第36話 危険と機嫌と棄権 7
ちなみにこの玩具のパズル。
中々に難しい……。
何度かやり直してみたが上手く出来ず、十分以上頑張ってやっとクリアできた。
気付いたらご飯を食べ終わった子供達が茶の間に集まっていた。
またみんなで遊び始め、僕は従兄弟が持ってきたゲームを一緒にやることにした。
二人で対戦できるパズルゲームだ。
丸い形のぷよっとしたやつが二個連なった状態で画面上から下に落ちてくるぽよぽよというゲームだ。
そこで僕は衝撃を受けた。
僕はパズルが好きだった。
多分学校のクラスで一番得意だと思う。
頭の構造がもともと理数系なのだろう……、同学年になら負ける気がしなかった。
だが、そんな僕が勝てないと思う敵がここにいた。
従兄弟の男の子だ。
名前は
相手は歳下……、僕が負けるはず無い。そう思っていた。
なのに、いざ対戦してみると僕は勝てなかった。
もちろん日向にはゲームの持ち主というアドバンテージはあると思う。
しかし、それ以上の力の差を感じた。
普段なら何回か戦えば勝てるはずと頑張る気にもなるのだが、なぜかそんな気になれなかった。
日向もパズルやゲームが好きなので格好の対戦相手のはずなのだが……何回かぽよぽよで戦って分かった。
僕が負けた時に日向が気を使ってその後、手を抜いているように感じたのだ。
ようするに僕が遊ばれていたということだ。
もしかしたら僕の過大評価かもしれないし、日向の性格のせいかもしれない。
僕ほど自分をアピールするタイプじゃないのだろう。
勝ち負けに対してそこまでこだわりが無く、遊びは所詮遊び。そう割り切っているような態度だった。
悔しいが僕とは違う世界を見ている……、そう思わせる何かを日向から感じた。
そんな日向には才能があった。
自分だけの世界観があり、それを形にする事が出来る才能だ。
そして日向の姉、
由良は僕の一つ年上。四年生だ。
二人は共通して独特の世界観を持っている。
そしてそれを形にしていた。
日向は自分の好きなぬいぐるみを使って動画を作ったりしていて、由良は飼犬が主人公の漫画を描いていた。
ゲームが終わってから少しだけ動画や漫画を見せてもらったが同年代の子供にこんな表現が出来るのかと僕は感動してしまった。
僕もやってみたい。
小説や漫画を描いてみるか?
好奇心が心に指示を出そうとするが自信が無い。
僕は文章を作ることが苦手だった。
【今日はカレーを食べました。美味しかったです。】
僕の日記は大体こんな感じになる。
文字というより何かを人に伝える事全般が苦手なのだ。
自分の世界の表現……。
自分に出来ないことが出来る二人の事が羨ましく思った。
学校では絶対に思わなかった事だ。
クラスメイトが出来る当たり前を出来なくても、羨ましいとは一切思わなかった。
むしろ心の中で馬鹿にしていたのかもしれない。
なんで宿題なんか真面目にやるんだろう?
……と。
今でこそ宿題はやっているが、それはお嫁さん達のおかげだ。
さらに言うなら、自分の為ではなく、僕の為に動いてくれている二人の為にやっている。
二人の気持ちに応える為だ。
これは強制ではなく、やりたいからやっている自発的行動。
強制的にやらされる事に関して断固拒否の姿勢を変えるつもりはない。
そして日向と由良の作品は強制ではなく、自発的な行動のもの。
やりたい事をやっているだけ。
たったそれだけの事が格好良く見えた。
僕のようにやりたいからゲームをやっているのとは明らかに違う。
僕の中で日向と由良は格好良く、僕は格好悪い。
そう思った。
憧れと劣等感。
やや憧れのほうが強い事が救いだった。
そして、女の子に憧れるのは初めてだった。
もちろん、どんなことでも楽しもうとする精神の持ち主、
僕もどんなことでも楽しめるようになりたいと思う。
だが、
詩織や雛に憧れた事は無い。
もちろん尊敬はする。
よくもまぁ、こんな面倒臭い性格の僕の為に毎日頑張るなぁとも……。
尊敬はするが、憧れはしない。
本気を出せば詩織が出来ることも、雛が出来ることもやれる気がしていた。ただ本気を出したくないだけだ。社会も嫌いだがテストの点数はそこそこだ。漢字は苦手だが……、多分なんとかなるだろう。
そんな訳で、日向とは別のゲームで遊び尽くした後はしばらく由良に絡むことに決めた。
由良は基本女子会を開いている。
ここへは僕を含む三家族が里帰りしているのだが、女子会メンバーは由良とは別の従兄弟二人の合わせて三人。
頭が良いがちょっと天然な女の子の
この二人は姉妹で、雅が日向と同い年の二年生。焔がまだ四歳だ。
しばらく様子を見ていると由良と雅が話に花を咲かせているが、焔も負けじと話に入ってくる。
しかし、年齢差がある為たまに間違った解釈をしており、その発言に由良と雅が笑ったりして楽しんでいた。
すると焔の必殺技が炸裂した。
突然焔が泣き始めてしまったのだ……。
末っ子あるあるなのか、僕の感覚では末っ子は甘やかされているように感じる。だからちょっとしたことでもすぐ泣いてしまうのかもしれない。
雅「あーん。もう! 面倒臭いわね」
その一言でさらに焔の鳴き声は炎上する。
一度火がついたら消えないようになかなか納まる様子がない。
その点、僕の弟達は優秀だ。
日頃から僕のお陰で心身共に強く育っている。
ちょっとやそっとでは泣くことが無い。
そんなことを考えていると焔が台所へ走っていってしまった。
そして台所から声がする。
焔「おねぇーちゃんがわらったぁーー!!」
どうやらお祖母ちゃんに告げ口にいったらしい。
泣きながら発したその声は甲高く響き渡り、茶の間の子供達全員に聞こえた。
が、しかしどうすることも出来ない。
由良と雅は本当に笑っていただけなのだ。
お祖母ちゃん「あらあら、そうなの? 仲良くしてくださいねぇ」
かすかに声が聞こえてくるがお祖母ちゃんもどうすることも出来ないことを把握しておりとても落ち着いていた。
これが雅と焔のスタンダードなのだろう。
雅達の両親は共働きで普段からお祖母ちゃんの家に雅達を預けている為、お祖母ちゃんもこの二人のやり取りに慣れていたのである。
そしてお祖母ちゃんにあやされて満足したのか、しばらくすると泣き止んだ焔が戻ってくるのだ。
さて、どうしたものか……。
僕はこの女子会に乱入すべく作戦を考えてみたが、なかなかにハードルが高そうだった。
由良と雅は由良の飼犬の話し等をしているのだが、僕は二人の私生活や趣味の事を全く知らなかったのだ。
完全にアウェイ状態で会話に入る隙が見当たらない。
困った時の神頼み……、ではなくギル頼みだな。
光「ギル……」
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