第38話 聖剣・アトラカヨトルの剣

 「おい、どう言うつもりだ?!」


 「.........別にいいだろ、俺たちは探検家じゃない」


 「どうせ、奴隷商の資金源になるのがオチだ」


 「力になりたかった.........ただそれだけ」


 本当は保護してあげたい。しかし得策ではいないとコロッサスに止められた健人は、せめてものほどこしでツバキにリーフストーンをあげた。


 風神石に向かう途中、徐にリュックサックの中から資料を取り出して読む健人。パラパラとページをめくり、聖剣の描かれた絵画を眺める。


 「ねぇコロッサス」


 「なんだ?」


 「素材を特定したのってオトギリさんだよね」


 「そうだな」


 「あの人もこの絵画を見たんだよね」


 「あぁ、王都にもこれと同じ模写があったからな」


 「今見たんだけど、少し鍔の部分の色違くない? 絵のやつは緑で、俺たちが造ったやつ少し青くないか?」


 「ううん? どれどれ.........」コロッサスも資料取り出し、健人が造った聖剣と見比べる。


 確かに健人の言う通り、パライバトルマリンを使った聖剣は、絵と比べて少し青みがかかっていた。


 「素材が違うんじゃないのかな?」


 「オトギリが? そんな凡ミス起こさないと思うけだな.........」


 「1回さぁ、鍔の部分をリーフストーンに変えてみない?」


 「リーフストーンにか」


 「試しに」


 「まぁ、お前が言うのなら。試しにやってみるか」コロッサスは健人の提案を受け入れ、つるはしを持ってリーフストーンの原石へと向かう。


 「鍔に使うなら、かなりの量がいるなぁ。子体1個まるまる使う羽根になる」


 「幸いここには沢山あるよ」健人は母体に傷が付かないよう、慎重につるはしを子体を採取する。


 「しかしオトギリがミスをしたとは思えん。特に目に異常があるとは聞いてないが」


 「もしかしたらだけど、オトギリさんの見た絵の配色が間違ってたのかも。誰も模写してないオリジナルを見てないから」


 「あぁ〜無きにしも非ずかも」


 「それか直射日光の当たる場所に置いてたりして」


 「まぁ、王都の人間結構大雑把だからなぁ」


 「コロッサスみたいに?」


 「俺はどっちかと言うと繊細だろ!」


 「パンのカビ取って食べてるくせに? 一応あれ見えてないけど中まで繁殖してるからね」


 「でもブルーチーズはバクバク食べてたろ。一丁前に、って言いながらばあさんと呑み交わしてたろ。酒は20からだぞ」


 「でもエーデルワイスさんは何も言わなかったよ」


 「まぁ.........ばあさんが法律治外法権なところあるからなぁ」2人はしょうもない話をしながらリーフストーンを採取し終える。


 1つの子体を細かく砕き、リュックサックに詰めて風神石まで戻る。健人は聖剣を武具錬成で素材に戻し、集めたリーフストーンをパライバトルマリンの代わりに並べ、魔法をかける。


 「リーフストーンだったところはどうする?」


 「あっ、特に何も考えてなかった.........」すでに武具錬成は始まり、素材が1つになり剣の形へと形成されていく。


 「まぁ後で考えるか」


 「そうだね.........あっ!」武具錬成を終え、出来上がった剣を見た健人は興奮してコロッサスに見せる。「見て! コロッサス!」


 「おぉ! 光ってるぞ!」剣身の風神石と鍔のリーフストーンが互いに共鳴し合い光を放っている。


 「これ共鳴だよね! 魔力が宿ってるよ!」


 「まさか本当に素材が間違えてたとはな.........」


 「完成したんじゃない!」


 「いや、尖った部分がないから完成とは言えない! でも1歩前進だ!」


 「すぐに特定しよう!」健人は聖剣を地面に置き、2人は再び資料の絵画を血眼で見詰める。


 「この尖ってるのは一体なんなんだ! オトギリはリーフストーンって言ってたぞ」


 「やってみる?!」


 「そうだな、やってみよう!」


 健人は再び聖剣を素材に戻し、小さなリーフストーンを加えてもう一度武具錬成を行う。


 再び剣となった聖剣と絵画を見比べる2人。


 「それぽいけど.........」


 「今度は尖った部分の色が濃いぞ?」鍔部分は絵画と瓜二つで間違いないが、使用者側に付いている尖ったパーツが光を放っているため、鍔部分の光と合わさり絵画より濃い色となっている。


