第47話 王都 a.m.09:46

 「もぬけの殻だな」散乱した部屋を物色するオトギリ。窓の近くに置かれた大量の武具からボロボロの剣を手に取る。「いい加減捨てろと言ったのに、まだ大事に持ってんのか」


 かつてオトギリがツバキのためにエンチャントした剣。オトギリにとっても、ある意味思い入れのある品物だ。


 「.........確かに健人はここにいた」


 「何か見つかったか?」オトギリはコロッサスの元へと近づき、突きつけられた血まみれの切られた服を見る。「結構な量だな」


 「3時間前まで健人が着てた服だ。俺の読みは正しかった.........」絹糸で作られたベージュの服。元はコロッサスの服だったが、健人に合わせてサイズを直した物。常に着てたため、見た瞬間わかった。


 「てことはこのベッドの血は.........あの小僧のものか」


 「チィ、一丁前に言ったことは守ってるみてぇだな。ここで手当したんだろう」


 「手当ねぇ.........」オトギリは床にあった包帯の切れ端を拾い「行った形跡はあるけど、あくまで応急処置程度。冷たくなって処理したのかも」


 「オトギリてめぇ!」話を聞いたコロッサスは激高し、オトギリの胸ぐらを掴み持ち上げる。「勝手に健人を殺すな!」


 「.........私はあくまで可能性を言っただけ。現に姿がないってことは、来る前に外に連れ出した」50cmもコロッサスに持ち上げられているが、顔色一つ変えず淡々と話す。「今はどこに連れ出しのかを考えるべきでは.........」


 「くっ.........!」コロッサスはオトギリを床に下ろし「言葉には気をつけろよ.........あの頃の俺が目覚めかけている」爆発した怒りを鎮める。「心当たりはあるか?」


 「.........シンドロームダウン。すぐ近くのスラム街。ヘイルストロームよりかは小さいけど、度々身元不明の遺体が遺棄されている」


 「何度も言うがケントを勝手に殺すな! そんなところ行ったって見つかるわけが.........」


 「話を最後まで聞け。あそこには奴隷商もいる」


 「奴隷商だと.........」


 「恐らくだけど、ツバキの目的は奴隷商を殺すこと。.........それが彼女の復讐だと、私は考えている」


 「復讐だと.........確か言っていたなそんなこと」


 「神殿で偶然見たツバキは思ったんでしょ、チャンスが来たって。今まで虐げられて苦痛を味わせるために.........ついでに死体をそこに捨てる。筋は通ると思うんだけど」


 「いくら言っても考えは変わらなねぇみてぇだな.........」


 「この血の量、医学に精通していないツバキが適切な処置を行ったとは思えない。そのケントとかいう少年が死んだ可能性はかなり高い.........まぁなんでも治る薬があれば話は別なんだけど」


 「薬.........そうだぜ薬だ! おいオトギリ! お前今まで何ボケーっとしてたんだ!」


 「別にボケーとはしてないけど.........」


 「アイツは傭兵だろ! 常に体張ってるから、薬の1つや2つ常備してるだろ!」


 「まぁあるけど.........病院で処方される以外のものって、効き目が薄い気が.........」オトギリの言葉などに耳を貸す暇もなく、再び部屋中を物色し始める。


 「薬が見つかれば健人が生きている可能性はある.........! どこに隠してる?!」


 「必死だな.........」


 「お前も探せ! あっちの方探してこい!」コロッサスは台所の方を指差し、突っ立っているオトギリを探すよう指示を飛ばす。


 「ていうかシンドロームダウンに行った方が早いし確実では? 死体があれば死んでいる、無ければ生きている」


 「いいから探せ!」


 「.........アイアイサー」根負けしたオトギリは、仕方なく言われ通り台所に向かう。


 身長よりも高い位置にある戸棚を、魔法陣を出現させ離れた位置から開けた。「あれは.........」様々な形にコップの前に置かれた茶色の瓶。そのまま魔法で浮かせ、オトギリの元へと手繰り寄せる。「コロッサスー。お目当ての物があったぞー」


 「何、本当か?!」オトギリの声を聞きつけた、一目散に台所へ駆け寄る。「おぉ、この薬は.........!」


 「え、わかるの?」


 「いやわからんが薬であること間違いねぇ!」


 「まぁそうだよね」オトギリの見つけた錠剤の入った小瓶に表記は無く、どういった薬なのかはわからない。


 「ちょっと飲んでみろ」


 「やだよ、医者から処方された薬しか飲まないと決めてるの」結局薬の正体はわからず、オトギリは瓶を元の場所に戻した。「もう気は済んだ? これ以上探しても、手がかかりになる物は見つからないと思う」


 「それは.........そうなんだが.........」


 「シンドロームダウンに向かえばはっきりする。怖いかもしれないけど、現実を受け入れなければならない時もある」


 「.........わかったよ」弱きになるコロッサスを説得し、2人は玄関を出てシンドロームダウンへと向かい始める。


 階段を降りて1階へ向かう途中、1人の鎧を着た騎士とすれ違う。「全く.........あの変態ども。また苦情だよ.........」ぐちぐちと独り言を呟きながら階段を上がって行く。


 「何かあったの?」オトギリはなんと無くその騎士に声かける。


 「4階の22号室の変態がうるさいって通報を受けて来たんだ。これで2回目だよ.........なんとか逮捕できんもんかなぁ.........」


 「22号.........室だと?!」


 「それって何時頃?」


 「あんたら知らないの? 9時ごろだよ、ノックしたら女装したガキに説教喰らったよ。火事の次は変態の苦情処理.........今日は振り幅が激しいなぁ.........」そう言い残し、騎士は重い足取りで階段を上って行った。


 「聞いたか! あいつの話が本当ならば、健人は生きてる! 急ぐぞ!」生存の希望が見えたコロッサスは、オトギリを抜かし我先にギルデンハイツの外へと出る。


 「ちょっと、場所わかるの?!」急いで後を追うオトギリ。何とか追いつき、シンドロームダウンへと案内する。


 シンドロームダウンはここから15分の場所に位置する。近くにスラムがある関係上、馬車の姿はほとんど見えない。仕方なく走って向かうこととなった。


 ひたすらシンドロームダウンに向かって走る2人。「もうそろそろ着くはずだけど.........なんかやたら人が多い」


 「なんか人が多くねぇか?!」近づくにつれ、辺りの治安が悪くなっていく道。普段は人など殆どいないはずなのに、今日に限っては人でごった返している。


 人混みをかき分け、なんとかシンドロームダウンへと辿り着いた2人。


 「なっ?!」


 「一足遅かったか.........」


 入り口では屈強な騎士たちが凛々しく立っている。その奥では、小さな建物が炎に包まれ黒煙が上空へと上がっていた。


 「離れてください! 現在消化活動中です!」


 「おい鉄塊ども! 一体何があったんだ?!」


 「見てわかんないの?! 火事だよ火事! 消化活動が終わるまで、立ち入りを禁ずる!」

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