第50話 if…… 3

 みんな! 元気かな?


 僕はとっても元気だよ!


 何故かって?


 それは勿論……。


 保健室にいるからさ!


 なんで保健室にいるのかって?


 そんなの簡単! 熱が出ちゃったのさ……


 僕はゴホゴホ咳をしながら保健室のベッドで横に寝転がっていた。

 そう……、僕はどうやら風邪をひいてしまったようで全くもって元気では無かった。

 一時間目の授業から少し調子が悪い感じがしていたが、二時間目の授業の終わる直前辺りで限界を迎え今に至る。

 僕の悪い予感は良く当たる。

 しかし良い予感は当たったためしがない。

 今回もそうだった。

 朝は絶好調で、今日は絶対良い日になると思ったのになぁ……。


 ズキズキと頭が痛み何も考える気になれない僕はひたすら月子ははの迎えをベッドで待っていた。


 段々悪い予感がしてきた。


 悪い予感は当たるんだよなぁ……。


 その後、月子ははと一緒に家に帰ったが、月子ははが『お医者さんに診てもらった方が良さそうね』と近くの小児科へ行くと言い出した。


 やっぱりかぁ……。


 これは多分注射コースだよなぁ……。


 小児科へ到着し、しばらく待合室で待つ。

 小児科なので待合室には子供が飽きないように積み木など色々な玩具が揃っていた。

 優理の付き添いで一緒に来ることもあり、自分が元気な時はガッツリ遊びに夢中になるのだが……今日は遊ぶ気にもなれないほどぐったりしていた。


 そういえば僕がまだ五歳ぐらいの時にとんでもない子供がいたと月子ははが言っていたな。


 当時、優理が熱を出して僕も一緒に連れられて小児科へ来たのだが、待合室にいる四人の子供達の中で大暴れをしているガキ大将が一人いたらしい。


 そこへ僕が加わりガキ大将と大暴れしていたそうだ。

 玩具の取り合いなんか当たり前。

 そんな僕達の事が心配になりながらも、優理の診察の為に月子ははは診察室へ入っていったのだと……。

 そして診察室から帰って来ると僕達もんだいじたちは他の子供達にちょっかいを出して仲良く遊んでいたそうだ。


 そこへ優理が加わり六人の子供が入り交じることになるのだが、僕がそのガキ大将に『優理このこはぼくのおとうとだからいじめたらダメだからね! ほかのこはいじめてもいいけど』と言い放ったらしいのだ。


 月子ははがこの話をした時に、『こんな小さな子(光)が弟を守る為、しっかりお兄ちゃんしていてすごいなと思ったよ』と褒めてくれるのだが、今改めて思うことは、どう考えても僕が一番問題児だろ? ということだ。

 自分の記憶には無いからどうでも良いといえばどうでも良いのだが、きっと月子はははただの親バカだろう……。


 ついでにもう一つ親バカ事件でも話すことにしよう。

 僕は左利きなのだが、右利きなのだ。

 何を言っているか分からないと思うだろうが自分でも何を言っているか分からない。


 両利きというわけではない。

 ご飯を食べる時の箸は左利き。

 文字を書く時の鉛筆も左利き。

 それ以外はほぼ全て右利きなのだ。

 スポーツの投げる、蹴るは右手、右足。

 力が強いのも右手、右足。

 ハサミも包丁も右利きなのだ。

 まあ包丁に関しては父親ラスボスに言われて意識して右手で持つようになったのだが。父親ラスボスが言うには『左利きの包丁なんかあるかぁ! 右手で持てぇ!』とのことだ。


 書くのと食べるのだけ左利き……。

 何故こんなチグハグなのか?

 これに関しては親バカ月子つきこが原因と思われる。


 月子おやばかさんが昔誰かに言われたらしいのだ。『左利きの子は頭が良い』と……。

 そして月子おやばかさんは自分の子供には頭が良くなって欲しいと願い、右手で持つ鉛筆を左手で持たせてお絵描きをさせていたというのだ。

 そう。本当は多分右利きだったのだ。

 そして僕がお箸を左手で持つのを見て不味いと思ったらしいのだがすでに書くのとお箸は左利きで確定されていた為、右利きに矯正は出来なかった。

 その話を僕がすると『ごめんね』と月子ははが謝るのだが、僕は『気にしてない』と答えるようにしていた。

 困るのは習字の時に留めと払いが逆になってしまうので習字だけは右手で書くようにしている。

 それ以外は困った事が無いので本当にどうでもいい……。

 むしろ特別感があるから今はその事については感謝しているぐらいだ。



看護師「立花 光君……どうぞー」


 名前を呼ばれた。

 遂に診察が始まる……。


 心臓が高鳴り、ドクン、ドクンと脈を打つ。

 診察の中へ入り、椅子に座る。

 喉の目視確認、お腹の触診、肺の音を聴診器で聞かれる。


光「大丈夫だから」


 僕は大丈夫と、か細い声でお医者さんに言った。

 しかし、それも虚しくお医者さんは『熱があるから注射しときます』だと……。


 やっぱり悪い予感が大当たりだ。

 予言者にでもなろうかな……。


 注射は嫌いだ。

 でも、もう逃げられない。

 僕は潔く受け入れるしかなかった。


 右腕を差し出しアルコール消毒される。

 このひんやり冷たいのが一番怖い。

 今から注射するぞ! って感じがするからだ。

 そこから注射を打つまでの時間がものすごく長く一秒が十秒ぐらいに……まるで思考加速ザ・ワールド状態のようだ。


お医者さん「はーい。今から注射しますよー。……はい。終わり。頑張ったね」


 終わってしまえばなんてこともない。

 少しだけ痛かったが泣くほどでもなく、何故こんなに怖がっていたのか自分でも不思議だ。

 初めて注射に対しての考えを改めた瞬間だった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る