる健人とツバキ。
「クソがぁ.........!」地面に積もった雪の影響で思うように走れず、速度が落ちる3人。
「ひゃあっ?!」
「大丈夫?!」雪に足を取られ、転んでしまうツバキ。健人は急いでツバキの腕を持って起こす。
「一体どうすりゃあいいんだぁ!」目の前には雪、背後から迫り来るジャイアントロック。追いつかれるのも時間の問題。
「やっぱり倒すしか無いのか.........」
「.........でもあんな巨体どうやって殺るよ?」
「炎で溶けるようにも見えないし.........」
「お前と合わせても、精々雪を溶かすぐらいしか出来ん」
「.........一か八か溶けた水で滑らす?」
「バカそうに見えるがあいつはバカじゃ無い。流れ終わるまでその場にとどまるぞ!」
「それでもいいじゃん! .........その隙に走れば!」健人は背後の雪に向けて腕を突き出し、魔法陣を出現させる。「コ、じゃなくて先生が前の雪を溶かせば足場も良くなるし、足止めも出来るで一石二鳥」
「それはそうだが、俺たちが水に滑ったらどうする?」急ぐ健人をコロッサスが制止させる。
「ぐっ.........そこは足元に気をつけて慎重に登ろう!」
「ダメだこりゃ.........1回頭を冷やせ」立ち止まって策を言い合うも、足止めする方法しか思いつかない。その間にも、ジャイアントロックは着々と迫り来る。
「.........ねぇ」息を整えたツバキが、2人の会話に割って入る。「完全に足を止める方法があるんだけど.........」
「えっ?!」
「なんだ? 言ってみろ!」
鞘から剣を抜き、おもむろに見つめる。「この剣にはもう一つ魔法がエンチャントされてるの。氷の魔法、フローズン・ストランド。それを使えばなんとかなる.........けど」
「けどなに?!」
「.........使いたく無い! 魔法を解除しない限り、永遠に剣と一緒に凍っちゃうから!」
フローズン・ストランド。地面に氷を発生させ、周囲を凍らす高等魔法。魔法を解除しないかがり、特定の環境下を除き永久に凍結される。
「発動には剣を地面に突き刺さないといけないの! 剣も一緒に凍るから、本来は抑止力のために一時的に使うんだけなんだけど.........解除すると動き出すから、今回は地面に刺しっぱになっちゃう.........」
「でもそれで助かるんだから!」
「この剣結構高いんよ! エンチャントも含めて100万Gもしたから余計に手放せないの!」
「そんなこと心配してる場合?! 命のこと考えろよ!」
「100万よ! 100万! ローンも後10年残ってるし、ここで失ったら安い雑魚の剣で仕事しなくちゃならないのよ!」ツバキと激しい口論を繰り広げる健人。
「ちちくり合ってる場合か! もう来てるぞ!」コロッサスが止めに割って入る。
「はやくやってよ! ここで死ぬ気か!」
「ヤダヤダ! 死にたくも無いし剣も失いたく無い!」
「天候が変わればあの岩石も動かなくなる! その時に解除すれば剣も失わない!」
「ホントでしょうね?!」
「ホントだからやってくれ!」ツバキが駄々をこねてる間にジャイアントロックが目前まで迫ってくる。
「あぁ.........もう!」意を決したツバキは「フローズン・ストランド!」ジャイアントロックに向けて剣を地面に突き刺し、魔法を詠唱した。
剣先から発生した冷気が周りの雪を凍らせながら、ジャイアントロックに向かっていく。足元から徐々に凍り、瞬く間に全身を凍結させ動きを止めた。
「やっちゃった.........」
「やったー! 凍ったよ先生!」落ち込むツバキの後ろで、歓喜の叫びをあげる健人。
「やったな嬢ちゃん! これで難なく山頂へ登れるぞ!」
「.........そうですね」突き刺した剣を見つめるツバキ。表面に霜が発生し、完全に凍結されている。
「大丈夫だよ。下山する時に来て解除しよ」ツバキに近づき励ます健人。「行こう、日が暮れるまでに少しでも山頂に.........」
先に進むようツバキの腕を取った瞬間、健人の手を払い鋭く横目で睨む。
「ひっ?!」ツバキの眼力に驚く健人。睨んだかと思えば、いきなり鞘に収めた剣を掴んだ。「な、なんです?!」
「剣がないと落ち着かないの.........少しだけ貸してよ」と声を震わせ健人の頼み込んだ。
「ど、どうぞ.........」承諾すると、なにも礼を言わずに鞘から抜き、自分の鞘に収めた。
「すぅ.........はぁ.........ありがとう、ジェシー君! 大事に使わしてもらうね!」深呼吸した後、笑みを浮かべて健人に礼を言う。
「ど、どういたしまして.........」
「そんじゃそろそろ出発するぞ」動揺する健人をの背後で出発の合図をかけるコロッサス。
「はーい!」
「お、おう.........」2人はコロッサスの背中を追って、再び山頂に向けて歩き始める。
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