第37話 危険と機嫌と棄権 8

「じゃじゃーん! 呼んだ?☆」


 流石ギル。呼ばれて飛び出てじゃじゃじゃじゃーんだ。

 というか、ギル。

 本当に小学生か疑われるネタはそろそろやめとこうか……。


「だってこの前テレビでやってたもん☆」


 おぉっと。それ以上の発言は禁止だ。


 早速本題に入る。


「女の子に好かれるにはどうすればいいか?☆」


 ちっが〜う!


 違わないけど違う!


 夜のドライブでしっかり楽しんだ足だけお化けは絶好調なようだ。

 このままコントを続けても良いが日が暮れるので止めておく。


 なんか由良と雅の会話に入れないんだよね。

 完全にアウェイっていうか、なんていうか……。

 飼犬の事とか知らないし……。


「じゃあ教えてもらえばいいんじゃない? 犬君の名前とか〜☆」


 犬、興味ないもん……。


 僕の悪い所が出てしまった。

 興味が無いことに関しては全くダメなのだ。

 別に名前とか知りたいと思わないし、聞いてもすぐ忘れるし……。


「でたよぉ〜、いつもの『興味ないね』ってやつ……☆」


 全く興味が無い訳ではない。

 だが、見たこと無い犬の名前なんてすぐ忘れる自信しかない。

 考えてみてよ……。

 自分が可愛がっている犬の名前をすぐに忘れる男の子に対して女の子はなんて思う?


「最悪だねw☆」


 だろ?

 それだけは避けたいのだ。


 この前詩織の家で説明を受けたアイドルグルーブのメンバーの名前も思い出せない。

 むしろ何人グループかすらも忘れた。


「詩織かわいそう〜☆」


 うるさい。しょうがないだろ?

 興味無かったんだから……。

 それよりも!

 犬以外でなんかない?


「ならゲームとか?☆」


 ゲームか……。

 それなら得意分野だ。

 だけど、ゲームの話って女の子はあまり好きじゃないんじゃない?


「由良なら大丈夫だって☆」


 なるほど。

 ギル……、心の中を見た?


「ちょこっとだけね☆」


 実は最近、相手の心の中はなるべく必要最低限しか聞かないようにしていたのだ。

 何故かって?

 そんなの簡単な話だ。


 つ、ま、ら、な、い! から。


 そう、つまらない。

 面白くないのだ。

 テストでカンニングするのと一緒。

 カンニングすれば百点なんて簡単に採れるだろ?

 インチキやチートは良くない。

 悪い事をすれば必ず自分に降りかかってくる。

 それに、なんとなく相手の気持ちが分かるから困ったことがあまり無い。

 何年も父親ラスボスの顔色を気にしてきた僕にとって多少のことは自分の力だけで余裕だった。


 それに例えば……、

 だが、詩織や雛に、実は嫌われているって分かってしまったら明日から生きていけない。

 絶望の毎日になる可能性だってあるのだ。

 そんな危険リスキーな事は回避したほうが良いだろ!?

 だから僕の事を好きとか嫌いとか……、そっち系の感情だったりはなるべく聞かないようにしているのだ。

 特に相手が女の子の場合はね……。


 というわけで由良にゲームの話をしてみたのだが……。

 ジャンル……、というかやっているゲームが違い過ぎてなかなか共通の話題に持ち込めない。

 しかも、結構やりこんでいる。

 話の主導権を由良に奪われてしまい焦る僕。

 由良こいつ、もしかしてゲーマーか??

 心の中で戸惑いと喜びが同時に押し寄せてきた。

 だが、このままだとゲームの話が終わってしまう……。

 よし。

 僕の持ってきたゲームをやってみてもらおう。

 そうすれば話の主導権を取り返せるはずだ。


光「由良ちゃん。このゲーム面白いからやってみてよ」


由良「いいけど、どんなゲーム?」


光「RPGゲームで、とにかく面白いから」


 由良はほとんどRPGゲームをやった事が無いらしい。どっちかというとアクション系が多いので、この機会に是非RPGゲームにハマってもらおう。


由良「じゃあちょっとだけやってみるね」


 僕は軽く操作方法だけ教えてあげ、しばらく補助していたが由良はすぐに要領を得て自由に遊び始めた。


 暇だ……。

 すでに何回かクリアしているゲームなので正直他人がやっているのを見ていてもつまらない。


 見ているのも飽きて来たので違う事をして遊ぶことにした。

 僕は日向を探しにその場を離れる。


 優理達とはいつでも遊べるが、日向とはここでしか遊べない。

 僕は恋人を探しにいくようにワクワクしながら日向を探しにいったのだが……、それが間違いだった。


 すぐに日向を見つけて一緒に遊んでいたのだが、しばらくして由良の元へ戻ってくると何やら優理が慌てているのが目に入った。


優理「光君……。やばい」


 どうした?

 何があった?


優理「なんかね。遊んでたらセーブ消えちゃったって」


 ……???


 セーブ消えちゃった???


由良「うん。なんかね、良く分からなくてセーブってとこ押してみたよ」


 やられた……。

 まさかセーブデータを上書きされるとは思ってなかった。


 普段はその危険性を危惧して優理達には絶対に僕のRPGゲームは触らせていなかったのだ。


 優理の顔が段々青ざめているのが分かる。

 セーブデータを上書きしたのが優理だったなら間違いなく僕は怒り狂い鉄拳制裁だったからだ。

 でも今回は相手が違う。

 つい先程初めて女の子で尊敬した……、そして憧れた相手……。

 頭で分かってはいるが僕は抑えられるのか?


「ザ・ワールド! 時は止まる!☆」


 不意にギルが叫んだ。

 そのせいで拍子抜けた僕は怒りの矛先をギルに向けた。

 それ! 僕の台詞!!!


「だって、我慢出来なさそうだったからさぁ……しょうがないよね☆」


 でも内心ホッとした。

 そして助かった。

 ギル。グラッツェ!


「どういたしまして☆」

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