第20話 アナザーワールド 6

詩織「今日は楽しかったー!」


雛「うん! リンゴすごかった!」


光「今度は負けないし!」


雛「理科の宿題、いつもひかる君が一番だもんねぇ」


詩織「でも算数では絶対勝てないもん。理科ぐらいたまにはいいでしょ?」


光「良いけど、次は絶対勝つ!」


「絶対は無いんでしょ?☆」


 そうだった……絶対は無いのだ。

 その内本気でやっても負ける日が来るかもしれない……。

 少しばかり不安になりつつ詩織と雛に「また明日」と告げようとして思い留まった。


 雛を羽ばたかせるのだ。

 ほんの少しでも良い。

 なにか……、雛の主導権になる話題を……。


「社会の宿題は雛が一番だもん☆」


 ギル……社会は嫌いだ。

 じゃなくて、社会か。

 完全に見落としていた。

 自分の苦手な事や興味が無い事に関しては全くの無関心だったのが仇になっていた。


光「雛は社会がいつも一番だよね?」


雛「うん! 社会は得意♡」


 ……。あれ? それだけ?

 得意分野の話を出せば意気揚々と話し出すと思っていたが全然会話が続かない。

 羽ばたかねえー!

 全然羽ばたかねぇよ……。

 ギル〜。助けて〜。


 久しぶりにギル頼みになるが、かまってられない。早くしないと二人共帰ってしまう。

 

「むーりー☆」


 じ、えーんど。

 打つ手無しかぁ……。


雛「そろそろ行くね!」


光「あっ、うん」


詩織「じゃあね!」


 手を振って二人を送り出す。


 さて、部屋に戻ってまた反省会だ。

 もうちょっと作戦をしっかり練らないと。

 どうやって羽ばたかせようかな?


「今のままでも良いと思うよ。雛は雛だから☆」


 どういうこと?


「雛は楽しんでたってこーと☆」


 そうなの? 宿題してただけなのに?

 理解が出来ない。

 確かに宿題は一人でやるより、三人でやったほうが楽しい。

 でも、やっぱり遊んでいたほうが楽しいに決まっている。

 今日はほとんど宿題しかやっていない。

 たいして面白い話をした訳でもないし、もちろん遊んでもいない。

 それなのに……、宿題を楽しんでいるということは……。

 分かった!

 もしかして雛には遊び人の才能が……。

 何事も楽しむあの最強の才能を持っているのか!?

 雛はまださなぎで羽ばたく必要すら無い。

 そして、羽化してちょうになったら月子ははみたいなイタズラ好きになるのだろうか!?

 

「う〜ん。どうかなぁ? どっちかというと、宿題というよりも三人で一緒にいる事を楽しんでるかな☆」


 分かったような分からないような……。

 結局僕が頑張ろうが頑張らまいが、雛は楽しかったってことか。

 そうだよなぁ。いつも二人で一緒にいるぐらいだから、それが雛の楽しみ方なんだろうな。

 何も考えずに納得しておこう。


 無駄な事してたと思うとなんだかガックリしてしまう。

 ギルぅ?

 もしかしてこうなる事分かってた?


「ナンノコトカナ☆」


 出たよ! カタコト……。

 まぁいいや。部屋に戻ってゲームしよっと。


 部屋に入りベッドへ横たわる。

 ゲームの電源を入れてコントローラーを手にする。

 格ゲーでもやろうかな……。


「珍しいね! 格ゲー☆」


 うん。本当は一人でやっても面白く無いんだけど、今日は格ゲーの気分なの。

 格ゲー自体は良く修の家でやっている。

 だから、格ゲーが珍しいのだ。

 一人で格ゲーするのは気分転換したい時が多い。

 誰のせいだろうねぇ。


「誰のせい?☆」


 ギルのせい!


「えぇ〜。あんなに頑張ったのにぃ〜☆」


 頑張ったのはぼーく!

 ギルはお手伝いさん!

 しかも知ってたんだろ?

 作戦失敗するの。

 あーあ。

 そう言いながらコントローラーをガチャガチャさせてCPUを薙ぎ倒す。

 CPU相手なら余裕なんだけどなぁ。

 修と対戦すると勝率は五分五分だ。

 力が拮抗している為修との対戦は凄く楽しい。

 修は何でも出来る。勉強も運動もゲームも何でも来いだ。

 

「でも頑張ることに意味があると思わないかい?☆」


 うーん。頑張ることは大事だと思うけど……。

 頑張らなくても出来るならそれが一番。


 いつからだろう?

 頑張ることを拒絶し始めたのは……。


 なんか、頭ん中がボヤけてきた。

 やだやだ。

 考えるの止め!

 ゲームに集中しよっと!


 ゲーム画面に集中するとCPUに負けかけている。

 本気を出して逆転狙いだ!


「まだちょっと早かったかな☆」


 ギルが呟いていたが、頭フル回転中の僕の脳には届かなかった。


 しばらくすると外が暗くなっていることに気が付いた。お腹が減ってきた気がする。リビングへ向かうとすでに弟達が晩ご飯を食べていた。

 しまった!


光「ご飯もう出来てたの?」


月子「何言ってるの? 出来てすぐに呼びに行ったら光返事してたじゃない」


 全く記憶に無い!

 無意識に返事していたらしぃ……。


 今日の晩ご飯は野菜炒めだ。恐らく十分前まではとても美味しそうな焼き肉だったはずの物体が大皿に盛り付けられている。

 箸で皿の上を探索するがやはりほとんど野菜しか無い。肉の欠片かけらをなんとか見つけご飯を流し込んでいった。


月子「そうそう。来月のどっかの日曜日で遊園地所行きたくない?」


光「行きたい!」


 やった!

 遊園地だ!

 絶叫だ!


月子「じゃあ決まりね! 良かった。」


 ん? 何が良かったんだ?

 分からん。


「君、インドアだから行きたくないって言うかもしれないって心配してたんだよ☆」


 なるほど。

 遊園地なら行くに決まってるじゃないか。

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