第56話 クルツ0302事件捜査会議

 健人の取り調べを終えた翌日。捜査会議を行われることとなり、出勤して早々マルタ捜査官は第三会議室で始まるのを待っていた。


 会議開始まで5分。職員たちが会議に参加するため続々と部屋に入る中、前方の席に座り静かに資料に目を通していた。


 「よっ」


 「あ、おはようございます」相棒に当たるライオット捜査官が気さくに挨拶し隣に座って来た。「あの.........手は尽くしたんですが.........」


 「報告書で読んだ、俺に任せろ」ライオット捜査官には何か秘策があるのかマルタ捜査官に一言告げると、奥からアレン主任捜査官が入室して来た。


 「おはよう諸君」挨拶を交わすと皆一斉に立ち上がり、右手を心臓に添え敬意を示す。「全員揃ってるな」最前列に用意された専用の席に座ると「ではこれより、クルツ0302事件の捜査会議を始める! マルタ捜査官、事件の概要を」高らかに声を上げ捜査会議の開始を宣言する。


 「はっ!」資料を持つとマルタ捜査官以外着席した。「事件は一昨日の3月2日、容疑者のケント・カガワ氏は午前10時ごろ。シンドロームダウンにて奴隷商のヨーデル氏とその側近を殺害、屋敷を放火。焼け跡からエルフの焼死体が7体確認されました。その後ヘイルストロームへ移り同じ犯行に及ぼうとしましたが、奴隷商のカマル氏に阻止されました。午前11時ごろヘイルストロームを出て国税庁に向かう道路で被害者のオトギリ氏とコロッサス氏と鉢合わせ、激しい戦闘の末オトギリ氏は重症を負い、コロッサス氏は殺害されました。ケント氏は逃走を企みましたが、偶然通りかかったツバキ氏によって馬乗りになっている所を通報を受け現場に駆けつけた捜査官によって身柄を確保されました。以上が事件の概要です」


 事件の概要を説明し終えたマルタ捜査官は着席した。

 

 「ご苦労。アッシュ捜査官、容疑者の身柄を拘束した時の様子は」


 「はっ!」指名された男性捜査官が立ち上がり「ツバキ氏によって首を絞められ、意識が朦朧としていました」当時の様子を話す。「意識を取り戻すまでの間に身体検査を行ったところ、右の脇腹に小さな外傷がありました。刃物による傷で包帯が巻かれていたため、事件前による傷だと思われます」


 「事件によって出来た外傷などあったか?」


 「いいえ確認できていません」


 「報告によると、凶器といった類の物は発見されていないそうだが」


 「ヨーデルを除く3人の被害者に刃物による外傷が見られました。傷から採寸し、長剣であると判断しました。しかし現場にはコロッサス氏の腕が握られた長剣しか存在せず、傷と照合しても一致しませんでした。現在総力を挙げて捜索中です」


 「凶器が不明ですか.........少々厄介ですね」今回の事件、健人が容疑者である証言は存在するがそれを証明する証拠がまだ見つかっておらず、容疑を確定するか否か頭を悩ませていた。「これはあくまで私の推論だが、容疑者が魔法を使って隠蔽したとは考えられないか?」


 「それはありえません!」マルタ捜査官が立ち上がり、真っ向から否定する。「昨日の取り調べで彼は言っていました、魔法を使えるようになったのは今から10ヶ月ほど前です。コロッサス氏から魔力を譲渡され、限られた魔法しか使うことが出来ません」


 「確か報告書には4種類の魔法が記載されていましたね。パスコン、フレム、マグネ、武具錬成」


 「嘘ついて隠してる可能性があるかもしれないぜ」隣で聞いていたライオット捜査官が口を挟む。


 「ちゃんと供述書に署名させました。偽証をすれば罪が増えることも伝えてあります」マルタ捜査官は資料の中から健人のサインが書かれた書類をライオット捜査官に見せる。「容疑者とコロッサス氏は師弟関係に当たります。2人の関係は良好であり、殺害する動機はないと考えられます!」


 「故に容疑者には動機はなく、証拠不十分で無罪。事件は迷宮入りでめでたしめでたしってか」


 「特に容疑者は未成年でもある。誤認逮捕で冤罪でしたは話になりません。最悪の場合、組織そのものが解体される危険性もある」


 「そりゃ完全潔白の場合はそうかもしてねぇがなぁ.........あのガキは黙秘が多すぎる。出生地、所在地、家族構成、王都に来た理由その他諸々報告書で読んだが怪しすぎる!」ライオット捜査官は気が荒ぶり机を思いっきり叩きつけ「俺は捜査の続行を希望する。この事件だけは白黒ハッキリしなきゃならねぇ.........」アレン主任捜査官の目を睨みつける。


 「ライオット捜査官.........そこまで言うのなら、何か確信があるのですか?」アレン主任捜査官は机に肘をつき、強い眼差しを向ける。


 「捜査官の勘だなんてほざくつもりはねぇ。昨日マルタが取り調べを行っている最中、俺は騎士病院でオトギリを締め上げた」


 「締め上げたって、確か医師の診断では意識不明だったはずじゃあ.........」


 「最初は見舞いのつもりで病室を訪れたんだが、いざ入ってみると奴はベッドから出て右腕の包帯を解いてやがった。粉砕骨折で紫に腫れた右腕は元の肌色に戻っていた」


 「ウソお?!」


 「ライオット捜査官! そんな重要なことは報告書にまとめて私に提出しなさい!」


 「報告書を見たら絶対捜査を打ち切るはずだ! だから俺は黙ってたんだ.........」ライオット捜査官の口から話す衝撃の事実に、会議室にいる職員が一斉に騒めき始める。「奴は俺に慌てる素振りなんて見せなかった、聞くと病院に運び込まれた夜には意識が戻ったらしい。医者を上手く丸め込み、俺たちに嘘の診断結果を伝えやがったのさ」


 「そ、それで! オトギリさんは何か言いましたか?! まさかケントくんが犯人だなって言いませんでしたよね?!」


 「.........ハッキリ言ったさ、あのガキは無実だって。それどころか犯人は別にいる、必ず連れてくるから少し時間をくれ。そう言って窓から逃げようとしたが、国家権力に歯向かうのかと脅したら、素直に包帯巻いてベッドに戻ってった」


 「はぁ.........よかった.........」


 「俺はオトギリの話を聞いてさらにわからなくなった。だから俺はこの事件をうやむやに葬る訳にはいかねぇ! 俺に時間をくれ.........必ず真相を暴いて見せる! マルタと一緒にな」


 「え? 私も一緒ですか.........」


 「.........なるほど」アレン主任捜査官は少しの間頭を悩ませ「わかりました。1週間あげます。その間に犯人を見つけられなければ、この事件の捜査を打ち切ります。よろしいかね、ライオット捜査官」


 「あぁ、構わん」


 「皆も異論は無いかね」他の捜査官達にも意見を傾けるが、誰も反論の声を上げることはなかった。「うむ。それではクルツ0302事件の捜査会議を終える! 2人に吉報に期待する」

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世界を狂わす黒剣 タコス総督 @takosu

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