第39話 危険と機嫌と棄権 10
お風呂はお祖母ちゃんの家で楽しみにしていたイベントの一つでもある。
そう。お祖母ちゃんの家のお風呂は普通のお風呂とは違う。
その一。風呂が家の中に無い。
その二。シャワーが無く蛇口からお湯が出ない。
その三。素人が入るには危険。
どうだ!? ワクワクしてきただろ?
僕はここへ来る前からギルと一緒にお風呂に入ると決めていたからとても楽しみだ。
まずは玄関へ向かう。
そしてギルの反応はというと……、
「なんでお風呂に入るのに外出るの!?☆」
最初からのこの感じ!
いいねぇ。
早くお風呂を見せてあげたいな!
まずはその一。
普通は家の中にあるはずの風呂が離れにある。家とは別の建物が庭にあるのだが、そこが物置小屋とお風呂になっているのだ。
だからお風呂に入る時はパジャマとタオルを持って一度家の玄関から庭へ出る。そして離れまでトコトコ歩いていき初めてお風呂とご対面だ。
「お風呂専用の小屋!? すごいね!!☆」
すごいだろ!
僕はまるで自分のお風呂のように自慢した。
小屋の中には通路があり角を曲がるとお風呂へ続く入口がすぐ見える。
そこで靴を脱いで扉を開けた。
中は脱衣所になっとおり階段二段分ほど床が高くなっている。
服を脱いで更に進むと風呂場だ。
「シャワーが無い……、けど結構普通だね☆」
ふっふっふっ。ギル。よく見てみろ。
「あれ? 蛇口のところに温度調整が無い!?☆」
そう。この蛇口からは水しか出ない。
「えっ! じゃあお風呂冷たいの?☆」
その二。
シャワーが無い。それどころか蛇口からお湯が出ない。そう、蛇口からは水しか出ないのだ。お風呂なのに水しか出ない。初めてお風呂に入った時は意味が分からなかった。
水しか出ないからお風呂を水から沸かすのだ。
まず浴槽に水を入れる。
次に浴槽を沸かす為、風呂釜で薪に火をつける。
そう。
昔ながらの薪風呂だ。
お風呂の浴槽の真下には釜があり裏から薪を入れられる造りになっている。下部に釜がある分、浴槽の高さが一段高くなっていて、それが違和感たっぷりで良い感じの雰囲気が出ている。
ちなみに水からお風呂の丁度良い温度のお湯に仕上げるまでに一時間以上かかる。お祖父ちゃんがせっせと頑張ってくれて初めてお風呂に入れるようになるのだ。
「五右衛門風呂みたいだね!☆」
そう。まさにそんな感じ。
浴槽が四角いだけでそのまんま五右衛門風呂だ。
どう? ビックリでしょ?
「そうだね! これはビックリするのが当たり前なレベルだよ☆」
だろ?
「でもこのまま入ったら五右衛門みたいに釜茹でになっちゃうよ?☆」
大丈夫だよ。
壁に木の板みたいなのが立てかけてあるだろ?
「うん。ちょっと気になってはいたんだけど……、それ使うの?☆」
そして最後にその三。
お風呂の浴槽にそのまま入ってはいけない。
浴槽の真下で釜に火を入れている為、もちろん浴槽の底は激アツになっている。
そのまま底に足をつけると火傷するからすのこに乗って底に敷かなければいけないのだが……、上手くしないと木で作られているからお湯に浮いてしまうのだ。
僕は三年生になりある程度体重が増えたから大丈夫だが、幼稚園児等の体重が軽い子供が一人で入ると、すのこが浮いてひっくり返ってしまう危険性がある。
優理達にはまだ一人でお風呂は早すぎるのだ。
お風呂初心者が気を付けなければいけないことがもう一つある。
それは温度調整だ。
浴槽のお湯に船の形をした水温計をプカプカ浮かばせる。そしてたまに温度の確認をしてお風呂に水を足さないと大変な事になるのだ。薪風呂は下で薪を燃やしているから、体を洗っている内にお湯の温度が勝手に上昇していってしまう。
お鍋でお湯を沸かすのと一緒なのだがガスコンロみたいに火をつけたり消したりする事が簡単には出来ない。だからある程度薪に火がついている状態を維持しなければいけないし、火を消した後も予熱でしばらくは熱いままなのだ。
温度確認を忘れてうっかり入ってしまうと大火傷してしまうというわけだ。
「おぉぉ……☆」
ギルがついに言葉を失った。
僕はとても嬉しくなってはしゃぎながら身体を洗いお風呂に入った。
そういえばシャワーが無いから風呂桶を使って身体を流すのにも『なるほどぉ〜☆』とか言っていたな。
いつもギルには色々教えてもらったり助けてもらってばかりだったから、何でも良いのでびっくりさせたり、教えてあげられる事がないかと前々から考えていた。
僕なりのちょっとした恩返しみたいなものかな?
まぁ、その後機嫌が良くなった僕のテンションが上がり過ぎてのぼせるまでお風呂に入ってしまい、脱衣所で裸で倒れてしまったのだが……様子を見に来た
それでもギルには喜んでもらえたみたいだから、今回は大成功だった。
お風呂から家に帰ってきた僕は、のぼせた身体を休ませる為しばらく茶の間で寝ていた。
元気になり起き上がると由良が漫画を読んでいた。表紙をチラッと見ると少女漫画だった。どうやら家から持ってきたらしい。僕も漫画は持ってきていたが自分で持ってきたものはすでに何回か読んでいるから暇つぶし用だった。
晩御飯を食べた後は寝るまで暇なので由良に頼んで一巻から読んで良いかお願いすると『いいよ』と返事をもらったので少女漫画を読むことにした。
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