第16話 アナザーワールド 2

 家に帰ると弟達が喧嘩していた。

 何を揉めているのか?

 良く話を聞いていると玩具おもちゃの取り合いらしい。

 こんな時は二人共泣かした方が手っ取り早い。

 すかさず二人から玩具を取り上げる。

 ヒーロー戦隊の変身グッズ、いわゆる変身ベルトってやつだ。

 僕はヒーローが好きだった。そしてヒーロー戦隊のリーダーのカラーは必ずレッドだ。だから赤色が一番好きだった。ヒーローになりたい願望ももちろんある。十円玉を拾った時には交番へちゃんと届けたりもしている。ヒーローへの道を一歩ずつ地道に歩んでいくのが大事なのだ。ちなみに母親と一緒に買い物に行く時はお気に入りの赤色の服を着ていくのだが、よく女の子に間違えられる。中身はこんなにヤンチャなのにだ。きっと、余所行きの仮面でも被っているのだろう。皆も家の顔と学校の顔では違うはずだ。

 そして家の顔を出した僕は暴れん坊将軍である。

 幼い子供達から理不尽に玩具を取り上げ両成敗にて一件落着……、いやそれだと悪代官か? そんな事を考えていると玩具を取られた弟達は次第に泣き始め喧嘩どころではなくなっていた。

 良し! 喧嘩は良くないからなw

 

「やばいかもぉ〜☆」


 ギルに突然言われて対策を考えるが、時すでに遅い……。


「ひぃーかるー!!」


 声が届くよりも先にゲンコツが飛んで来た……。

 痛い。次第に涙が溢れて来る。

 父親ラスボスが起きていたらしい。


「ばかやろぅ!!泣くなぁ!」


 無理だ……。

 痛いものは痛いし、涙が出て当然だ。

 やっぱり父親あいつは嫌いだ。

 このままではやばいので頑張って声を絞り出す。


光「ごめんなさい」


父「よし!」


 これで制裁は終りだ。

 基本このパターンが立花家の通常運転である。

 父親ラスボスが酔っ払っている時はもっとやばいが……。

 理屈もクソも無い。暴力が全てだ。力ある者が強者であり、最強なのだ。ラスボスはとにかく強い。今はまだ勝てない。

 必死に涙を止めようとするが、中々止まらない。


「ごめんねぇ……。ちょっと遅かったかも☆」


 しょうがないよ。ギルのせいじゃないし。

 それよりも泣くのを止めないとまた理不尽に怒られてしまう。

 目を閉じて段々痛みが引いてきたところで、大きく息を吸い込みグッと息を止める……。

 なんとか気合で涙を止められた。


 さて、どうやって八つ当たりをしようか?


「やめたほうが良いと思うよぉ☆」


 うーそ! 冗談……。

 一発だけだし本気のゲンコツじゃなかったから大丈夫。我慢が出来る範囲だから八つ当たりはしない。それよりも変身ベルトで僕は変身する。そしてヒーローになって、悪の手先の弟達をやっつけるのだ。


「それ、八つ当たりだからねw☆」


 やっぱりw

 取り敢えず玩具ベルトは上の弟に渡して順番に遊ぶよう伝える。下の弟にもそれで納得させた。

 ちなみに、上の弟がタメキチで、下の弟がゴンタだ。


「また怒られるよ☆」


 訂正。

 上の弟は孔明コウメイ。下の弟が呂布リョフ


「もういいから☆」  


 再度訂正。

 上が優理ゆうり、下が力斗りきとだ。

 優理は要領が良い。父親ラスボスに怒られたことがほとんど無い。

 力斗はまだ三才だが、食欲が半端ない。そして他の三才児と比べて運動能力がずば抜けて高い。まだ力で負けることは無いが末恐ろしい。

 もう名前のままの弟達だ。

 優理のほうが歳が近い為一緒に遊ぶ事が多いのだが、遊ぶというより僕のワガママに付き合ってもらってると表現したほうが正しいかもしれない。

 何をするにしても僕が一番になるように仕向けるからだ。先のやり取りのように無茶苦茶な兄と遊ばされるのだから優理としては大変だろう……。だが何故か嫌われていない自信はあった。


「君って本当に弟達が好きだね☆」


 あぁ、大好きだ! 大切な弟達だ! だから僕は何しても良いんだ! 


「程々にね☆」


 分かってる。

 何だかんだ言っても力加減とかはちゃんとやっているはずだし、本気で殴った事は一回も無い。多分……。


「あっ、昼ご飯出来たっぽいよ☆」


 他の人の心が分かるって結構便利だな……。

 一家に一台、足だけお化けギル。新発売。

 そんな事を考えながらリビングへ向かった。

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