第41話 危険と機嫌と棄権 12

 ちなみにギルにはドキドキと聞かれてワクワクで返したが、本当はちょっとだけドキドキもある。

 普段家では常に年長の立場で歳下が遊び相手だし、学校でも同級生が遊び相手になる為、年上とのコミュニケーションは貴重なのだ。

 そして由良は一つ年上のお姉さんだ。

 しかも初めて女の子で羨ましいと思える才能の持ち主。

 健全な小学三年生ならちょっとはドキドキするのが普通だ。

 そしてきっと僕やギルが知らない事とかも、いっぱい知っているのだろう。

 そんな大人のお姉さんなら何でも知っているに違いない。是非色々な話を聞きたい。漫画よりも話をしたくなってきた。やはりドキドキよりもワクワクが遥かに大きいみたいだ。


月子はは「布団の準備できましたよー! 寝る時間でーす!」


 僕達は素直に二階へと向かう。

 中へ入るととても涼しかった。

 何気にエアコンがあるのはこの部屋とお祖母ちゃん達の寝室だけなのだ。

 最初由良が一緒の部屋で寝たいと言い出した時はビックリしたがこういう事だったか……。

 ちょっとだけ期待しちゃった自分が恥ずかしい。


「由良ちゃんが君の事好きだと思った?☆」


 うるさい!

 ……ちょっとだけだ。


「由良ちゃんのほうがこの家詳しいね☆」


 そうだね。

 多分僕よりもこの家に来ている回数が多いんじゃないかな。


「そうなんだ!?☆」


 家が近いんだよ。

 確か電車で一時間ぐらいだったかな?

 雅と焔の家はもっと近いけどね。

 一回だけ見たことがあるけど、どんな家だったかは忘れちゃったな。

 そういえば由良の家には行ったことが無いな。

 もしかしたらもっと小さい頃に行ったことがあるのかもしれないが、記憶には無い。


 さてと、取り敢えず電気をつけたままで良いか確認だけ取るか。


光「由良ちゃん。その漫画読みたいから電気つけたままでも良い?」


由良「良いよ! 私も読みながら寝ようと思ってたから」


 第一関門突破……。


「やったね!☆」


 ああ。ここまでは作戦通りだ。


「由良ちゃんに何の話してもらう?☆」


 ここで僕はふと考えた。 

 数秒ほど考えた後僕が出した答えは……、ひたすら少女漫画を読む事だった。


 僕は漫画が好きだ。

 好きなものにはものすごい集中力を発揮できる。

 そして集中している時に邪魔されるのが嫌いだ。


 だから由良も邪魔されたくないのかもしれない。

 由良に話しかけるのやめとこう……。


 というわけで、僕はひたすら少女漫画に没頭した。


 僕が四巻目に突入した辺りで由良があくびをし始めた。

 おっ、おネムちゃんか?


「そうみたいだね☆」


 時計を見ると午後九時過ぎだった。

 よく見ると日向は完全に眠っているみたいだ。

 流石良い子ちゃんは寝るのが早いな……。


光「眠いの?? 電気消そうか?」


由良「光君は寝ないの?」


光「うん。僕はいつも夜遅くまで起きているから」


由良「そうなの? 怒られない?」


光「両親は夜仕事で家にいないからね。それで帰ってき時に寝たフリで誤魔化してる」


由良「なにそれ! いいなぁ〜。うちは八時には寝ないと怒られちゃうから」


光「そうなんだ。大変だね」


由良「そうなの! 大変なの! 見たいドラマとかあっても見れないから毎回録画したりして……、本当は次の日にクラスの友達とお話したいのに……」


光「すごい! ドラマとか見てるの?」


由良「そうよ。光君にはまだちょっと早いかもね」


 由良は眠気がどこかに飛んでいったように笑顔で笑っていた。


光「ドラマかぁ〜。確かに僕にはちょっと早いかも」


「ちょっとどころじゃないくせに……☆」


 あぁ、ギル。自分でも分かってる。ドラマには全く興味が無い。

 でも、ドラマを見てるなんてやっぱ由良は大人のお姉さんだ。


「ちなみにドラマってどんなの?☆」


 ギル。ドラマ知らないのか?


「うん。知らない☆」


 そこからか……。

 ってか、さっき『ちょっとどころじゃない』ってからかってきたじゃないか?


「それは君の心の中が分かってからかっただけ。ドラマは本当に分からないの☆」


 なるほど、興味無い事はギルにはバレてたか。

 しょうがないな。

 その前に……、思考加速ザ・ワールド! 時は止まる!


「えっ! なんでここでザ・ワールド?☆」


 由良と話がしたいからだよ!

 ずっと黙ってたら由良に変に思われるだろ!?


「なるほどね!☆」


 いいか? ギル。

 ドラマってのはなぁ……。

 大人のお遊戯だ。


「ふう〜ん。どういうこと?☆」


 だから、お、ゆ、う、ぎ!

 なんて言ったらいいかなぁ……。

 おままごと。みたいな?


「おままごとするの?」


 そう。おままごと。

 えーと、一応確認。ドラマがテレビでやってるのは分かる?


「それは君と由良ちゃんの会話でなんとなく分かった☆」


 それで、本当はお父さんじゃないけど、お父さんのフリしたりするの。


「偽者のお父さん?☆」


 そう。


「君のお父さんみたいな感じ?☆」


 ん? なんか嫌な予感。

 ギル?


「女の人とおままごとでしょ?☆」


 ちょっと違う……。

 さてはエンカウントキル事件の事だろ……。

 あれはまた別の話だ……。

 まぁ、そういうのもあるかもしれないが、そうじゃない。


 えーと……、劇!

 優理がこの前やってたやつの大人がやるやつ。


「なるほどね! この前優理が幼稚園でやってた劇だ☆」


 そう! それ!

 大人が劇をやって、それをカメラで撮って、テレビでやるの。


「ドラマは劇のテレビ版ね☆」


 ギル! 完璧だ!


 今回は割とすんなり分かってもらえた。


 正直もうちょっと時間がかかると思っていた。

 前にも同じ様な事があったのだが、僕の説明が下手過ぎてめちゃくちゃ大変だったのだ。

 アイドルグループが何故踊っているのか?

 この説明に三十分以上かかった。

 僕はアイドルに全く興味が無いから適当に「歌が下手だから」って説明したんだけど、「踊る人はみんな歌が下手」って事になってしまい、その後修正するまでに大分寄り道してしまったのだ。今ではちゃんと「歌ってない時暇だから」って事になっている。まぁ間違ってはないだろ? 多分……。


 さて、数秒ほど経過しただろうか?

 これぐらいなら頭が痛くなることもない。多分大丈夫だろ……。


 そして時は動き出す!

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