第51話 if…… 4
その後、家に帰ってきてからはほとんど寝てしまっていた。
夜中に目を覚ますと注射のおかげで熱が下がっているのかダルかった体が楽になっている。
大分元気になったが明日ぐらいは一日休んでも怒られないだろう。
そう考え僕はゲームのコントローラーに手を伸ばす。
昨日、ケンと戦った時に苦戦したのを思い出した。
次回の対戦に向けて僕は練習しておかなければいけないのだ。
敗因は僕が同じキャラクターしか使用しなかった事……。同じキャラクターを使っているとどうしても動きが単調になってしまい次の行動が読まれてしまう。
ならば、他のキャラクターを練習して対策する……のが普通の人だ。
しかし僕は違う。僕の感性は普通とは程遠い。
そして違うキャラクターを使用すること。それは僕にとって逃げる事と一緒なのだ。
好きなキャラクターで勝つ事こそに意味がある。
だから僕の出した答えは、好きなキャラクターを更に強化することだった。
もっと練習すればまだまだ強くなれるはず。
次の日は学校を休んだので丸一日特訓した。
それからも僕は一週間ほど特訓に明け暮れた。
その間に一度だけケンが家に遊びに来たがその時はわざとレースゲームしかやっていない。
実はギルにも特訓に付き合ってもらい、コンピューター相手に
僕の予想が正しければ最速で相手の動きに反応することが出来るはず。
実際にそれは上手くいったのだが、やはり副作用が出るのが問題だった。
「ちょっと休憩しようか?☆」
ギルに言われて休憩する。
すると突然頭が痛くなったりするのだ。
どうやら短い時間でも、能力を連続使用すると副作用で頭が痛くなるみたいだ。
それとは別にゲームのやり過ぎで頭が痛くなる時もある。ゲーム中の僕は元々集中力が半端無いぐらい高まっているらしい。
確かにゲーム中に声をかけられても耳に入ってこない時が多々ある。
原因は、ゲームに必要の無い情報を全てシャットダウンしているのだとギルが教えてくれた。
自分でも驚く程とんでもない集中力だ……。
それならばと
こっちの動きに対応された瞬間に反応して、また違う動きにすれば勝てるはず。
そして遂にケンと対戦の日が来た。
僕は自分の勝利を疑わなかった。
光「今日は負けないからな!」
ケン「おお! かかってこい!」
結果は五分五分の勝率だった……。
この前とほとんど変わらない。
変わっていない。
なんでだ……?
光「まじかよ……。めちゃくちゃ練習したのに」
ケン「ひかるは単純過ぎなんだよ」
光「でもちょっとぐらいは強くなってると思ったんだけどなぁ」
ケン「オレも強くなってるってことだよ」
やられた……。
ケンもこの一週間練習していたのだ。
だからこの前はレースゲームしかやらなかったのか……。
ケン対策にある程度のイメージトレーニングもやっていたのだが、ケンも同じ事をやっていたのだろう。
それにしても単純過ぎってなんだよ……。
「感情の強さがそのままゲームに出てるんだよ☆」
いや、感情の強さって……勝ちたいって気持ちが大事だろ!?
「そうだけどぉ……、これは騙し合いなのぉ☆」
騙し合い?
そんな事、特訓では言ってくれなかったじゃないか?
「だって相手がコンピューターだったんだもん☆」
なるほど……確かにコンピューター相手に心の中もクソも無い……。
でも、ケンが相手なら話は別だ。
僕の好きな格闘ゲームが実は騙し合いのゲームだったなんて……面白いじゃないか。
攻撃すると見せ掛けて実は攻撃しない、そして騙された相手の隙をついて攻撃を当てる。フェイントというやつだ。
要するに騙した方の勝ち。
言われて初めて気付いた。
そして僕は単純だから騙しやすい……そういう事か。
光「ケン! もう一回だけ!」
僕が対戦をお願いすると同時に帰りの時刻だと告げる
ケン「残念! 今日はオレの勝ち越しね」
どうやらタイムオーバーらしい。
だが、今度の対戦までの課題が出来たので良しとしよう。
その日の夜はギルとの会議になった。
ベッドの上に横たわりギルに
どうやったらもっと勝てるようになると思う?
「うーん。フェイントだよねぇ? まずは我慢するのが必要かなぁ☆」
我慢かぁ……。我慢は苦手なんだよねぇ。
「そうだよねぇ……☆」
現実世界での僕は我慢が苦手だった。
じっとしている事に苦痛を感じるのだ。
とにかく時間が許す限り遊んでいたいタイプだ。
それはゲームでも同じで、じっとしている事がとても苦手だから無駄に動いてしまう。
格闘ゲームと言えど、本物の格闘技と同じで、相手との間合いや、呼吸に合わせた動きが大事だ。僕は間合いの取り方が下手なのだ。そして一瞬の隙が命取りになる。
ゲームなので格闘技と違い相手が倒れるまで攻撃する。
ルールは生きるか死ぬか……。
格闘技というよりも、一対一の殺し合い。
体力ゲージが無くなれば負け。たったそれだけの事だが、それは僕の好きなキャラクターの死を意味する。
勝つ事だけを目標に……ただただ自分の自己満足の為に時間を費やす。
もしこれがゲームじゃなければみんなから誉められるのだろうが……。
所詮ゲーム如きに本気になった所で誰も誉めてくれない。
そこに名誉なんてものは存在しないのだ。
でも僕自身が成長しなければ間合いの取り方も上手くなる事は無い。
結果、僕にとってのゲームは自身の成長に興味が持てる唯一のアイテムでもあった。
それを全て分かった上で僕はゲームの中で自分を表現していた。
そんな僕がゲームの本質に気付くまでにはもう少し時間がかかる事になる。
だが今はまだゲームを楽しむのが生き甲斐。
それで満足だった……。
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