第24話 アナザーワールド 10

 恐竜! 恐竜!


「……て……ち……」


 ん!?


光「なんか言った??」


 月子ははに向かって問いかける。


月子「なにも言ってないけど……、どうしたの?」


光「んー、なんでもない」


 なんか言われたような気がしたけど気のせいかな?

 確かに聞き覚えのある声がしたような気がするのだが……、辺りを見回すが誰もいない。


 しかし、前を向いた瞬間何かが脳裏に浮かび上り違和感を感じた。


 なんだ! この違和感!?


 懐かしさと恐怖。


 でも、喜びもある……。


 だが、何に対して嬉しいのか分からない。


 途端に走り出す。

 無意識に体が動いて何かの達成感を得ようとする。

 その先に……、

 誰か居たのだ。

 良く知っている人物が。

 知っているはずなのに……視界がボヤけて思い出せない。

 走って追いかけるが人混みが邪魔で中々追いつけない。

 誰だ?

 そこに誰がいた??



 ……コーン、カーン、コーン。

 始業のチャイムが鳴った。


 頭の中の回想が止まり灰色の世界に戻ってきた。


 先生に促され自分の席に座る。


 授業は始まったが、完全に意識は明後日の方向を向いている。

 昨日追いかけた先に誰が居たのか、何度思い出そうとしても思い出せない。

 その後の事は思い出せる。

 確か恐竜の骨が飾ってある場所に行った。

 すごく大きな骨の化石だった。

 その後一人でジェットコースターに乗ったのも覚えている。身長が足りない為、弟達は乗れなかったのだ。

 所々記憶がボヤけている箇所もあるが、帰る直前に流れていた曲は思い出せる。


 噴水を囲んだ花とテーブル。

 そこでジュースを飲んでいて、月子ははが『そろそろ帰る時間だね』と言った後のことだ。

 スピーカーから流れてきて、キラキラしたメロディと透き通った女性の高い声が耳に残っている。

 サビの部分で雰囲気が変わり不思議な気分になるのだが、サビが終わると切ない気分になる。

 まるでその日の終りを告げるような……。

 楽しい時は一瞬、そして帰るのが名残惜しい。そんな気持ちをそのまま表したような曲だった。


 歌は好きだった。

 上手いかと問われると下手だ……。

 でも僕は歌った。

 家でも、学校でも、道端でも……。

 とにかく歌った。

 歌うと気分が落ち着いて全て忘れる事が出来た。

 誰かに下手くそと言われても、歌が、音楽が、僕を救ってくれた。


 闇雲にゲームをする時はゲームの世界に集中する事で全てを忘れ、ストレス発散と現実逃避をしている。そのままの意味でゲームの世界に逃げている。


 だが歌は違う。闇雲に歌う時はもがいている時だ。歌に感情をのせ、嫌なことを忘れ少しずつストレスやしがらみを消化していく。そして頭で心のモヤモヤをスッキリさせる答えを導き出す。自分の中で理屈が明確になれば全て解決する。


 事柄と原因と改善策。

 これらがパズルのピースのように乱雑に散らばっている。その中から事柄のピース、原因のピース、改善策のピース、それらを探し出し上手く組み合わせるだけ。そして僕はパズルが得意だ。クラスで誰一人クリア出来なかったパズルゲームを僕はクリアしている。


 今回の事柄は、記憶の消失による弊害の取り除き。その為には現状把握出来ていない記憶の修復が必要。

 原因は未だ不明。

 今思い出せている記憶を観る限り問題点は見当たらない。

 だが記憶の消失に関しては予想がつく。僕に不利益な事が都合良く忘れ去られているだけだろう。今回はかなり衝撃的ながあって心が拒絶反応を起こしている。そのせいで自分の存在すらも拒絶した結果、現実世界が異世界に変化したように感じている可能性が高い。ここは現実世界だ。拒絶反応の原因さえ分かれば解決するのは簡単だ。

 そして、僕が追いかけた先にいた誰かがきっと原因だろう。

 改善策は……原因究明の後だな。

 

 先ほど泣いてたので少しスッキリしてきた。

 あともう一歩の所まで来ているはずなので、精神状態の回復に専念する。

 どうしようかな?

 

 しばし考えるが心の中では決まっていた。


 歌うかぁ……。


 そう頭の中で歌う。


 歌で忘れる事が出来るなら……、


 思い出す事も出来る!


 イメージしろ!


 幻想的な噴水。

 円形のテーブルには飲み物のが半分ほど残ったグラス。

 グラスに残ったジュースが光に照らされ水色に輝く。

 しかし、周りは太陽のやんわりとしたオレンジ色に侵食されていき、終りの時を告げようとする。

 頭の中で昨日の一コマをイメージする。

 優しいメロディからサビに切り替わる瞬間と、サビの晴れやかなメロディ。

 そして透き通った女性のかん高い、でも優しく包み込むような声。

 頭の中であの曲を新たに生み出す。


 授業中であるにも関わらず、周りの音が一切途切れイメージした曲以外何も聞こえなくなる。

 昨日の歌を何度も何度もリピートして、意識を更に集中させていく。


 悲しみと喜びが混在して涙が溢れてくる……。

 歌詞はハッキリ覚えていない。

 そのおかげで、自分の都合の良い解釈の歌になって僕の心に響く。



 辛くても泣かないで

 楽しい時は一瞬で

 いつか終りが来る


 自分で選んだ光を

 空は暗くても

 思い出は心の中に


 ララララ〜 忘れないで

 まっすぐに そして空へ

 羽ばたくの


 ララララ〜 思い出が

 優しくて 輝いて

 素敵だね



 絶対にこんな歌詞では無かったはずだ。

 でも今はこれで良い。

 自己暗示だ。

 ノートに書き写し、文字をなぞる。

 何度も曲のリピートを繰り返すことで精神状態を安定させる。


 大分落ち着いて来た。

 1、2、4、8、16、32、64、128、256、512、1024、2048、4096、8192。

 良し! 頭も絶好調!

 

 今なら大丈夫な気がする……。


 心を落ち着かせ、心で呼びかけると同時に小声で呟いた。


「ギル……。」

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