第54話 決別
「終わってんだよ! 奴隷商を皆殺しにするだぁ? こんなずさんな計画で、本当に救えると思ってんのか!」突風によって吹き飛ばされたオトギリは軽やかに地面に着地し、いつでも魔法が使えるよう魔法陣を両手に出現させる。
「思ってるから行動してんでしょ! 何で邪魔するのよ.........奴隷商の味方をする気?!」
「味方ならあの時助け出すわけないでしょ.........ツバキ、アンタの知らないところで今法律の改正が行われてるの。まだ時間はかかるけど、この法律が出来れば王都から奴隷商がいなくなる。そうなればエルフたちも自由になるのよ!」
「そんなのガセよ! どうせどっかのホラ吹きが流した嘘情報よ.........私だってそれぐらい見分けられわ、エルフだからってバカにしないで!」
「私が裏で手引きしてんだよ! この状況でお前に嘘ついてどうすんだよ! だから剣を捨てろ、これ以上暴れられたらエルフの印象が悪くなる! 最悪お前含めて全員処刑されるぞ!」必死に復讐を思いとどまるようツバキを説得するオトギリ。
「知ってたの.........コロッサス?」
「いや、俺も初耳だ。だがオトギリの言うことは確かかもしれん、アイツ名家出身だから政界ともパイプがある.........」側で固唾を何で見守る健人とコロッサス。今にも一触即発のこの状況に心が休まらない。
「最悪の結末は誰も望んでない。頼むからこれ以上バカなことはするな」
「.........バカ? バカってなによ」
「このずさんな復讐のことを言ってるのよ」
「復讐して何が悪いのよ.........私をゴミみたいにレイプしたアイツらを殺すことのどこがバカなのよ! 殺して当然の連中じゃない!」
「チッ、耳ついてんの?」これ以上の対話は無意味だと感じたオトギリは、左手の親指で中指と薬指を押さえ「エア・ガント」ツバキに向け、指を弾いて空気を圧縮した弾を撃ち込む。
目にも留まらぬ速度の空気弾がツバキの額に命中。
背中を反って宙に舞うツバキ。「.........はっ?!」その右手に握った聖剣は魔力によって発光し、剣先がオトギリに向けられていた。
危機を察知し右を向くと、顔の近くで小さな空間が今にもオトギリを包み込もうとしていた。気を失ったかに思えたツバキだったが、この一瞬でオトギリに反撃を企てていた。
気づいたオトギリはすぐさま反対方向に身を交わし、ツバキの放つボイド・キル・ストームは対象を失い不発に終わる。
「あの野郎?!」
「やめろツバキ!」
華麗に地面に着地した両者。「カゼキリ!」オトギリは魔法を詠唱し、ツバキの右腕目掛けて斬撃の突風を繰り出すと同時に、右手の魔法陣から3本の鎖も繰り出す。
ツバキは咄嗟にカゼキリを交わす。しかしこれはオトギリの繰り出した罠。交わした瞬間、3本の鎖がツバキに絡みつく。
左腕、左脚、胸部に巻きつく。「クソッ!」すぐさま聖剣で鎖を切断する。
「もう遅い!」切断された鎖から新しい鎖が出現し、倍となって再びツバキに巻きつく。今度は身動きが取れないよう、全身に隈なく絡みつく。
「ぐっ?!」
魔法陣から伸びる鎖を離し、両手に稲妻を帯電させながらツバキに向かって走り「痛いのは一瞬だけだ」稲妻を右手に集中させ、雷の魔法雷拳を胸部に目掛けて打ち込む。
2人の周りに高電圧の稲妻が飛び交う。オトギリの一撃はツバキには命中せず、ほんの数センチ手前で止まってしまった。「空虚の壁か.........!」
オトギリの攻撃を止めた防御魔法、空虚の壁。魔力によって透明の壁を生成し、発動者の前に出現する。厚さ1mmにも満たない壁は、魔力によってその強度が変わる。
空虚の壁がオトギリの攻撃を止めている間、聖剣から発現したカゼキリによってツバキの体に絡みついていた鎖を斬り刻んだ。
雷拳の魔法が切れると空虚の壁も無くなり、自由となったツバキは聖剣を構え、無防備となったオトギリを斬り上げる。
腹部に剣撃を喰らったオトギリは空に向かって斬り上げられ、傷口から大量の血が噴き出る。
「オトギリー!」思わず叫び出すコロッサス。そのまま地面に叩きつけられるオトギリだったが、直前で体勢を変え地面に着地した。
剣先から滴り落ちるオトギリ鮮血。それに反して、衣類には血痕が付着するものの、腹部にあった剣撃の傷が治っていた。
「無事か! オトギリ!」
「無事なわけないでしょ、魔力を削られた」剣撃の直後、咄嗟に治癒の高等魔法ジャスト・ヒリングを発動し、3分の1の魔力と引き換えに傷を治癒した。
「本当にツバキなのか.........あんな魔法を隠し持ってたなんて.........」未風山での時とは打って変わり、魔法を駆使して闘うツバキに驚愕する健人。
「アイツは魔力が殆どない、全て聖剣から出している」息を整えながらこれまでの闘いを冷静に分析するオトギリ。「にしてもさっきからタイミングが良すぎる.........空虚の壁なんてツバキが知ってるわけがない」
「まだ邪魔する気.........恩人だからってこれ以上容赦しない!」ツバキは聖剣に付着した血を勢いよく地面に払い落とす。「これは私の使命.........私だけに許された権利なのよ.........」
「な、何が権利だ! 一丁前にそれらしい言葉言いや納得するとでも思うのか!」
「ジジィも楯突くなら容赦しないわよ.........」
「ツバキ.........1回冷静になってよ! こんな闘いのために聖剣を貸したんじゃないって!」
それぞれの主張がぶつかり合う中、耳を貸すことなく黙り込むオトギリ。彼女はツバキを止めるべく、頭をフル回転させある一つの可能性を導き出した。
「.........もしかすると、あの空虚の壁はツバキの意思ではなく、聖剣自らの判断で発現させたとでも言うのか」
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