第41話 答えの先にある事実

 「俺は.........だ」健人を自分を偽り、ツバキに嘘をついた。


 「お前.........」


 「先生は少し.........イライラしてたんだ。ツバキさんがまた無断で入ってきたから」即席の言い訳を並べて、乱心するツバキを落ち着かせる。


 「.........そう」


 「本当にごめん.........俺からも先生にキツく言っておくから」ツバキに謝罪した後、後ろにいるコロッサスを横目で見る。


 「おっ.........お前! 次は容赦なくトッチメテやるからな!」剣を構えたまま、仕方なく健人に合わせる。


 「その前に剣を降ろせよ、先生のせいでこうなったんだから.........」期待した対応ではなかったが、ツバキに手を差し伸べる「本当にごめんなさい.........」


 ツバキは何も言わず健人の手を取り共に立ち上がる。


 「じゃあ.........返してくれるかな、剣」


 「.........そうね、


 「は?!」


 「離れろ!」コロッサスが異変を察知し、慌ててツバキに迫ろうとする。


 しかし時すでに遅し。ツバキは手を引っ張って自分に引き寄せ、左腕で健人の首を拘束した。


 「うぐっ?!」首を絞められ身動きができない健人。ツバキはすかさず、ドレスに潜めた刃渡り3cmのマイクロダガーで健人の脇腹を刺した。


 「健人!」


 「動くな! 次は喉を斬る!」血塗れのマイクロダガーを抜き、健人に首元に向ける。


 脇腹から噴き出る鮮血が地面に滴り落ちる。激痛に襲われる健人、ツバキに口を押さえられ悶絶する。


 「.........あんた達がここで何をしていたのか、全部見ていた」


 「てめぇ.........見てやがったな!」


 「.........この子は私が預かる」


 「ふざけるな! 今すぐ手当しねぇと死んじまうぞ! 健人を離せ!」


 「次騒げば傷穴が増えるぞ老いぼれ!」


 「くっ、ふざけやがって.........」健人を人質に取られ、手が出せなくなるコロッサス。


 「用が済んだら返す.........この子の命は保証する」ツバキそう言い、後ろ向きで神殿の外へと向かう。


 「つ.........つば.........きさん.........」


 「黙って.........」出入り口へ続く石の道に着いた途端、コロッサスに背を向け外に向かって走る出す。


 「待て!」コロッサスもツバキを追って走り出す。長い石の道を走り、遠くに見えるツバキの背中を追う。「ふざけやがってあの野郎!」


 地面に滴る健人の血を追って神殿に外へと出たコロッサス。地面の血を追うが、神殿横の木の前で途絶えていた。


 「はぁ?! んなバカな!」木の向こうを見ても血の跡がない。「消えたってのか?!」引き返して登ってきた山道へ向かうが、そこにも血の跡がなかった。


 「マジかよクソが!」忽然と消えたツバキと健人。その事実を受け入れないコロッサスは叫びながら探し続ける。


 「いるのはわかってるんだぞ! 健人! ツバキ! 隠れてないで出てこい!」


 山中に響き渡るコロッサスの声、当然いたとしても返事が返ってくることはない。


 「お、落ち着け! 叫んだって出てきやしねぇ! それどころか健人が殺されちまう!」乱れた息を整え、冷静に考える。


 「冷静に考えろ。この短時間でなぜ消えた? 消えた方法は魔法しかあり得ない。姿を消したのか? 姿を消す魔法は高等魔法、簡単に習得できるもんじゃない。でもあいつはエルフだ、人間より魔力も寿命も多いから使えても不思議じゃない。となれば一体どこに消えた? まだこの山の中か、いや気持ち悪いほど痕跡がない。だとすれば.........」


 考えがまとまったコロッサスは、急いでツバキと自分達が残した荷物をかき集め、神殿の中へと戻る。


 「ライヴ・ドアー!」左腕腕を突き出し、呪文を詠唱し空中に姿鏡を出現させる。対象はもちろんオトギリ。暗い部屋の中に荷物を放り投げ、姿鏡を掻い潜ってオトギリの工房へと移動した。


 「オトギリ! オトギリ起きてくれ!」魔法を解いてベッドで眠るオトギリを揺さぶって無理やり起こすコロッサス。


 「う〜ん.........」オトギリは布団を顔までかけて眠り続ける。


 「起きてくれ! 緊急事態だ!」無理やり布団を剥がし、下着姿で眠るオトギリの腹を張り手で思いっきり叩く。


 「うぎゃあ!」渇いた音と共に、オトギリは唸りを上げて目覚めた。「うっ.........クソジジィ.........警備隊呼ぶぞ.........」


 「1分で支度しろ、緊急事態だ!」コロッサスはそう言い、まとめた荷物を持って寝室を出る。


 1分後。普段着に着替えたオトギリがイライラしながらコロッサスの前に現れた。


 「内容次第じゃ、マジ呼ぶぞ」指パッチンで天井にランタンに火を灯し、机に腰掛け電話の受話器片手にコロッサスの話を聞く。


 「ハイネバランって名のギルドに所属する傭兵が、聖剣と一緒に健人を攫った! 後を追ったが魔法を使って姿を消しやがった! 王都に居るかもしれねぇ、一緒に探してくれねぇか?!」


 「ふ〜ん.........確かに緊急事態ではある」オトギリは受話器を戻し、リトルシガーに火をつける。


 「名前はツバキだ! 見た目じゃわかんねぇが、金髪のエルフの女だ!」


 「.........は?」オトギリは1口しか吸っていないリトルシガーを灰皿に擦り「マジなんだろうな.........コロッサス」眠気が吹っ飛んだ目でコロッサスを見つめる。

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