第19話 戦争開幕

 火球はアプルの目の前にまで迫っていた。「風よ! 脅威を排除しろ!」危機迫る中、エーリッヒが魔法で空へと続く巨大な豪風を出現させ、火球を空高く打ち上げる。


 「平気か?!」


 打ち上げられた火球は村を覆う木々を突き破り、森の上空で轟音を響かせ破裂した。


 「あぁ.........一体誰だ! 警備はどうなってる!」


 分散した炎の残骸が上空から森に降り注ぐ。


 「マズいぞ.........」


 この時期。雨は滅多に降ることはなく乾燥した日が続いた為、火の周りが速く瞬く間に村中に火の粉が舞い広がっていく。


 「消火だ! 村が全焼するぞ!」アプルの怒号で兵士たちは慌てて水の魔法を使って消火に取り掛かる。


 「健人!」取り巻きが離れたことで自由になったテカラは健人の元に駆け寄る。「大丈夫か?! 速く安全な場所に.........!」


 呆然と立ち尽くす健人。目線の先には巨大な火球で無惨な姿になった森。その抉られた地面から1人の人影が村の中に入ってくる。


 黒い革のコートを羽織った坊主頭の男。その背後には手下と見られる大勢の人間を従えていた。


 「なぁ.........あいつ人間だよな」健人は視線の先を指差してテカラに伝える。


 「テカラ! その子を連れて隠れてろ! あの輩は奴隷商だ!」


 「そうか、なら丁度いいや」エーリッヒがテカラに伝えた途端、健人は奴隷商の元へ近寄る。「おいコラハゲ! オメェのせいで人間様の評価がだだ下がりしてんだんだよ!」何を考えているのか、突然男にいちゃもんをつけ始める。


 「うん? なぜ人間がここにいる」男は健人に気付き疑問を抱く。


 「俺はお前と違って下衆な思考回路を持ち合わせてなんだよ、この人間のクズが!」全身から溢れ出るアドレナリンの影響で気が高まっていた。いつもはあり得ないが、右手に魔法陣を出現させ男に向かってフレムを放つ。


 「バカ! よせ!」テカラが制止しようと声を荒げた瞬間。男は俊敏な動きを見せフレムをかわし、健人の横に回り込んだ。


 男は拳を構え、目にも止まらぬ速さで健人の腹部に狙いを定める。「邪魔だ、死ね」


 繰り出される素早い拳が腹部に到達する寸前、間一髪健人の元へ辿り着いたテカラは、服の襟を掴んで後方に思いっきり引っ張ってかわした。


 そのまま健人を放り投げ、腰の鞘から剣を抜き男に向かって斬りかかる。


 斬撃と共に発生する突風。男はそれをかわし、テカラと距離をとる。


 両者互いに見つめ合う。男は次の一手を冷静に見定める中、テカラは健人を掴み空高く舞い上がる。


 「あの男.........ただ者ではない!」男がただ者ではないと判断したテカラは、足元に魔法で風を出現させ桟橋に着陸した。「今は健人の安全を最優先に!」桟橋を走りまだ火が回ってない建物まで全力で走る。


 「まずは邪魔な男を殺せ」これが開戦引き金となったのか、男の手下が一気に村の中へと雪崩れ込んでくる。その数50。武器を構えた手下は消火作業に追われた兵士に斬りかかっていく。


 「人間如きが! この村を汚すなァ!」」アプルは間髪入れず男に斬りかかっていく。


 「ぐうっ.........雑兵を片付けたら私も加わる!」男をアプルに任せ、エーリッヒは魔法で手下を1人づつ交戦していく。


 村は一瞬にして戦場と化した、至る所で剣が交わり火花が散り、互いに多くの血が流れていく。


 安全な建物に到着したテカラは健人を置いて、入ってこれないよう中の家具を持ち出しドアの前にバリケードを作る。


 「コロッサスが心配だ!」建物から降りてコロッサスの捜索を始める。「コロッサス! 無事なら返事をしてくれ!」


 地面に降りたテカラはコロッサスを呼びながら捜索する。「居たら返事をしてくれ! どこだぁ!」

 

 「見ろ! 女だ! 武器を持ってるぞ!」


 「ここの兵士は男しかいないはずでは?!」


 男の手下がテカラを見つけ殺すかどうか話し合っていた。テカラそれに気づくと、なんの躊躇もなく剣で斬りかかる。


 「邪魔だ!」華麗に一斬りで倒した。「返事をしろコロッサス!」


 「ここだ! テカラ!」テカラの声を聞いたコロッサスがテカラに近づく。


 「無事か?」


 「あぁ、まさか殴り込んでくるなんてな。処刑された下っ端そんなにお気に入りだったのか」コロッサスの手に持った剣には手下の血が付着していた。襲われたところを返り討ちにしたのだろう。「それより小僧は?」

 

 「木の上の建物に避難させた。気が高ぶってたせいで奴隷商と戦おうとしてた」


 「へっ、ゴキブリも殺せない奴がよく挑もうとしたもんだ」


 「私が間に合っていなかったらと思うと.........考えたくない。あの男、私が見てきた人間の中で1番強い」


 「下っ端にそんな奴いたっけかな? 傭兵でも雇ったかぁ。そいつどんな奴だ?」


 「坊主頭で全身黒の服を着てた。尋常じゃない速さで健人を殴ろうとした」


 坊主で黒くて速い? おいちょっとそいつに案内してくれ?!」


 「バカ! 死にたいのか?!」


 「遠くからでいい。気づかれないようにそっと確認するだけだ」コロッサスの正気ではない行動に驚きを隠せないテカラ。「顔見知りだったら説得できるかもしれん! 頼む!」


 「くぅ.........わかった、私から離れるな」テカラに連れられコロッサスは遠くから男を観察した。


 男はアプルと交戦中。素早い身のこなしと重い腰の入った拳がアプルを追い詰めていた。打撃で鎧が凹み、所々に破損が見られる。


 「間違いねぇ.........だ!」


 「知っているのか?!」


 「奴は王都の奴隷商のトップだ! こいつが来ていたのか.........」


 「説得できそうか?」


 「んなもん出来るわけないだろ!」


 「さっきは出来るって言ってただろ! それがダメなら何か弱点とか、あの速さの対処法とか」


 「俺は知る限りじゃ、あれより更に速いスピードで戦うことぐらいかな」


 「あれより速くって.........」


 「もしくは。お前とエーリッヒと今戦ってる奴の3人で協力すれば.........なんとかなるかもしれん」

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