第39話 最善の答え

 ボイド・キル・ストーム。オトギリ曰く、風の魔法の中で頂点に位置する最高魔法。習得が極めて困難なうえ、現行14世紀闇の時代を記した書物でしかその存在が確認されていない。


 「どんな魔法なの?」


 「確か資料には.........対象を透明な球体に閉じ込め、台風みたいな風で死ぬまで斬り刻むんだとよ」


 「なんかどっかの魔法に似てるような.........」


 「まぁ、カゼキリの上位互換って言った方がわかりやすいかなぁ」


 「あぁ〜あれか」健人は何かを思い出し、右足の太ももを抑える。「でも俺習得してないし、使えるの?」


 「聖剣の中に秘められてるんだとよ、持って詠唱すれば誰でも使えると書いてある」


 「なるほどね」


 「とりまあの岩石を狙って撃ってみてくれ」


 「了解」健人は聖剣の剣先を、コロッサスが指定した岩石に向け「じゃあやるよー!」合図を送る。


 「おう!」


 息を整え「ボイド・キル・ストーム!」魔法を詠唱した。聖剣は光だすと、剣先を向けた岩石は透明な球体に包まれる。その中に発生した小さな台風が勢いよく回転し、岩石を斬り刻む。


 ものの数秒で砂粒ほどになった岩石が球体の中で風に煽られる。健人は魔法を解くと、球体と風は消滅し、舞った岩石の粒が地面に落ちた。


 「で、きちゃった.........!」


 「あぁ、資料に書かれた通りだ.........」


 「てことは!」


 「こいつは聖剣だぁー!」コロッサスの叫びがこだまし、2人は歓喜のハイタッチをかわす。


 「やったぞー! ついに聖剣を作ってやった!」


 「本当にやりやがったなこんちくしょーが!」コロッサスは興奮のあまり、健人の頭を撫でる。「おめなんなんだよ! ちょっと前まではきったねぇー塊しか作れなかったくせによ!」


 「いてぇーよコロッサス! 褒めるならもっと言葉選べよ!」


 オメェわかってんのか?! 世界史上初めて聖剣を作った男だぞ! 呪いなんて無きゃ、俺がその座をいただきてぇよ!」


 心の底から喜ぶコロッサス。「何勘違いしてんだよ! 俺たちで造ったんだよ!」いつもの高笑いに加え、健人を抱きかかえぶん回す。


 「待って! 当たる! 足が風神石に当たるって!」まるで巨人が人間をおもちゃにして遊んでいるように見えるが、不思議と親子のようにも見えてくる。


 「うぉ.........こ、腰が.........!」


 「おぇ.........鼻から胃液が出そう.........」元から似たもの同士なのかもしれない。


 「.........ありがとよ、


 「.........あぁ。俺もだよ、コロッサス」


 お互いに心の気持ちをぶつけ合う2人。「.........な」しばし流れる沈黙に耐えきれず「なーもう別の意味で死にそうだ!」耳を真っ赤にして声を上げる。「俺の中の創作意欲がはち切れちまう!」


 「お?!」


 「俺には夢がある! お前も漢なら憧れるだろ.........ダイヤモンドの剣」


 「おぉまさか?!」


 「ここには腐るほどダイヤが存在する!」コロッサスは勢いに身を任せ、ダイヤの眠っている岩石を指差した。


 「やっちゃうの.........んが!」コロッサスの視線先に何かを見つけた健人は、急に我に戻る。


 「んがってなんだよ! 調子狂う.........ぜ」


 「.........なんで、ここに.........?!」健人は木陰に隠れてこちらを見詰めるツバキを見つけてしまった。


 気づかれてしまったツバキは、木陰から出て恐る恐る2人の元へと歩み寄る。


 「いつのまに.........?」健人が発した後、コロッサスは飛び出し、ツバキ前で剣を構える。「待って! やめろ!」


 「きゃあ!」いきなり剣先を突きつけられ、驚きと恐怖でその場に腰が抜ける。


 ツバキを睨み殺意に満ちた顔を見せるコロッサス。「やめろ! 落ち着けよ!」遅れてやって来た健人が、間に入る。


 「いつから見てた」コロッサスはツバキに問うが。


 「何も見てない。そうだよねツバキさん」健人が必死にツバキを庇う。


 「おい、その剣聖剣を渡せ」


 「やだ渡さない! 剣を下ろすまで渡さないからな!」ツバキは呆然として2人のやりとりを聞くことしかできない。


 「そこを退け、俺はそいつに聞いてんだ」


 「退いてどうする、彼女を殺すのか?!」


 「返答次第だ、ここで起きたことは王都の人間に知られては困る」


 「彼女は無害だ! わかった! 俺が話す、剣は鞘に収めていつでも使えるように左手を添える。これでいいだろ?」健人は聖剣を鞘に収め、必死にコロッサスを説得する。


 「.........はぁ」コロッサスは根負けし「おかしな真似したら、すぐに斬るからな」とツバキに忠告して後ろに下がった。


 「ありがとう.........ありがとう.........」コロッサスが下がったのを確認した健人は、ツバキの方を向いて「落ち着いて.........あなたを、傷つけるつもりは無い」殺意が無いことを説明する。


 「.........何者なの」


 「その前に、いつからいたのか聞かせてくれる?」


 「.........何者なのよ、あんた達!」ツバキは震える声で健人に叫ぶ。「私はジェシー君の剣を返しに来ただけなのに! なんで剣を向けられるのよ!」


 「退け!」乱心したツバキを見て、斬りかかろうとする。


 「待って! 殺さないで!」健人は身を挺してツバキを守る。「安心して.........誰も君を殺させない」優しくツバキを落ち着かせようとする。


 「.........本当にジェシー君なの.........」震える瞳孔で健人を見つめる。「あんた誰なの.........」


 「.........俺は.........」


 「よせ、それだけは言うな!」


 「ねぁ.........誰なのよあんた.........」


 前後の声に挟まれる中、健人はある決断を迫られている。ツバキに正体を明かすのか、明かさないのか。緊迫の中、最善の答えを考える健人。


 彼の出した答えは.........

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る