第16話 格の違いを見せてやる
16世紀中期。グラハム・アインス・ベルの開発した、魔法動力遠隔通信機関の普及により王都の生活は格段に進歩した。それまで文通が主流だった遠距離通信の概念を塗り替えた。
1夜にして巨額の富を手にしたグラハム・アインス・ベルは王都の財政を担うアインス・ベル財閥を築く。
財閥の末裔であるオトギリは幼少より魔法の英才教育を受け、その才能を開花させる。
「スラムのゴミが私に楯突くか」
カマルの手下が襲い掛かる瞬間、どこからともなく吹き荒れる突風が6人の手下を襲う。「何なんだこれ!」
「風召魔法カゼキリ」オトギリが魔法を詠唱した瞬間、身動きを封じられた手下から大量の血が吹き出る。
風召魔法カゼキリは発現させた突風を刃に変え、対象を攻撃する魔法。絶命した手下の死体には無数の見えない刃で体を切り裂かれていた。
「ゴミには到底成し得ない技量。アンタらとはレベルが違うんだよ」闇討ちに失敗したカマルを睨みつける。
「舐めるなクソが!」それまで冷静だったカマルは急に激昂し「メインウェザー!」魔法を詠唱し、拳を構えた瞬間物凄い速さでオトギリに襲いかかる。
カマルの唱えた魔法メインウェザーは、体の制御機能を解放する近接戦闘魔法。限界の力を引き出す事で通常よりの倍の速度で移動し、攻撃する事ができる。
カマルの放つ高速パンチはオトギリの顔面にまで達していた。普通ならばかわす事ができない距離にまで達しているが、オトギリは難なくかわしカマルのパンチが不発となった。
「ラウンド2か。中等部で習う魔法を得意げに叫ぶなんて」
「あの距離で避けるか!」
メインウェザーには体の制御機能の解放数値をラウンドで表す。数値は1から5まであり、カマルの使うラウンド2は25%しか解放出来ていない。
その後もカマルの猛攻は続くが、オトギリはそれを華麗に避ける。次第に野次馬が集まりだしカマルを応援し始めた。
「いいぞやっちまえ!」
「そんなガキやっちまえ!」
だが野次馬の歓声虚しく、カマルの猛攻は一向に当たる気配がない。「クソ! すばしっこい!」
「この程度で英雄扱いとか、私なら神様として崇められるのかなぁ?」
「なんだと!」
「格の違いを教えてやるよ」そう言い放った後カマルの前から忽然と姿を消した。
「なっ?!」あまりの速さに驚くカマル、オトギリは彼の背後に回っていた。
「メインウェザー・ラウンド5。そして.........」背後に回ったオトギリは魔法陣を出現させた右手をカマルの背中に当て「サウンド・ゼロ」魔法を詠唱した瞬間、音を殺した閃光がカマルの背中を貫く。
サウンド・ゼロ。高密度の魔力を圧縮し一斉に放つ上級魔法。その桁外れな閃光は音を発する前に対象に命中し消滅する。
目を突き刺す閃光を喰らったカマルは地面に倒れる。辛うじて息は残っている、オトギリは死なない程度に威力を調整したためだ。
オトギリは倒れたカマルに静かに近づき、彼のコート掴んで仰向けにさせ胸ポケットから財布を拝借した。
「代金は確かに頂戴した。まぁ元々この金はアンタのじゃないし」財布の中にはツバキがこの1月で貯めた紙幣12000Gとカルマの
その足でツバキの元へと駆け寄り「強くなれば、鎖に縛られる事もなくなる」先ほど奪った4000Gを手渡す。「スラムを出て、身なりを整えてギルドに所属しな、仕事も増えて今より稼げる」
渡された紙幣を握りしめ「私に.........出来るんでしょうか」涙を流しながらオトギリに問いかける。
「前にも言ったでしょ、自分次第だって」
「.........また依頼しても?」
「いつでも待ってるよ」
ツバキは涙を拭うと、オトギリを置いて1人ヘイルストロームの外に向かって走り去って行く。
「もうここに戻って来るなよ」ツバキの走る背中を見届けながら、リトルシガーを咥え仕事終わりの1服を嗜む。余韻を堪能した後、ツバキが見えなくなると自分も外に向かって歩き出した。
2人は共に再会を誓い別れたが、その再会は意外と早く訪れる事となった。
「今夜はいい酒が飲めそうだな〜キャディスのポークチョップを肴にビールを1杯。煙草屋の癖にいい腕してんだよなアイツ」などと晩酌を考えながら国税局に続く道を曲がったオトギリ。
「くぅ.........痛い.........」その視線の先には、地面に膝を擦りむき痛みに項垂れるツバキの姿があった。
「あっ?」
「あっ.........」
互いに目が合うと、ツバキは顔を赤らめ道の端に身を縮こませ通り過ぎるのを待つ。
「はぁ〜さっきのムードを返してくれ.........」仕方なくツバキに近づき「行くよ」と声をかける。
「は、はい.........」申し訳なさそうに立つと2人は一緒に歩き出した。
「普通転ぶか?」
「転んじゃいました.........」
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