 「こうなるとリーフストーンじゃないのか」


 「今度こそパライバトルマリンじゃないのか?」


 「それだともっと濃くなる、絵画のは鍔と同じ色だ。もっと薄い、リーフストーンの光と合わさっても、色が変わらないもの.........」


 「あるとすれば.........」


 「.........透明な鉱石! コロッサス!」


 「あれでやってみよう!」2人は風神石を離れ、最初に割った岩石の元へと走る。


 「これだ、ダイヤモンド!」


 「小さいやつを探せ!」2人は2つに割れた岩石の中身から、小さなダイヤモンドの原石を探す。「これでいこう?!」コロッサスは欠けた親指ぐらいの原石を健人に見せる。


 「だね!」急いで戻り、再度聖剣を素材に戻して「上手くいってくれよ」望みを賭け、ダイヤモンドを並べて武具錬成を行う。


 素材が溶けて1つとなり、剣の形へと成形されていく。


 出来上がった剣の見た目は申し分ない、絵画と瓜二つ。風神石とリーフストーンは共鳴し合い光発する。リーフストーンの光がダイヤモンドに流れ込み、緑色の宝石へと変化する。


 「今度こそ.........完成か?!」健人が聖剣を握り、天に掲げた瞬間。凄まじい豪風が剣から発せられ、神殿中に吹き荒れる。


 「い、今までにない反応だ!」


 「いつまで続くのこれ!」


 「とりあえず振り下ろしてみろ!」


 「なんで?!」


 「なんかみんなやるんだよ! カッコイイのか知らんが!」

 

 健人は言われたままに、聖剣を地面に向けて振り下ろした。すると今まで聖剣から発した豪風の風向きが変わる。


 「向きが.........変わった? うわっ!」


 「うぉお!」


 「きゃああ!」


 豪風は轟音と共に聖剣へと風向きを変えて吹き、聖剣がその風を取り込む。


 その威力の中、コロッサスが立っていられず風神石にしがみつくほどだった。


 「平気なのか?!」


 「腕がプルプル震えてるけど、なんとかなってる!」


 しばらくの間、風を取り込む聖剣。やがて風がなくなると、先ほどよりも強い光を発する。


 「終わったのかな?」


 「.........とりあえずもう一回振り下ろせ」


 「意味あるの?」


 「知らんけどみんなやるんだよ! 魔法使った後なんか、シュッって決めんだ」


 「シュッ.........ねぇ」内心ダサいと思いながら、言われた通り横に振ってみる。「完成したんです.........か!」振った途端、聖剣から一瞬だけ光が放出されたっきり。何も反応を示さなくなった。


 「剣に聞いてみた分からんだろ。どうなった?」


 「.........壊れたかも」


 「何?!」


 「だって共鳴しなくなった!」コロッサスに光らなくなった聖剣を見せる。


 「そんなわけないだろ、ちょっと魔法撃ってみろ」


 「やってみようか」健人は壁に剣先を向け「フレム」魔法を詠唱すると、聖剣が光だし剣先から凄まじい炎が噴出した。


 「おぉ、なんて火力だ! 見ろ、ちゃんと光ってるぞ」


 「本当だ!」健人も確認し、魔法を解いた。「魔力を使うと光るんだ」


 「じゃあ次に.........この魔法を試してくれ」コロッサスは資料に書かれた呪文を健人に見せる。


 「これは?」


 「完成したらこの魔法は使えるか試してくれって言われてよ。オトギリ曰く、この魔法が使えたら聖剣と認めていいとさ」


 オトギリが資料に載せた魔法。その名は「ボイド・キル・ストーム?」


 「風の最高魔法だとさ」

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