第21話 アナザーワールド 7

 最近は山へ行く事が多かったからなぁ。

 遊園地か……。楽しみだ!


「みたいな所ね☆」


 ギルは細かいなぁ。

 焼き肉だった残りカスとおひたし等、夕食を全て平らげてから風呂場へ向かった。

 すでに力斗はお風呂から上がっており、月子ははと優理は体を洗い終わっていた。入ってすぐに頭と体を洗い浴槽へ飛び込む。


月子「そろそろ三人で入るのも大変になってきたね」


光「えー。もう一緒に入れなくなる?」


月子「もうちょっとの間は大丈夫かな? でもすぐにもっと大きくなるから順番こになるかもね」


光「じゃあ、大きくならなければ良い。ご飯我慢する」


月子「お母さんはみんなが大きくなるのが幸せだから、ご飯はちゃんと食べてね」


光「はーい……。」



 風呂から上りバジャマへと着替える。

 月子はははここからが時間勝負だ。

 この時間帯の月子ははは加速する。

 目にも止まらぬ速さで身支度をするのだ。

 化粧と着替えを合わせて十分弱。

 あっという間に支度を終えて玄関へ辿り着いた月子ははは、お店の店長の顔、月子ママになっていた。


光「いってらっしゃい!!」


月子「いってきます!」


 仕事へ向かう月子ママは自慢の母だった。

 授業参観等でたまに母親が来るのが嫌だと言うクラスメイトがいたりするが、一度も嫌だと思った事は無い。

 クラスメイトの母親達の中でもグンを抜いて綺麗だったから当たり前かもしれない。

 強いて言うのなら父親ラスボスだけは来てほしくなかった。

 心の底から切に願うほどに嫌だった。


 一度来たことがあるのだ。学校に。

 その時はコンパスを忘れて教室で怒鳴られた。

 みんなビビっていたが、まだ優しい怒鳴り声だった。『てめぇー! 馬鹿やろぅ! 何でそんなもんも持ってこれんのじゃあ!!』と言われながら頭を殴られたのだ。吹っ飛ばなかったから本気で殴った訳では無い。だが、教室内が一瞬で凍りつく程の迫力は十二分にあった。もちろん次の日から光の父親おやじヤバいとクラスで有名になったのは言うまでもない。

 父親ラスボスといえばこんなこともあった。

授業の内容で【お父さんのしごと】といった作文を書かなくてはいけなかったのだが……、何を書けば良いか分からずかなり困った。

 結局、【お父さんはマージャンをやったり夜おさけを飲みに行くのがおしごとです。】と書いて提出した。マージャンと飲み歩きが仕事ってどんなん? って思い月子ははに聞いた所、『横の繋がりはとっても大事だから立派な仕事』とのことだった。


 さて、遊んでいてお金が稼げるなら最高なので、当面の間は楽して稼ぐ道を歩むことにしよう。勉強なんかしなくても大丈夫。僕ならなんとでもなるさ。ギルもいるし。


 その為にも時間いっぱい遊ぶぞ!


 この頃から覚悟はあった。

 算数が好きな僕は1+1が0になる答えを出していたからだ。

 多分、月子ははのおかげだろう。

 さんざん言われてきた言葉『勉強なんて今しか出来ないよ。やりたい事がやりたいと思った時には手遅れになる。だから勉強は頑張ったほうが良いよ』と。

 逆転の発想でだからこそゲームが楽しめるのだ。子供の今この時にしか持ち得ない、または感じられない事があるのだ。

 だから僕はを生きる。

 一つの事を楽しむということ。

 それは一つの何かを犠牲にしている。

 勉強の時間を犠牲にしてゲームをする。


 さらに逆を返すと子供の頃に遊んでばかりいると大人になってから大変になる。

 月子ははの言っていることそのままだが、しっかり理解していると思っている。

 だから……。


 僕は大人になってから本気出す!


「遊びながら勉強すればいいじゃん☆」


 そのうちね!

 ゲームの電源を入れながらギルに返事した。

 夜はこれからだ!

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