第45話 王都 a.m.06:00
コロッサスは未風山で起こった出来事を全てオトギリに話した。
「なるほどね.........」話を聴き終えたオトギリは、リトルシガーに火をつける。「あのツバキがそんなことを」
「知り合いなのか?!」
「不運にもね」
「だったら話が速い! 今すぐ居場所を教えろ!」
「残念だけど、そこまで親しくはない。それにアンタの話じゃ、ツバキは未風山にいるんでしょ? 戻ってるとは思えないけど」
「いいや! あいつは戻ってる!」
「なぜそう言い切れる?」
「すぐに後を追っかけたが忽然と姿を消した! 俺のライブ・ドアと同じ移動魔法を使った可能性が高い!」
「可能性か.........」オトギリは吸い終わったリトルシガーを灰皿に擦りつけ、机の上にある電話の受話器を手に取り「まぁ取り敢えず、ギルドにかけてみる。運が良ければ繋がるかも」ダイヤルを回して電話をかける。
相手が電話に出るまでの間、そわそわして落ち着きがないコロッサス。「やっぱ早朝だから出ないかもよ」
「早朝って、もう6時だぞ! もうとっくに日が昇って起きてるぞ!」
「田舎はそうかもだけど、王都では6時は早朝なのよ」
コロッサスがオトギリに向かって愚痴をこぼしていると「はい、ハイネバランギルドでございます」受話器から青年の声が聞こえてきた。
「繋がったか?!」
「静かに。ウォルター通りに店を構えているオトギリと申します」
「あぁオトギリ様、いつもお世話になっております! 珍しいですね朝早くに」
「えぇ、そちらのツバキにちょっと用があって。彼女の住所を教えてくれませんか?」
「住所ですか.........自分はその〜深夜の受付係でして、所属している者の個人情報をお教えする権限がなくて.........」
「まぁ.........そうですよね」
「10時にならないとギルド長が来ないので.........それまで待ってもいただくしかございません」
「そうですか、わかりました。後でもう一度かけます」
「あの〜一応どういったご用で?」
「あ? あぁ〜家の中に整理してたら、彼女の忘れ物があってそれを届けようかと」
「あぁ、そうですか。ツバキさんなら今未風山にいるので、当分は戻ってこないと思いますよ。よければ私どもの方で預かりましょうか?」
「いえ、個人的な用なので結構です。それじゃ」土壇場で思いついた嘘を並べ、強引に受話器を戻す。「ダメ。しっかりしたギルドだから、10時ならないと教えないって」
「なんだよ! 住所ぐらい調べてすぐ教えろよ!」
「田舎ではそうかもしれないけど、普通は教えてくれないよ。私だから教えてくれるのよ」
「なら他にないか?! 住所を知れる方法?!」
「一応、通信局に私の名前出せば知れると思うけど.........」
「ならやってくれ!」
「業務時間は9時から20時まで。後3時間は待たなきゃ行けない」
「かぁーなんだよもう! 王都って本当不便だな!」
「前まで住んでたくせに」現場できることをやったオトギリは、再びリトルシガーに火をつけ一服し始める。
「てことは何か?! 9時まで何もできずに待機か?!」
「後1つあるとすれば、アンクル騎士団に通報する手段がある。事情を話せば、ツバキの家に警備隊が押し寄せるけど.........」
「それ.........だけは駄目だ!」
「だよな〜アンタらのこと、根掘り葉掘り聞かれることになるから」
コロッサスたちがエルフの村に住んでいることがバレれる訳にはいかない。「今回のことは隠密に済ませたい! だから通報するなんてもってのほかだ!」どこからか奴隷商が情報を聞きつけて、エーデルワイスの村を襲うかもしれない。
「なら待機だ。朝ごはんでも食べてゆっくり時間を潰しかない」
「くっ.........それもそうなんだが.........」
「推測だけど。ケントって子供は生きてるよ。今頃震えながら手当してるんじゃない?」オトギリは煙草を消して、台所に向かう。
「そうとも限らんだろ! 今頃不敵な笑みを浮かべて、死にゆく健人を眺めてるかもしれねんだぞ!」コロッサスはいてもいられず、オトギリの後をついて行く。
「まぁ確かに本心じゃ人間なんて死ねばいいと思ってるけど」棚からティーポットを取り出し「子供を見殺しにするほど堕ちてはいない.........はず」水と紅茶の葉を入れ、魔法で沸騰させる。
「断言するならはっきりしてくれ! その予防線は心臓に悪すぎだ!」
「悪い、途中までそのつもりだったけど、振り返ったらあながちやりそうだっと思ってしまった」2つのティーカップを用意して、沸騰した紅茶を注ぎコロッサスに差し出す。
「はぁ.........因みに聞くが、お前から見てツバキはどんな感じだ?」
「そうね.........」オトギリも紅茶の入ったティーカップを持ち、冷ましながら1口飲む。「心に重傷を負った、真面目なエルフってとこかな」
「心に重傷.........てことはトラウマか?」
「まぁね。アイツがいたのヘイルストロームだったから」
「ヘイルストロームって確か、カマルのとこか?」
「毎晩手下がレイプしてたから、嫌でも下手にならざるを得ない。初めの頃は何かと理由をつけて誤りまくってたっけ、それも繰り返し繰り返し気持ち悪いほどに」
「未風山で会った時は、そんな感じじゃなかったぞ。金に執着してたが、明るい性格だったぜ」
「少し前かな、今のギルドに移った頃からアンタの言う性格になったのは。髪も綺麗に整えて、高そうな服着て真面目に仕事もして悪い噂も聞かない」
「それは随分と見違えたもんだぜ!」
「まぁでも私から見れば、無理して作ってるとしか見えないんだけど。時々感じるのよね、アイツの恨みが」
「恨み.........まさかだとは思うが」
「チャンスが訪れたんじゃない.........復讐の」
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