第54話 if…… 7
二月……。
それは男達にとって勝者と敗者に分かれる月……。
まさに生きるか死ぬか。
今更頑張っても意味が無い。
良い行いをしてきた者だけが生き残る。
僕は今年一年を振り返りながら勝ち組になる事を確信していた。
そう!
バレンタインデーだ!
明日、二月十四日は女の子からチョコレートを貰える日だ。
厳密には女の子が好きな男の子へチョコをプレゼントする……が正しいのだが、僕にとってはチョコが貰える日なのだ。
普段、学校へお菓子の持ち込みは禁止されているが、この日だけは先生達も許してくれる。
そして僕はすでに三個以上貰えることが確定している。
チョコは貴重だ。
なんせ立花家にはお菓子が無い。
たまに
この前のギルとのやりとりでオレンジジュースを話題に出したが、十二月の終わり頃からオレンジジュースが家に二十本以上も置いてあったのだ。
これは極めて異例で、お菓子に限らずジュースも普段は置いてない。それが正月用にと家にジュースがあるのは僕の中ではビッグニュースだったのだ。
ちなみにお菓子は無いが酒のつまみはある。
漬け物やピーナッツやらなんやら……。
基本おやつは焼き芋だったり、ホットケーキ等の手作りが主力。
正直かなり良い食生活を送っていたのだが、子供からするとやはりお店で売っているお菓子の魅力は絶大だった。
そういえば鰹節や昆布をおやつにした時もある。
料理で使う出汁取り用の昆布……。
これをおしゃぶり昆布として食べまくった事があるが、めちゃくちゃ怒られた。
食べる時の昆布は人指ぐらいの大きさなのだが、昆布はお腹の中で巨大化するらしい。
それを知らずにいくつも食べると巨大化した昆布でお腹が破裂してしまう。
僕はもう少しで昆布で死ぬところだったかもしれない。怒られて当然だ。
案の定その日の夜はお腹が痛くなったのを覚えている……。
そんな理由で僕にとってバレンタインデーは貴重なチョコが入手出来る数少ないイベントだったのだ。そしてチョコの入手先の一人は
去年も貰えたから今年も貰えるはず。
翌日、イベント本番。
教室に入ると朝からみんなの気合が滲み出ていた。
なんかこうオーラみたいなものが視えるような視えないような。
「みんなのオーラやばいね☆」
どうやらギルにはオーラが視えているらしい。
「君はオーラ出さなくていいの?☆」
大丈夫。僕にはそんなもの必要ないのさ。
「王者のオーラ出てるよぉ☆」
おっと、しまった。ついうっかりオーラを出してしまったか。
「でも、本当にすごいオーラが出てる子もいるんだよねぇ☆」
どんな感じのオーラ?
「君がゲームやってる時よりはちょっと弱いぐらいのやつで、好きな気持ちが全開☆」
それは相当なオーラだな……。
僕は自分では気付いていないがゲーム中にオーラが出ているらしい。集中力の高まりに合わせてオーラが大きくなるのだとか……。オーラはギルにしか視えないが、そう言われてみるとオーラぐらい出ていてもおかしくないと自分でも思うぐらい集中する時が多々ある。そんな僕のゲーム中のオーラを基準にするぐらいのオーラを出せる子が同じクラスにいるなんて、少し興味が湧いてきた。
ギル。誰が凄いオーラ出してるの?
「ないしょ〜☆」
今は授業中だが、オーラの持ち主が誰なのかに意識が持っていかれすでに授業どころではない。
自分の席から目線だけでチラっと周りを見てみるが全く分からない。
さて、気になってしまったものはしょうがない。
本日限定イベントの特別ミッションが始まった。
【オーラの高い人物を探し出せ!】
難易度 ★★★☆☆
オーラが凄くて好きな気持ちが全開……。
ヒントがこれだけで難易度星三つは少なすぎたかもしれない。
そう思いつつもすでに僕はゲーム感覚で色々考えていた。
授業中なのに好きな人の事で上の空。
まるで僕みたいなやつだな。
ゲームと恋愛の違いはあるが……。
要するに僕みたいに遊んでいる子を探せば良いんだろ?
とは言ってみたが、クラスで遊んでいる子はいない。みんな優秀なのだ。
たまに落書きしたりする男子や手紙をやりとりしている女子はいるが、とてもオーラは感じられない。
僕を基準に出来るほどのオーラが出ている状態。僕なら頭の中はゲームの事でいっぱいでそんな他事出来ないはずなのだ。
きっと好きな気持ちが全開って事は頭の中はお花畑みたいになってることだろう……。
しかし、クラスメイトのみんなは真面目な顔して授業を受けているようにしか見えない。
ギル。ヒントちょーだい。
「だーめ。もうちょっと良く見ていれば分かると思うよ☆」
ほんとにぃ??
みんな真面目な顔してるから分からないよ?
「君もゲームの事考えている時は真面目な顔してるよぉ☆」
なるほど……。
考えていることがゲームだったとしても、他の人から見たら真面目な顔になるのか……。
ってことは、真面目な顔で好きな人の事考えているのもあり……。
僕は一つ違和感を覚えた。
待てよ……。
普段僕が若ちゃん先生にあまり怒られない理由が初めて分かったかもしれない。
今まで僕は真面目な顔して授業を受けていたのだ。
考えている事は基本ゲームの事だ。
しかし他の人から見たら真面目に授業を受けている。
僕自身が騙すつもりは全く無い。
しかし、若ちゃん先生は騙されていたのかもしれない。
僕はその事実に気付き唖然とした。
想像して欲しい。
僕が真面目な顔してゲームの事を考えて、オーラ全開で授業を受けているところを……。
若ちゃん先生は絶対に勘違いしてるはずだ。
「あれ……気付いちゃった?☆」
流石に気付いたよ。
でも……、マジかぁ……。
なんだか悪気が無いのに悪いことした気分になり落ち込んでしまう。
僕はそっと若ちゃん先生の方を向き、心の中で「ごめんなさい」をした。
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