第15話 アナザーワールド 1

「でも、間違ってないでしょ?☆」


 あぁ、間違ってない。確認の必要もない。

 だが、心の中が分かる証明にもならない。

 ノーカンだ。


 フリフリのワンピースがこっちへ駆け寄ってくる。

 そう。

 あのフリフリは雛だ。


「光く〜ん! 何やってるの〜?」


 なんて答える?

 足だけお化けの実験中とか……?

 ダメだなぁ……。

 少し黙って考える……。

 そうだ公園!

 公園に行こうとしてた事にしよう。


光「公園に行こうとしてたー!」


雛「そうなんだ! 雛も一緒に行っても良い?」


光「良いよ!」


 雛が仲間になった。

 今日は日曜日だから学校は無い。本当は一日中ゲームをやりたいのだが、父親ラスボスが家で寝ている為安心して遊べない。丁度良いや。

 そう思いながら公園へと向かう。


雛「珍しいね? 一人で公園なんて。」


光「ソウダネ」

 しまった! ギルのカタコトが感染った!?


雛「なにそれw 光君かわいい〜♡」


 おっ? カタコトはありなのか?

 ところで今日の雛は積極的だ。

 いつの間にか左手が雛の右手に捕まっていた。


「普段は詩織に気を使ってるんだよ☆」


 詩織の為にいつもは控えめって事?


「そう。雛は詩織の事も好きだから☆」


 なるほど。


雛「……くん? ひーかーるくん? 大丈夫?」


 おっと、やばい!?

 ギルと同時に話をするのはちょっと大変だ。

 少しの間待ってて。

 心の中でギルにお願いする。


光「うん。大丈夫だよ」


雛「本当?」


光「ほーんーとっ! ブランコ乗ろ!」


 公園の手前から雛の右手をグイッと引っ張り走り出す。雛は頑張って離されまいとする。その後から、足だけお化けが追いかけてくる。

 ブランコに乗る為、雛の右手を離そうとするが何故か離れない。よく見ると、離したくないと言わんばかりに僕の左手がしっかりと捕まっている状態だった。


光「雛??」


 名前を呼ばれ雛がハッとする。同時に左手が開放された。恥ずかしそうな顔で雛がブランコに乗る。それを見ながら隣のブランコに立ち乗りして前後へ揺らす。


光「今日は詩織と一緒じゃないの?」


雛「うん。家族でお出かけなんだって」


光「そっか」


雛「光君は? 最近家族とどっか出かけた?」


光「この前山に行ったよ。父は川で魚釣り。母は山へ食料調達、アーンド僕らの子守」


雛「なにそれ? 桃太郎? 山!? 自給自足??」


光「まっ、そんなとこかな? 山登りみたいで楽しかったよ」


 うちの両親はアウトドア派だ。何かと山へ行きたがる。父親あいつが山に行く時は魚釣りをする為だ。魚釣りが大好きなのだ。そして祖母以外の家族全員を必ず連れていく。

 インドア派の僕にとって山は好きじゃない。だが、母親と一緒にいられる時間がとても大切だった為、お出かけは好きだった。たとえマザコンと呼ばれても良い。ここはゆずれない。

 ドライブも好きだった。車内は僕にとってイン側だ。そして目的地まで暇潰しに数字遊びをするのだが、これも楽しみだった。

 すれ違う車のナンバー四桁の数字を独立させて、四則演算しそくえんざん(+−×÷)で最終的に10の整数を作る。簡単なものだとナンバー1234をそれぞれ1+2+3+4=10の様に計算していく。こんな感じだ。

 母親がナンバーを声に出してから車内のみんなで考える。最初に計算式を導き出した者が『出来た!』と声に出して答える。延々とこれの繰り返しだ。正直遊びというより勉強に近い。しかし完全に遊び感覚だった為僕の中では遊びだった。

