第56話 if…… 9
六時間目の授業が始まってしばらくすると、
「ねぇ。なんか忘れてない?☆」
そうギルに言われたがすでに何を忘れたのかさえ分からない。
たまに自分の記憶力の良さに驚くことがある。
ついさっきまで覚えていたことをすぽーっんと抜け落ちるように忘れてしまうのだ。
今回も同じだ。すぽーっん! だ。
「えぇぇ〜。つまんないの〜☆」
忘れたということは僕にとって忘れるぐらいどうでもいい事なんだろう。
そんな事よりもコンクリートで島を固めるってどう思った?
「そりゃあびっくりしたよ。まさか君が冗談で言ったことが正解なんて思ってなかったし☆」
だろ? こっちの方がよっぽど重大事件だ。
若ちゃん先生が頑張って色々教えてくれたが、僕の中ではすでにその島の名前はコンクリー島と名付けられている。
「コンクリー島って!?☆」
だってコンクリートの島だろ?
コンクリー島……バッチリしっくりじゃないか?
「確かにそうだけど……多分君のクラスでしか分かる人いないと思うよ☆」
もし、今後その島が僕の中で本当に重要になったらちゃんと名前を覚えるよ。
「君は記憶力が良いから大丈夫か……☆」
ギル……皮肉にしか聞こえないぞ。
「ごめんごめん。悪かった☆」
そういえばさっき中井さんにガン見されてたけど、大丈夫かな〜?
「ダイジョウブダヨ☆」
誤魔化してるわ〜。
完璧に誤魔化してるやつだわ〜。
どう大丈夫なの?
「トニカクダイジョウブダヨ☆」
全く理解は出来ないがギルが言うなら大丈夫なのだろう。
このパターンは慣れた。
どうせギルが絡んでトラブルになるやつだ。
半年以上もの付き合いだから対策もある。
それは……何もしないこと。
過去にも何度かギルの『ダイジョウブ☆』には騙されているのだが、大体は本当に大丈夫だったのだ。
逆に怪しんで頑張ると裏目に出て大変なことになる。
この前の冬休み中の事だ。
「あっ……☆」
何? 僕何か変なこと言った?
「ダッ、ダイジョウブダヨ☆」
光「うん! しゅんにく大好き!!」
「あっ、あのね……それはちょっと違うかも☆」
何が違うの? もっといっぱい欲しいってはっきり言った方が良い??
「いや、そうじゃなくてね……☆」
ギルはダイジョウブって言ったが心配だ。肉がいっぱいじゃないと僕は嫌なのだ。
光「しゅんにくいっーーぱい買ってこ!!」
その日の夜……鍋を囲みながら家ですき焼きパーティーを行ったのだが、その時になって初めて僕が大きな間違いを犯していたことに気付く。
そう。
そして僕は昼間に春菊が大好きだと言い放っている。本当は旬肉のつもりだったのにだ。
ちなみに春菊はお世辞にも美味しいとは言えない苦さがある。大人になれば大丈夫なのだろうが、子供の中で春菊が好きなやつはまず居ないだろう。
しかし……僕はこの日から春菊が好きな小学生になってしまった。大好きだと言ってしまった手前、間違えていた事を言い出せなかったのだ……。
春菊に支配された罰ゲーム的なすき焼きパーティーも何とか牛肉に救われて乗り切ったのだが、『美味しい!』と嘘をつきながら春菊を完食してしまった為、来年以降も
あれは大失敗だった……。
「春菊は大変だったね☆」
というわけで、僕はこのまま何もしないことを宣言する。
おやすみなさい。
「まだ授業中だよ?☆」
今日はなんだか疲れちゃったの……。
気付くと六時間目の終わりの挨拶をしていた。
慌てて立ち上り挨拶をすませる。
そのまま何事もなく放課後に……ならなかった。
何故か中井さんに呼び止められた。
中井「これ……」
良く見ると手にラッピングされた小さな箱を持っている。
思い出した……。
今日はバレンタインデーだった……。
っていうか、今僕の目の前で起こっている事に頭が追いつかない。
寝起きのせいもあるが、想定外過ぎる出来事の為麻痺しているのだ。
ギル! ピンチだ!?
「ドッ、ドウシタノ?☆」
取りあえず時間稼ぎだ。
ギル! 大変だ!
誤魔化してる場合じゃない!
今人生で二回来るチャンスの内の一回目を使ってしまったのかもしれない!!
「それ、この前漫画で見たやつ……☆」
でもそうとしか思えない。
中井さんって僕はほとんど話をしたことが無いんだぞ!?
それがいきなり実は好きでした……みたいな少女漫画的な展開で今まさに目の前に中井さんが!
「ちょっと落ち着いて……途中から何を言ってるかチンプンカンプンになってるからぁ☆」
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