第48話 if…… 1

 インストール事件から約一ヶ月が経過した。

 この頃にはクラスメイトの視線を気にすることもなくなり、僕はみんなと仲良く遊んでいた。ちょっとぐらい特殊な子供でも受け入れてくれる……みんな良い子達ばかりだ。


 そしてなんと村橋君も学校へ来られるようになった。

 復帰初日なんかみんな気を使って『学校に来られたね! おめでとう! 嫌な事あったらすぐ言ってね』なんて……、たかが学校へ来ただけで褒めまくっていた。

 村橋君の登校した初日に心の中では『おめでとう』と言ってあげたが、本人には普通に『おはよう』と一言だけ伝えた。

 村橋君を褒めるのは厳禁だっつぅーの……。

 みんな分かってないんだからまったく……。


 復帰は喜ばしい事だったのだが、一つ問題があった。

 学校へ復帰して一週間ほどすると、それまで大人しかった村橋君がワイルドになっていったのだ。


 言葉使いもいつの間にか『ぼく』から『オレ』に変わってしまっていた。


 そこまでは問題じゃないのだが、村橋君の僕を見る目が敵を見るような目だった。

 敵と言ってもライバルって感じだが……。

 そして直接こう言われた。


村橋「お前だろ? 家の前で好き放題言ってたの」


 僕は『そうだよ』って答えた。

 もしかしたら怒っているのかもって気にしたけど、村橋君が『お前面白いな』って……。

 少し嬉しかったが、その後勝手に名前で呼ばれたり、やけに絡んできたり……。

 どうやら好かれてしまったらしいが、結構良い迷惑でもあった。

 詩織や雛と一緒にいる時も必ずと言って良い程絡んでくる。

 そのうち僕のお嫁さん達がとられてしまうんじゃなかろうか……。

 確かに少女漫画みたいな恋愛は希望したが、こんな形でライバル出現とか……、もしかしたら本当に神様はいるのかもしれないな。

 まぁ今のところは全然大丈夫そうだからしばらくはそのままにしておこう。


 ちなみにワイルドになった原因は僕のせいだった。

 インストール事件の時、もう一つ別の能力が勝手に発動していたらしいのだ。

 その名も、影響力増大エンジェルボイス

 僕の好きな歌の歌詞のワンフレーズだ。

 能力の効果は僕の言動に影響されやすくなるとか、カリスマ性が高くなるみたいな感じ。あとなんか言霊みたいな効果もあるみたいだ。

 ギルが『言葉には力があって、魂の宿った言葉には人を動かす力があるんだよ☆』と説明してくれた。

 とにかく僕に憧れて影響される。結果僕の真似をしたくなってしまい、同じ様な言動をしてしまったり、しなかったりとか……。

 そして今回は僕では無く、人格模倣ドラゴンインストール中の僕、つまり父親ラスボスに影響されてあんなワイルドになってしまったというわけだ。

 人にはそれぞれ性格とかのベースがあり、たまたま村橋君は父親ラスボスに近いベースだったとのことだ。

 ベースが違いすぎるとどれだけ影響力が強くてもそんなに行動変化はしないらしい。

 逆にベースさえしっかりマッチすれば洗脳することも出来る恐ろしい力だ……。

 遂に僕が教祖様になる時が来た……訳でもなく、人格模倣ドラゴンインストールと同様、影響力増大エンジェルボイスも本当はまだ使えないんだけどね。

 あの時だけの特別らしい。

 二日も寝込む代償は怖いけどあのあと何度か試してみた……が全然ダメだった。

 もしかしたら漫画みたいに自分の生命力を燃やして初めて使える……みたいな感じで使えたのかもしれない。それぐらい本気だったってことか……。


 心の成長に合わせて使える能力。

 本当に寿命が縮んでいたらどうしよぉ……。


 っていうか、ギルの能力だからギルの寿命が縮むのか??


「寿命は縮んでないから大丈夫だよぉ☆」


 そもそもギルって寿命あるの?


「んー……あるって言ったらあるし、無いって言ったら無いかなぁ☆」


 あと人格模倣ドラゴンインストールとか影響力増大エンジェルボイスってギルじゃなくて僕の能力っぽい気がするんだけどさぁ? なんであんな事出来るの?


「うーんとねぇ……量子レベルで相手を解析してぇ、一度性格とかを再構築したあとにぃ……直接君の脳にリンクさせてる……かな?☆」


 嘘だな。


 でも何となく分かった。

 多分真似したい相手をギルが真似して、僕がギルの真似をするってことだな。

 影響力増大エンジェルボイスは?


「それはねぇ……魂の流れを操作、増大することで言葉にしたりぃ……相手の好きそうな仕草とか細かい動きを君に伝えてその通りにするとぉ……魅力的で素敵! ってなる……かな?☆」


 多分最後は本当だな……。

 魂の……って所は怪しいがまあいいや。

 結局今の僕には使いこなせないってことは分かった。


村橋「おーい! 聞いてるか?」


光「なに? どうしたの?」


 おっと、ギルとのやり取りでトリップしていた。


村橋「どうしたのじゃねぇよ。今度家に遊びに行くって言ってるの!」


光「誰の?」


村橋「ひかるに決まってるだろ!?」


 なるほど……。

 ってこいつ僕の家にまで来るつもりか?

 

 やれやれだ……。

 どうしよ? ギル?


「別に良いんじゃない? 楽しみだね☆」


 いやいやいや、楽しみ……ではないなぁ……。


 後日本当に村橋君が家まで遊びに来た。

 僕は何気に人見知りだ。

 何を話せばいいのか戸惑ってしまう。

 気を使い過ぎるのだ。

 逆に仲良くなってしまえば気を使わない。

 むしろ使わなさ過ぎる為に周りを振り回すことが多い。それは自分でも自覚があり、だからこそ仲良くなるまでは気を使うように普段から心掛けていた。

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