 そしてこの遊びで僕は常に最速だった。男の子は『最強』とか『最速』の称号に憧れるものであり、この時だけは最速の称号は僕のものだったのだ。慣れてくると五秒ぐらいで答えられ、何より小学三年生でも親に勝てる事が嬉しかった。

 だから山登りよりも道中のドライブが一番楽しかったが、全部ひっくるめて山登りが楽しかったと答えておく。


雛「光君いいなぁ。雛も家族でどっかお出かけしたいなぁ」


光「雛はお出かけした事無いの?」 


雛「あるけど家族揃っては一年に二回とかかなぁ? お店があるから中々難しいみたい」


光「そっかぁ、お店って大変なんだね。うちは夜の方が忙しくて……昼間は全然暇そうだし。どっちかというと寝てるから」


雛「光君もお昼寝大好きだもんねw」


 そう。うちは両親共に夜が仕事の時間だ。母親は飲み屋の店長で、父親ラスボスはその店のオーナー。

 母親は夜中に帰ってくるのだが、化粧を落としたりなんやかんやで、朝まで寝られる時間は三時間程だろう。朝食を必ず作るので早起きなのだ。その為昼間に寝て睡眠時間を確保している。

 ちなみに夜は祖母が保護者代わりになるのだが、午後八時頃にはおネムさんになる。祖母が寝てからが僕の本当の一日が始まるのだ。母親と父親ラスボスが帰ってくるのは深夜零時以降。遅い時は午前二時を過ぎる時もある。何故帰りの時間を知っているかって? もちろん僕がその時間まで起きているからだ。運が良いと六時間程ゲームやりっぱなしが可能という訳だ。


光「あれ? バレてた?」


雛「あれだけ寝てたらバレるよぉw」


光「そうだよねw」


雛「光君は夜お母さん居なくて淋しくならないの? 雛だったら多分我慢出来ないよ」


光「今はばあちゃんが居るからそんなに気にした事ないかなぁ?」


 淋しくない。

 そう、だ。

 昔、祖母が一緒に住んでいなかった時、まだ幼稚園に行っていた頃。自分では全然覚えていないのだが、淋しかったのだろう。夜、仕事中の母親に電話したことがあるらしい。

 僕が母親に『弟が泣いているから帰ってきて』と電話で言った為、もちろん心配になった母親が家に帰ってくるのだが……。何故弟が泣いているか分からず僕に聞いてきたのだ。『なんで泣いてるの? 寝ていたはずなのに……急に泣き出したの?』と。そして僕はこう答えたらしい。『淋しかったから、弟が泣いたら帰ってくると思ってゴツンってしたの』と。

 弟が泣いている原因は僕だったのだ。どうやらゴツンとしたらしい。正直過ぎだろ!? 幼少の僕よ……。

 まぁ、記憶に無いし時効だろ? 許せ弟よ。

 何にせよ今は淋しくないから、親が夜居ない事は問題無い。むしろ大歓迎だ。


 この時光   ひかるは気付いていないが夜中まで起きていたのはゲームの為では無く、両親とのコミュニケーションの為に起きていた。両親が帰ってきたと同時に寝たフリをして、あたかも今物音で起きたかのように演じていたのだ。寝ぼけたフリをして起きると、父親の機嫌が良ければ夜中に将棋やオセロで一緒に遊んだこともある。機嫌が悪そうな時はギルのおかげで寝たフリを決め込んでいたが……。結果論、ゲームをする時間は副産物で、両親とのコミュニケーションを自分の力で勝ち取っていたのだ。だから三人の兄弟の中で光が一番父親と関わっていた。ラスボスだのなんだの言ってはいるが、結局父親の事を好きだった。それ程までに親の存在とは大きいものだった。もし心の底から憎んでいたのなら、そのまま寝たフリをしていれば良かったのだから……。


雛「そうなんだ。でも淋しくなったらいつでも言ってね! 雛がいるからね!」


 僕は笑顔で返事をした。

 その後は他愛も無い話しをしていたが、お昼になったので家に帰ることにした。

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