第29話 アナザーワールド 15

 コンコン。


光「しつれーしまーす」


若ちゃん先生「あっ、光君こっちこっち」


 若ちゃん先生に呼ばれうつむきながら歩いていく。

 どーしよぉ。

 何にも考えずに来ちゃったけど大丈夫かな?


若ちゃん先生「ここに座って」


 僕は言われるがまま用意されていた椅子に腰を掛けた。


若ちゃん先生「朝の事だけど……、何があったかお話出来る? 先生心配なの」


 なるほど。

 そういうことね。

 それなら大丈夫。

 今なら話をすることが出来る。

 全部思い出した今なら。


光「うん。」


 そう答え若ちゃん先生のほうへ視線を向けた。


 !!!?


光「先生!? その服!」


若ちゃん先生「えっ? 先生の服を変かしら?」


光「いや! 変じゃない! 変じゃないけど赤い」


若ちゃん先生「あぁ、これ?」


光「さっきまでそんなの着てなかったよね」


若ちゃん先生「そう、職員室はちょっと寒いからね。ここではなにか羽織るようにしてるの。派手な色だからビックリしちゃた?」


 柔らかい色の服しか着てこない先生の肩には、赤色のショールがかかっていたのだ。

 それに、先生の座っている椅子をよく見てみると、ついに見つけた。

 そう、紺色の椅子だ。


 ギル!! 発見した!!!


 心の中でギルに叫んだ。

 ミッションコンプリート!

 最後のチートキャラ。

 それは若ちゃん先生だった。

 そう。この先生ならなんとかしてくれる気がする。


光「先生! あのね」


 なんて言おう。

 ちょっとだけ泣きながら説明したほうがいいかなぁ。

 でも嘘泣きはちょっと自信が無いし……。


光「あのね」


 もう何も考えずに話そう……。


光「パパとママがね……。喧嘩してて。だから本当は帰りたくなくて……。僕仲良しがいい……」


 勝手に涙が溢れてきた……。


若ちゃん先生「なるほどね。大変だったね」


光「うん……」


若ちゃん先生「分かった! 先生がお母さんに電話してあげる。大丈夫だから先生に任せておいて」


 僕は首を縦に振って少しの間泣いていた。

 不思議だ。もう全然大丈夫だと思っていたのに自然と涙が出てきたので自分でもビックリしている。そして先生なら任せられる。第二のお母さんみたいなものだ。

 そしてギルは知っていたのだろう。若ちゃん先生が心配してくれていたのを……。


 安心感で泣いてしまったのもあるのかもしれないな。

 職員室内には他の先生もいて落ち着かないが、それももう少しの我慢だ。

 

若ちゃん先生「おまたせ! もう大丈夫よ。お母さん元気になったって。喧嘩もしてないって。」


 やった!!

 僕は満面の笑みで先生に返事をした。


 本当の、本当の……、本当にゲームクリアだ!


 職員室を後にして僕は校庭に出た。


詩織「おーそーいー!」


雛「リンゴぉ……、ダメだよぉ、怒っちゃぁ……」


 そして、僕のお嫁さん達はやっぱり優秀だったみたいだ。

 三人で下校する。

 いつもの光景。

 いつもの普通。


 なんだか安心する。

 特別何かをした訳じゃないが、今日はいっぱい頑張った気がする。

 家に帰ったらゲームでもしてゆっくりしよう。


光「ただいま!」


月子「おかえり! 心配させてごめんね」


 いつもの月子ははだ。


「良かったね!☆」


 うん!

 

光「良かった!」


 ギルと月子ははに伝えてから、自分の部屋で寝転がった。


 もう問題が解決したからすでに頭の中はゲームでいっぱいだった。

 今日はレアアイテムでも取りにいくか。

 ハマっているRPGゲームで敵を倒した時に強いアイテムを落下ドロップするのだが、なかなか手に入らないのだ。


 夕食後、レアアイテムを取るために黙々とゲームをしていた。

 なかなか落ちない。

 ドロップ率が悪いのだ。

 そしてその敵自体も遭遇エンカウントしにくい。

 どれぐらいの確率かは分からないが、とにかく遭遇エンカウント出来ない。

 必死に雑魚敵ざこてきを倒しながらゲームしていたら、ふと気になる事を思い出した。


 昨日のあの場所で父親ラスボス遭遇エンカウントする確率ってどーなんだろ?

