第23話 アナザーワールド 9

 最初に入った建物の中には変な置物が飾られていた。

 月子ははが目を輝かせてしきりに『すごいねー』と話しかけてきたが、全く理解が出来なかった。

 どうやら色々な建物の中はそれぞれ何かのテーマに沿ったブースになっているらしい。

 次のブースに向かう為に歩いていると、大きな広場に宇宙船の模型が飾ってあった。


 これはヤバいだろぉ?

 男の子だぞ!?

 宇宙だろ!?

 実物大の宇宙船模型だぞ!??


 月子ははの呼びかけを無視して駆け寄っていく。もちろん心奪われて優理を放置したのは言うまでもない。

 

光「でっかぁーー!!」


 一度こうなると周りが見えなくなる。

 頭の先からお尻の部分までが約四十メートルあり、宇宙船の迫力に圧倒される。

 高さも五メートル以上あるだろうか?

 上から飛び降りたら怪我するであろう高さがあり、何故だか登ってみたい衝動に駆られる。

 もしそこにハシゴがあったのなら間違いなく登っていただろう。

 バカは高い所が好きなのだ!

 そして、僕はバカなのだ!

 父親ラスボスから散々『バカやのぅ』と言われているから、バカなのだ!

 バカなので言うことも聞かないし、多少大暴れしても許されるはずだ。


 だが残念。

 どうやっても宇宙船の屋根にあたる部分まで登ることは不可能なようだ。

 しばらくの間頭の中で試行錯誤してみたが、再度無理な事だと確認して諦めた。


 その後、飽きるまで宇宙船と他に飾られていた宇宙服等を堪能していたらいつの間にか月子はは達が居なくなっていた。


 しまった。月子はは達が迷子だ。

 しょうがないなぁ。

 まぁ、その内見つかるだろう……。


 月子はは達の事は気にせずにもっと面白い物が無いか宇宙ブースを探索していると、ふと声が聞こえたような気がした。


「……ス……よ」


 辺りを見渡すが月子はは達の姿は見当たらない。

 たまたまクラスメイトもここへ来ているのかと思い、もう一度周りをキョロキョロする。

 だが知っている人は誰もいないようだった。


 知らない人達に囲まれている事がなんだか不安になってきた。

 

 もしかして、置いて行かれた?


 一度不安になるとそんな事が頭をよぎるようになる。

 急に一人ぼっちが淋しく、そして怖くなり、泣きそうになってしまう。


月子「光〜! おまたせ!」


 月子ははの声だ!

 後ろを振り向くと優理の姿があった。

 その奥の方には月子ははの姿も見える。


 良かった。

 どうやら置いて行かれてなかったみたいだ。

 ホッとした途端に涙が一筋流れてしまった為、バレないように袖で顔を拭いてから合流した。


月子「あら、泣いてたの? あんまり宇宙船に集中してたから買い物してくるって言ったのに」


 秒でバレた。

 多分、置いて行かれたと思ったこともバレてるだろう。


 月子ははに確認すると、買い物してくると声をかけられた際に僕は返事をしていたらしい。

 返事をしたらしいのだが、返事をした記憶は一切無い。



 ふと回想から教室に意識を戻す。


 もしかして記憶障害?


 いや、違うか……。


 いつもの集中し過ぎが原因だな。


 格ゲー中に無意識に返事をするのと同じだろう。


 もう一度宇宙船の所から思い出してみる。



 ……、その後ご飯を食べたんだ。

 昼ご飯は何食べたっけな?

 肉?

 魚? いや魚は絶対に無い。

 肉だな。ハンバーガーだ。

 みんなでハンバーガーを食べた。

 優理がケチャップを服にこぼしたから、月子ははがウェットティッシュで拭き取っていた。


月子「あらあら。ちょっと待っててね」


 そう言いながら優理の服を綺麗にしていく。


優理「ごめんね。でも、ハンバーガーが大き過ぎるから悪いんだよ」


 優理は賢い子だ。

 そして賢すぎる為、一言多い。

 原因の究明に関しては素晴らしいのだが、自分の落ち度には否定的だ。

 そのうち、力斗に運動で負けた時に『お兄ちゃんだから手加減してあげた』と言い出すだろう。

 流石に僕の弟なだけはある。

 一筋縄ではいかないのだ。


 ちなみに、僕はケチャップをこぼすなんて失敗はしない。大きな口でしっかりとハンバーガーをやっつけた。

 まぁ昔、水飴をこぼして大変になったことは……、内緒にしておこう。


光「優理はまだまだだね」


優理「優理は光君より小さいからいいの」


 茶化してもこんな感じで応えてくれる。

 まだ幼稚園児とは思えないぐらい、色々な意味で優秀だ。

 歳が近い兄弟がいるのはとても楽しく、守る事も、イジメる事も長男の特権だった。


 そして立花家は兄弟間で名前呼びが標準だった。その為、友達みたいな感覚が強く仲が良かった。

 もちろん喧嘩もする。今のところ負け無しだが、弟達あいつらは各々優秀な部分があるからいつか負ける日が来るかもしれない。

 その時は特権を使って黙らせよう。父親ラスボスがいつもやっている事だ。問答無用の強さに嫌悪と憧れが同時に混在しており、何故かその矛盾に違和感は無かった。


 ご飯も食べ終わり、次のブースへと向かう。

 宇宙は堪能出来て楽しかったのだが、そろそろ乗り物に乗りたい。


光「ジェットコースターはー??」


月子「まだご飯食べたばかりだから、もうちょっと経ってからね」


 まだおあずけらしい。

 顔を膨らませてブーブー言うがダメだった。

 だが、次のブースは恐竜と聞いてすぐに機嫌は良くなった。

 恐竜! 恐竜!

 心の中で恐竜を連呼しながら歩いていく。

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