第40話 危険と機嫌と棄権 11

 どうやら高校生一年生の女の子が主人公で同級生の男の子とキャッキャする内容らしい。

 そういえば少女漫画を読むのは初めてかもしれないな。

 ゲームやら漫画の有名処は大半押さえてきているが、女の子が好きそうなものは今までスルーしてきた。


「戦いは無いのかな?☆」


 ギル……。

 残念ながら少女漫画にギルの考えるような戦いは無い。もっと精神的で大変な戦いが繰り広げられるのだ。

 いや、たまに少女漫画でも戦闘が描かれているものもあるにはある。……が、今回のはそういうお話では無い。


「特殊な能力とかは?☆」


 それも、多分無い……。


「悪いやつは?」


 それは出てくるかも。


「戦闘も特殊能力も無しでどうやってやっつけるの?☆」


 いや、やっつけないから……。

 悪いやつっていっても、人が殺されたりはしない。ちょっとしたイタズラとかその程度の悪いやつだからやっつけたらダメなの。


「そうなんだぁ☆」


 そういえばギルについて気付いたことがあった。

 僕が初めて見る物とか知る事をギルも知らないのだが、どうやらギルと出会うより前に外で見たものとかも知らなかったりする。

 今回も同じでお祖母ちゃんの家のお風呂とか、もちろん少女漫画もギルは知らなかった。

 かわりに僕が知らない事、小学生が分かる程度の一般常識なんかは良く知っていた。


「男の子と女の子が仲良くなるだけの話?☆」


 そうだよ。


「君。そんなの読めるの?」


 よっ、読めるよ。


「最後まで?」


 もちろん。

 こう見えてちゃんと僕も成長しているんだぞ。


「詩織の何処が好き?☆」


 ドッジボールが強いとこ。


「はぁぁぁ……☆」


 そこ! 大きいため息つかない!


「最後まで?」


 読む!


「読んで内容 理解わかる?☆」


 馬鹿にし過ぎ!

 ちゃんと理解るし!

 僕が特殊なの!


 そう。僕が特殊なのだ。

 流石に恋愛感情ぐらい理解りかい出来る。

 理解は出来るが言葉で説明は出来ない。

 ざっくりと異性に対する好きな気持ちの事だろ?

 僕の恋愛感情それは女の子限定とは言い難いものだ。

 まあまて、勘違いはするなよ。

 僕はちゃんと女の子が好きだ。

 むしろ大好きだ。

 ただ好きな部分が女の子限定ではないというだけだ。

 例えばドッジボールが強い事。これは相手が男の子でも当てはまる。男の子に対しての好きは友達としての好きだ。

 しかし相手が女の子だったらそれは恋愛感情として処理される。

 単に優先順位の問題かもしれない。


 人として好きかどうか?

 性格が好きかどうか?

 ……ドッジボールは性格なのか?


 すぅ~……、はぁ〜……。

 大きく深呼吸してからため息が出た。

 難しい問題だ。

 僕は何故詩織が好きなのか?

 やっぱり言葉にするのが難しい。


 考えるの止めよう。


「なんかごめんね☆」


 大丈夫。

 それよりも、せっかく少女漫画を初めて読むのだ。集中しよう。


 しばらくすると、月子ははが茶の間へやってきた。


月子はは「そろそろ寝る時間よ」


 気付いたらもうそんな時間か。

 まだ二巻目の途中までしか読めていない。


 どうしよう。

 由良も漫画を読んでいるから借りるのは無理だろうし……。

 僕が一巻を読み始めた時、由良は三巻目を読んでいた。

 今は四巻目を呼んでいるところか?


 全十巻が目の前に揃っている。最後まで読むと一度決めた以上、今日の内に全巻読んでしまいたい。

 だがしかし何も良い案が浮かばない。

 『ちょっと待ってて』となんとか時間を稼ぐが、流石に全部読み終わるまでは待ってはくれない。

 困っていると、不意に由良が動いた。


由良「光君は今日何処の部屋で寝るの?」


光「分からない。お母さん。今日寝る場所、何処の部屋?」


月子「今日は二階の部屋よ」


由良「いいなぁ! 私二階の部屋で寝たこと無いから一度あの部屋で寝てみたいわ」


月子はは「そうなの? お母さんに聞いてみたら?」


由良「ちょっと聞いてくる」


 これは思わぬ方向に話が進みそうだ。

 少女漫画を読みたいとは言えない。

 間違いなく明日にしなさいと怒られるからだ。

 だが、由良が一緒の部屋なら漫画を一緒に持って来ても問題ないはず。

 由良が笑顔で戻ってきた。

 どうやら説得出来たらしい。

 月子ははがお祖母ちゃんに説明して布団等の準備をしてくれ、二階の一部屋まるごと貸し切りで寝られることになった。

 しかも、なにやら日向も一緒に寝るとの事で子供三人、大人はいない。


 最高にいいシュチエーションだ!

 子供だけで部屋の貸し切り。

 夜更かししても誰にも怒られない。


 いや、もしかしたら由良は電気を消さないと寝られないかもしれない。

 でも僕の直感が大丈夫だろうと勝手に判断する。


「ドキドキしてきたね☆」


 何を言っているんだギル?

 ワクワクだろ?


「だって由良ちゃんと一緒に寝るんでしょ?☆」


 なるほど。

 そっちのドキドキか。

 残念だがギル。

 布団は別々だぞ。


「でも同じ部屋でしょ?☆」


 そうか、ギルは去年の事を知らない。

 去年は一階の広い部屋で子供だけの四人。

 僕と優理、雅と焔のメンバーで一緒に寝ている。


「そうなんだ!? 仲良しなんだね☆」


 そう。仲良しなのだ。


「でも由良ちゃんの事好きでしょ?☆」


 好きだ。

 でも、雅と焔も好きだぞ?

 なんなら女の子はみんな大好きだ。

 でも、女の子に対して『好きだ』と伝えると色々面倒臭い事になる。

 だから最近はなるべくそういう事を言わないようにしている。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る