 今やってるゲームの敵より遭遇エンカウント率低いんじゃないのか?

 一度気になるともうダメだ。

 手はコントローラーを動かしているが、頭は昨日の遭遇エンカウント確率の計算でフル回転だ。


 何万人といたはずだ。

 少なくとも一万人はいたとして、一万分の一の確率??

 このゲームの敵と出会うよりも確率が低い。

 さっきから少なくとも十回に一回ぐらいは遭遇エンカウントしている。

 感覚で二〜三百回ほど戦闘をしていればレアアイテムはゲット出来るはずだ。

 アイテムゲットまでに必要な時間は五時間ぐらいだろうか?

 一日やってゲット出来たら運が良い。

 それぐらいの確率だ。


 昨日は朝から出かけていた。

 そして遊園地に着いたのが午前十時ごろ。

 お昼ご飯を食べ終わったのが午後一時前……。

 三時間ぐらいか……。

 

 そして僕が確認できる範囲。パッと見て、確認出来るのは半分以下ぐらいか?

 いや、もっと少ない。一度に二十人ぐらいか。

 五分毎に二十人の確認が出来たとしても……。

 一時間が六十分だから……。

 すれ違ったりして遭遇エンカウントした人達ざこてきは七百人ぐらいか?

 

 ウォーリーを探せだろ?

 【ウォーリーを探せ】って間違い探しみたいな絵本がある。同じ様な格好をした人達が沢山いてその中に隠れているウォーリーという人物を探す本なのだが……。

 リアルウォーリーを探せは無理だ。

 もう一度同じ事が出来るとは思えない。

 そもそも探すつもりで見つけた訳じゃない。

 たまたま見つけてしまったのだ。


 ……。


 何かが……、引っかかる。

 

 ギル? どう思う?

 もう一回あの人混みで父親ウォーリーは探せると思う?


「サ、サガセルヨ☆」


 やっぱり何かおかしい。


「キ、キノセイダヨ☆」


 絶対に変だ。

 僕は考えた。


 お風呂でも、夕食を食べる時も、ゲーム中も……。


 だが、答えは出てこなかった。

 何かが引っかかって気持ち悪いので今日は眠れないかもしれない。

 考えると同時にゲームの敵を倒し続けているが、レアアイテムもドロップする気配が無い。


 なかなか上手くいかないなぁ……。


「もうすぐラスボスが来るよ〜☆」


 もうそんな時間か……。

 ギル、ありがとう。

 僕は慣れた手付きで父親ラスボスが帰ってくる前に、ゲームデータを記録セーブしゲームの電源を切りベッドへ横たわった。


 ……。


 ……。


 ……。

 

 ギルさんや……。


 なんとおっしゃった?


「モ、モウスグラスボスガクルヨ……☆」


 おまえか……。

 ギル……。

 最後のピースは……。


「ナ、ナンノコトカナ☆」


 思い出した……。

 今度こそ本当に全て思い出したぞ。


 いつも通りだったのだ……。

 ボヤけて思い出せていなかっただけだ。


 あの時……、確かにあの人混みの中で父親ウォーリーを探すことは困難だろう。


 但し、それはだったらの話しだ。


 僕はいつもギルに教えてもらっている。

 父親ラスボスが近くに来た時に、素早くゲームを終わらせ寝たフリをする為に……。

 それが僕の普通あたりまえになっていた……。


 昨日、宇宙ブースで『ラスボスが近くにいるよ☆』と、昼食後にも『気を付けて。すぐ近くにラスボスがいる☆』と……、確かにギルから警告をもらっていたのだ。


 ギル……。


「ナニカナ☆」


 なんでもない……。

 

 ありがとう。


光「おやすみ」

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