第37話 現実へ戻される時

 「.........みみ.........?!」健人からの言葉に、動揺しツバキは両手で耳を押さえ見つめる。


 「さっき倒しちゃった時に見ちゃって。怪我か何か?」


 「.........まぁ」ツバキの瞳孔は開いていた。自分のコンプレックスであり、知られてはいけない。様々な考えが頭の中で動きまる。次第に右手が鞘に収めた剣へと伸びていく。


 「.........苦労してるんだねぇ。僕と同い年なのに」


 「.........えっ?」


 「えっ?! 違った?」


 「違うわよ!」健人を軽く突き飛ばし、全力で拒否するツバキ。


 「う、うわっ!」健人は後ろによろける。


 「私年上だから! 経験豊富だから!」


 「はい?」健人はツバキが何に対して激高しているのか分からなかった。


 「わたし24! あんた年下!」


 「そ、そんな強調して言わなくても.........」


 「はぁ.........! はぁ.........! わかったかガキ?!」


 「はい.........随分離れてることがわかりました」


 「はぁ.........はぁ.........えっ? そんなに?」


 「俺まだ16なんでだから.........」


 「み.........未成年だったの?!」


 「.........うん。ちょっと無邪気な感じだったから、同い年ぐらいかと思ってた.........」


 「.........はぁ〜」驚愕の事実を知ったツバキは、全身から一気に力が抜け「なんてことを.........」と、かすれた声と共に、地面に腰をつく。


 「あの、大丈夫.........?」健人は気の抜けたツバキに手を差し伸べる。


 「.........う、うん」手を取り、立ち上がる。「なんかごめん.........雑に扱って」


 「え、いや、気にしてないよ」子供に優しい世界で良かったと、しみじみと思う健人。


 しかし情緒が不安定なツバキが少し怖いとも思っている。

 

 「じゃあ、ウォルターさんはお父さん? お小遣いのために手伝いを?」


 「いや.........そ、そう。何かと好奇心旺盛な時期だから、それなりに」


 「へ〜言われてみれば、鼻筋とか似てるね」


 「はは、よく言われんだ.........」内心、絶対に無いと思う健人。「ごめん、さっきは変なこと聞いて」禁句に触れてしまったことについてツバキに謝罪する


 「ううん、いいの。けどね、世の中には私みたいな者もいるってこと、忘れないでね」


 「どう言うこと.........?」


 ツバキは壁にもたれかかり、自分のことについて語り始めようとした時「そこまでだ」遠くからコロッサスがやって来て「もう充分だろ」ツバキに出ていくよう伝える。


 「ちょ、もうちょっとだけ、何か話そうと」コロッサスは健人の腕を引っ張り、自分の元へと引き寄せた。


 「これ以上入れちゃ作業が進まん。お前さんも仕事が残ってるだろ」


 「.........そうですね。急がないと納期に遅れちゃう!」ツバキ気持ちを切り替え、壁から離れ「お陰でいい土産話ができました! また機会があれば、是非!」


 「そうだな、前向きに検討させてもらうぜ」


 「じゃあ.........バイバイ、ジェシー君!」そう言い、健人に別れを告げ出口へと歩き出す。


 「まだ話してる途中.........」


 「もう忘れろ」納得のいかない健人に、コロッサスは耳打ちで「あいつは故郷を捨てたエルフだ」耳を疑う事実を告げる。


 「な、なんだって?」今にもツバキに向かって走り出しそうとする健人。コロッサスは力一杯腕を掴んで離さない。「離せよ」


 「離してどうする?」


 「保護するんだよ」


 「やめろ、バックに奴隷商がいる。あいつは奴隷商の資金源のために無理やり働かされている」


 「なおさらじゃんか?!」


 「聞け、奴らは魔法でエルフの座標がわかる。もし連れて帰れば、村が奴隷商に襲われる」


 「ぐっ.........?!」


 「仮に聖剣が出来て奴隷商を倒したとしても、俺たちの居場所がなくなる。いくらばあさんでも擁護できん。俺たちを処刑する」


 「ぐっ.........最初から知ってたのか?」


 「.........心が痛むが、忘れろ」コロッサスは腕を離し「さぁ、ちゃっちゃと作業に戻るぞ! 早いとこ解決しねぇとなぁ」わざと声を張って、健人を本来の目的に戻そうとする。


 遠のくツバキの背中を静かに見つめる健人。「.........そうはさせないぞ」健人は振り返り、風神石まで急いで走り、自分のリュックサックを持って、ツバキの元へと駆け寄る。


 「何する気だ?!」


 「待って! ツバキさん!」


 「うん?」


 「.........はぁ.........はぁ.........」


 「ど、どうしたのよ?!」


 「はぁ.........これ!」健人は息を整え、リュックサックの中から2つのリーフストーンをツバキに差し出す。「王都にも武器職人はいるはず、これで剣を造って」


 「えっ?! りーふすとーん.........だっけ?」


 「いないなら、売って足しにして」


 「でも、持ち出しちゃダメなんじゃ」


 「いいから受け取って!」強引にツバキに手の中に捩じ込むと、何も言わずに神殿の中へと戻っていく。


 「ちょっとジェシー君! 怒られても.........後じゃ絶対に返さないよ」ツバキは疑問を抱きながらも、出口へと再び歩き出す。

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