第43話 ツバキの企み その2
「アンクル.........騎士団?」
「いやだいやだいやだ、捕まる捕まる捕まる.........!」
「つ、捕まる?! 何で?! 逮捕されるの?!」健人は自分の脚の上で怯えるツバキに事情を問うが、目に涙を浮かせ同じ言葉を繰り返す。
「どうしようどうしようどうしよう、いやだいやだいやだ.........!」健人は何とか体を起こして、ツバキから離れようと試みるが「いやだ! 行かないで!」ツバキに前髪を思いっきり掴まれる。
「いってー! 何すんだよ!」
「捕まるよ! 捕まるって!」必死で健人を制止させるツバキ。
「俺だって捕まりたくないよ! でもこのまま放っておく訳にも行かんでしょ!」この間にも、外から扉を叩く激しい音が部屋中に鳴り響いている。「とりあえずさぁ、外に出て対応した方がいいんじゃない?!」
「出たら捕まるって! 汚い牢屋に入れられて.........虫の死骸を食べながら一晩中悪いことさせられる.........」ツバキは感情の臨界点が壊れたのか、健人と話た後大粒の涙を流しながら大声で泣き始める。
「えぇ?! ちょっと.........えぇ!」目の前で、泣き喚くツバキに戸惑う健人。「あぁ、泣かないでよ! 怖いけど泣いたら俺まで泣いちゃうよ!」
あたふたしていると「今すぐ開けないか! 3つ数えるまで顔を出さないと、強行手段に出るぞ!」外からも催促される。
「いやだから待ってよ! どうすんだよ、泣きそうになって来た.........」目の前で泣き叫んでいる中、扉の向こうからカウントダウンが始まった。
「ひとおーつ!」
「あぁ〜もう!」健人は持っていた聖剣をツバキに押し付け「これ持ってて!」強引に退かし起き上がる。
「ふたーつ!」
床にある血の付いた物を速やかにベッドに乗せ、シーツで丸め「外から見えない所に隠れて!」ツバキを立たせる。
「みーっつ!」
「俺が応対するから! とにかく泣くな! 静かに!」そうツバキに告げ、足早に玄関へと向かう。
「ひっく.........ねぇ.........」
「なんだよ!」
「ぐす.........はだか.........」
「はだ? .........あぁ!」部屋の隅で隠れるツバキに指摘され、急いで部屋を見渡す。「あた〜えーと.........ごめん! 借りるよ!」紐にかけてあったピンクの寝巻きを着て、玄関へと飛び込み扉を開けた。
「通報を受けてやって来た! 朝っぱらから何を.........してんだお前は!」扉の向こうでは、鎧を身に纏ったスキンヘッドの男の騎士が、健人の姿を見た途端一瞬言葉を詰まらせた。
「いや〜こんな朝からご苦労様です〜」土壇場で健人が着た服は、ツバキが寝巻きで着ているピンクのワンピース。恥ずかしいと思いながらも、包帯を見られて詮索されるよりかはマシだと腹を括った。
「不審者か貴様!」
「違う! 俺は彼女の彼氏だ!」
「かのじょのかれし?!」
「ここに彼女と住んでんの!」
「自分がどんな格好をしているのか鏡で見たか? なぜ女物のパジャマを着てる?!」
「.........着たいものを着て何が悪いんだ! 俺は愛しの彼女のパジャマを着たい! 着ることで彼女と1つになったと感じるんだ!」
「.........何だって?」返答に言葉を詰まったが、ここまで来ればどんなくだらない理由でも押し通すしかない。
「いいか、俺が着る物を誰かに指図される覚えはない! これからも! 未来永劫! ずっとだ!」
「.........何なんだこいつ。恥じらいと言うものは無いのか.........お前には」健人の思想に全く共感できず、呆れる騎士。
「.........もう良いか? これから彼女とモーニングでね〜じゃそゆこよで」健人は無理やり会話を終わらせ、扉を閉めようとした時「ぎゃあ!」いきなり騎士が扉に指をかけた。
「この部屋が騒がしいって近隣の通報でここに来た.........これ以上俺たちに仕事を増やすな.........大人しく紅茶でも啜ってろ」恨みの籠った口調で健人に警告し、扉を離した。
「き、気をつけるよ〜あははは.........」健人は引き攣った笑いで送り出し、扉を閉めてツバキの元へ思い足取りで歩み寄る。
ベッドの陰に隠れていたツバキ。目の前で膝をついて放心状態となった健人を息を呑んで見つめる。
「なんか.........人間として大事な物を失った気がする.........」
「.........その服あげる」
「綺麗に洗濯してお返しします.........」健人は立ち上がり、寝巻きを脱いで紐にかけ直した。
徐にツバキの方を見る健人。すっかり泣き止み、落ち着きを取り戻したが、振り向いた途端聖剣を深く抱きしめる。
「.........ツバキ」
「.........さん、な」
「.........何でこんなことやったの?」健人はツバキと合わせ話し始める。
「.........渡さないから」
「それなりの理由があるんでしょ、全部話してよ.........」
「.........この剣をあげるって言うまで話さない」
「何度も言うけど、その剣をあげることはできない.........けど、少しは予想できるかな.........」健人の言葉を固唾を呑んで見守るツバキ。「奴隷商絡みでしょ、合ってる?」
「.........理由は」
「君、エルフでしょ。言われるまでわかんなかったけど.........耳の形を思い出して、納得したんだ」
健人に自分の正体がエルフであることがバレてしまったツバキは、膝に顔を埋めて塞ぎ込んでしまう。
「実は俺、エルフの村に住んでるんだ。エーデルワイス様って言うエルフが長を務める村。その村で、魔法を使って武具を作って暮らしてる」健人はツバキに自分はエルフと共に暮らしてることを話た。
とてもリスクのある行為だが、ツバキの目的を確かめるためにも、まずは自分の全てをさらけ出し信用してもらう。
「半年前かな、王都近くの村に武器を運んだその日の夜に、奴隷商村を襲撃されて返り討ちにしてやったんだよ。だから.........俺も奴隷商が嫌いだ。首謀者を目の前にして斬りかったよ、まぁ止めてくれたんだけど.........」
「.........本当の話し?」今まで塞ぎ込んでいたツバキは、顔を上げて健人の目を見つめる。
「全部本当だよ」
「.........嘘じゃないよね」
「嘘じゃない。本当の名前は香川健人、神殿にいたでっかい人はコロッサス。俺の師匠だ.........だから、ジェシーって名前は忘れて欲しい」
「.........やっぱり人間なんて信じない」
「く.........くぅぅぅ」もう少しで心が開けそうだったが、失敗してしまった。悔しさのあまり、思わず口に出してしまった。
「.........でも」
「んん?!」
「.........そこまで話したんだったら、今回だけは信じる.........」
「ほ、本当?!」身を挺した捨て身の説得に成功し舞い上がるも「じゃ、聞かせてくれる? 何でこんなことをしたのか」グッと堪えて、ツバキに目的を問う。
「.........復讐。王都の奴隷商を皆殺しにするの」
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