第44話 危険と機嫌と棄権 15

 僕は今庭で宝探しをしている。


 金銀財宝がこの庭に眠っている……訳では無い。


 探しているのは宝物かみきれだ。


 何故紙切れを探しているかって?


 それは時をさかのぼり、お昼ご飯で美味しいお刺し身を食べ終わった後の事だ。


 しばらくみんなで遊んでいると、月子ははがやってきて山盛りのお菓子を持ってきたのだ。

 子供達全員が喜んでお菓子に群がると、月子ははからストップがかかった。

 よく見ると山盛りのお菓子は袋分けされており、それぞれに数字が書かれた紙が貼ってあった。


「なんだろうね?☆」


 僕も不思議に思いそれを眺めた。


月子はは「これより宝探しゲームを開催しまーす!」


 突然、月子ははがそう言い放った。


月子はは「みんな揃ってるわね〜? では〜……ルールを説明しまーす!」


 『ルールは簡単。

 番号が書いてある紙を小さく折りたたんで庭に隠してあります。

 番号が書いてある紙を見つけてきたら番号のお菓子と交換でーす!』


 それを聞いた子供達みんなが一気に目を輝かせ始めた。

 やはり月子ははは只者ではない。

 子供の心を掴む術を持ち合わせたスーパーデラックスギャラクティカファンタスティック遊び人だ。


 更に月子ははは何枚もの紙を隠してあると言い出した。

 中にはハズレも存在するらしい。

 ハズレの紙は白紙になっており、紙を見つけた後も開いて確認するまで楽しめる仕様になっていた。


 探しに行く順番は年齢が若い順。

 玄関からスタートで力斗が一番だ。

 力斗が見つけたら次に焔と優理。

 その後、五分後に雅と日向。

 また五分後に由良と僕の番だ。


 力斗はまだ四歳なので月子ははのフォローが入りながらの探索になる。

 恐らく背の高さとかを考慮して月子ははが宝物を隠しているはずだ。

 力斗が見つけやすい宝物を先に僕が見つけないように対策済みというわけだ。


 ゲームと言えばすぐにデジタルな物しか思い浮かばない僕には出来ない芸当をやってのける月子ははを僕は心から尊敬した。


 そんな理由わけで、その紙切れが無いとお菓子が貰えないのだ。


 すでに焔と優理までは無事宝物をゲットしているが、雅、日向、由良と僕は現在宝探し中なのだ。


 庭には石造りの灯籠が何個か置いてあり、そこに隠してあると踏んだ僕は一目散に狙ったのだが、一枚目は見事にハズレだった。


 やるな! 月子つきこ

 心の中で月子ははを称賛し次の宝物を探しに行く。

 思ったよりもめちゃくちゃ楽しい……。

 そう思いながらふと周りをみると、みんなも本当に楽しそうにしていた。

 力斗はお菓子をすでに食べ始めており、優理はそれを見て笑っている。


 とても楽しいのだがそれに反して何故か急に切なくなってしまった。


 今この瞬間が永遠に続けば良いのに……。


 明日の事が頭をよぎったのだ。

 明日は三日目。

 自分の家に帰らなければいけない日。


 思わず涙が出そうになりなんとか我慢した。


「まだ終わってないよ!☆」


 ギル……。

 そう、今日はまだ終わってない。

 明日が来る前に今日を楽しまなければ!

 気持ちを切り替え宝探しに集中しよう!


 不意に由良の声が『やったー!』と響いてきた。

 どうやらアタリを見つけたらしい。

 僕も負けてられない。


 縁の下とかも探してみたが中々見つからない。

 もっと簡単に分かる場所なのか?

 取り敢えずもう少し奥へ進んでみよう。

 庭石の上を歩きながら探索を続けていると、庭の最奥の手前で庭石と庭石の間に挟まっている宝物かみきれを見つけた。

 こんな見つけやすい所に置いてあるなんて、あからさまに怪しい。絶対ハズレだろ?

 そう思いながらも一応拾って確認する。

 するとしっかり数字が書いてあるじゃないか……。

 まさに裏の裏をかかれた気分だ。


光「みつけたー!!」


 大きな声で叫びながら玄関の方へ向かった。

 そして月子ははに宝物を渡し、見事お菓子をゲットする。

 この時点でほぼ全員見つけられていたが、雅がまだ見つけられていないようで由良と焔が協力していた。

 僕はそれを眺めながら軒下に腰をかけていた。

 日差しが眩しい。良い天気だ。

 普段は家の中にいる事が多いので今日の太陽はよけいに眩しく感じる。

 そして、由良の姿も眩しかった。

 何に惹かれているのだろうか?

 自分でも分からない。

 今はきっと雅の為に宝探ししている一生懸命な所に惹かれている。

 明日になればまた違う所に惹かれるのだろう。

 明日……。


「帰りたくないね☆」


 そうだな……。

 帰りたくないな……。


焔「おねぇーちゃーん! あったよー!!」


 燃えるような焔の声が響いた。

 どうやら見つかったらしい。

 これで全員ミッションコンプリートだ。


 お菓子が全員に行渡りこれで宝探しゲーム終了……。


月子はは「宝探しゲーム! 第二弾!!」


 なに!?

 第二弾だと!!?


月子はは「あと七枚ハズレの宝物が隠されてまーす! みんなで探しましょーう!」


 なるほどね……。

 ていのいい後片付けか。

 物は言いようってね……。


 それでも後片付けは楽しかったから月子ははは本当に凄いな。


 そうしている間にも太陽は少しずつ傾いていく。

 明日が近づいてくる。


由良「えー! ママ達だけ帰ればいいじゃない」


 由良が母親と揉めている。


由良の母「そんなこと言っても迷惑かかるからダメよ」


由良「今日も泊まるの!」


 由良の母はかなり困っていた。

 そして僕も困った。

 由良は今日も泊まっていくと勝手に思い込んでいた。

 まさか今日でお別れとは……、心の準備が間に合わず放心状態になる。

 どうやら仕事の都合で両親は必ず家に帰らなければならないらしい。

 僕は由良ともっと話がしたいし、遊びたかった。

 そんな思いも虚しくここで棄権リタイアか……。


父親ラスボス「おう。泊まっていけよ! なんやったら明日海に行ってから家まで送ってやるぞ」


 何処からともなく父親ラスボスがやってきて神の一声で由良と日向はもう一日泊まる事になった。

 その時だけは僕の中で父親ラスボス父親かみさまに格上げになった。


 二三日しばらくの間は父親かみさまの言う事をちゃんと聞くことにしよう。そう心に誓った。

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