第55話 if…… 8

 取りあえず若ちゃん先生へは心の中で謝罪したので、自分の中で勝手に許しを貰った事にしておく。


 その後の授業でも僕はオーラの持ち主を探していたがなかなか見つけられなかった。

 体育の授業中のドッヂボールで顔面にボールを貰った子が怪しい気もしたが、いつもから鈍臭い子だったのでオーラ持ちからは除外した。

 他にも授業中にトイレへ行く子などの容疑者はいたが、そもそも集中力全開の時はトイレへ行くことが無い。

 そして四時間目の社会でのことだ。

 若ちゃん先生が変な質問をしてきた。


若ちゃん先生「はーい。じゃあちょっと面白い話ししましょうか」


 面白い話?

 なんだろう?


若ちゃん先生「もしお魚が食べられなくなったら、みなさん悲しいですよね」


 魚……。

 刺し身は好きだから困るな……。

 クラス全体で『かなしいー!』とか、『うれしいー!』等みんな好き勝手に返事をしている。


若ちゃん先生「そうですね。お魚が嫌いな子は嬉しいかもしれませんね。でも先生はお魚好きだから悲しい気持ちになっちゃうなぁ」


 何人かの女子が『せんせーかわいそうー!』と同時に発言した。

 すでにお魚が食べられなくなることが決定してるような会話の流れだ。


若ちゃん先生「実はね……海で捕れるお魚は、捕っても良いですよーっていう場所が決まっているの」


 不思議に思ってか『なんでー?』と誰かが言った。


若ちゃん先生「ちゃんと場所が決まってないと、外国の人にお魚ぜーんぶ持っていかれちゃうかもしれないでしょ? だから、ちゃんとみんなでお話して仲良くしよーねーって約束してるんだよ」


 なるほど。

 それは知らなかった。

 確かにちゃんとしておかないと喧嘩になりそうな気もするからすんなり納得出来た。


若ちゃん先生「でもね。もし日本の海が外国の場所になっちゃったらどう思う?」


「たいへーん!!」


 クラス全体の子供達の声で合唱してるかの如く響き渡った。

 ほぼ全員一致の答え。

 思わず僕もその合唱に加わってしまった。


若ちゃん先生「日本のいちばーん南の島に沖ノ鳥島っていう島があるの。でもこの島が海の波とかで段々小さくなってきていて無くなっちゃうかもしれないの。もし島が無くなっちゃうとその辺は日本の海じゃなくなっちゃうの……」


「何でー?」


 誰かが僕の気持ちを代弁してくれた。

 非常に助かる。


若ちゃん先生「そういうお約束なのよ……。」


「そうなんだー!」


 また誰かが返事した。

 おい。納得するな……。

 そこ、凄く気になるところだぞ……。

 僕は何故島が無くなると日本の海じゃなくなるか気になったがそのまま話が進んでしまった。


若ちゃん先生「じゃあここでみんなに問題! 島が無くならないようにするにはどうしたら良いでしょうか?」 


 突然クイズが始まる。

 若ちゃん先生のこういう所が子供達に人気の理由の一つでもあった。

 ただ退屈な授業だけではないのだ。

 僕がその事に気付くまで半年以上は時間がかかった。でも、今は若ちゃん先生が特別良い先生なんだろうなと理解していた。


 みな挙手をしてクイズに答えようと必死だ。

 何人かは手を上げていないようだが……。


 そこへ先生が一人の名前を呼んだ。

 呼ばれたのは頭の悪い三谷君だ……。

 僕が言うのもなんだが、三谷君は感情でしか行動出来ないタイプで勉強は全くダメな子だった。

 自分が嫌な事は絶対に嫌で貫く姿勢は僕に似たところも感じたが、三谷君は普段絶対に挙手しない。

 しかし、今回みたいな面白そうな事に関しては積極的に動く。

 そして若ちゃん先生はそこを見逃さない。普段は挙手出来ない子にしっかりとアピールする場の提供をする。

 三谷君は自分の席で立ち上がり元気良く発言する。


三谷「魚は嫌いだから何もしなーい!」


若ちゃん先生「あら残念。何もしないと島が無くなっちゃいましたー。でもお魚嫌いだからしょうがないかな。じゃあ三谷君は座ってください。他にはどんな意見があるかな?」


 三谷君は発言出来て満足している様子だ。

 またみんなが一斉に手を上げる。

 その後も、数人が答えていったがなかなか正解しない。

 一人、『お祈りする!』との意見が出たが、流石は若ちゃん先生、『お祈りは先生気付かなかったわ! もしかしたら上手くいくかもしれないけど、残念ながら不正解』と一応褒めていた。

 僕の家のトイレに「やれるまで、できるまで、できなくてもほめること」と張り紙があったのを思い出す。

 子供は褒めて伸ばすと良いって言われるがそれを実行できるのは若ちゃん先生の実力だろう。


 僕も頑張って手を上げていたがなかなか当てられない。

 取っておきの答えを考えたのに残念だ。

 そう思った矢先、『じゃあ次は立花君!』とお呼びがかかった。

 僕は元気良く返事をして立ち上がる。

 そしてこう言い放った。


光「コンクリートで固める!」


 すると先生が驚いた顔で『正解!』と一言。

 僕は完全にネタのつもりで答えたのだが正解してしまったのだ。


光「なんでやねん!!?」


 思わずツッコミを入れてしまった。

 その瞬間クラス全体が大爆笑だ。


若ちゃん先生「立花君すごいね! まさか正解が出るとは思ってなかったから先生びっくりしちゃった。もしかして答え知ってたの?」


光「知らなーい! でも正解しちゃった!」


 大丈夫だ。

 僕もまさか正解すると思ってなかったのだから。

 そしてみんなの笑い声が止まらない中、一人だけ真剣な顔でこっちを見ている子がいるのに気付く。

 ぽっちゃり系の中井さんだ。

 もしかしたら中井さんは答えを知っていたのかもしれない。それを僕が答えちゃったもんだから悔しかったのだろう……。


 その後、若ちゃん先生が色々教えてくれた。

 沖ノ鳥島がコンクリートで固められて日本の海を守っている事。

 その方法は偉い人達がみんなで考えて実行されたこと。

 そのおかげでスーパーやお寿司屋さんが助かったこと。

 しかし、日本の偉い人は僕と同じレベルの脳ミソってことなんだろうか?

 偉い人って本当に偉いのか?

 僕としては少し不安材料が残る話になったが、まあそれも今だけ。明日になればそんな事はどうでもいいボックスに収納されてしまう。


 四時間目の授業が終わったところで僕は今日が年一回の限定イベントであること、そして特別ミッション【オーラの高い人物を探し出せ!】はすっかり忘れてしまっていた。

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