第42話 危険と機嫌と棄権 13
時間の感覚を通常に戻してから額に手を当てる。
よし頭は痛くなってない。
由良「どうしたの? 頭痛いの?」
光「んーん。なんでもないよ。大丈夫」
心配したのか由良が僕の顔を覗き込んでくる。
「ドキドキ☆」
ギルが僕の心臓の鼓動を代弁する……って、
うるさいわ!
顔がちょっと近すぎたからビックリしただけだ。
由良「ふーん。そういえば聞こうと思ってた事があるんだけど、今大丈夫?」
僕が漫画に集中してたから由来も気を使ってくれていたのか?
光「うん。な〜に?」
由良「光君ってさぁ。なんであんなに無茶苦茶なのに、優理君に好かれてるの?」
ん……?
なんでだろう?
いきなり難しい問題が飛んで来た……。
普段から僕は優理に対しては理不尽全開で接していたりする。
遊んでる玩具を奪うのなんて当たり前だった。
そうじゃない時もあるはずだが、なんでと聞かれると分からないぞ?
光「なんでだろうね?」
由来「なんで光君が分かんないのよ」
僕の返事が余程面白かったのか、由来が苦笑しながらこらえていた。
別に面白いこと言ってないんだけどなぁ……。
光「だって本当に分かんないんだもん」
由来「光君って面白いね」
そう褒められて素直にちょっと嬉しい。
光「由来ちゃんも漫画とか描いてるの凄いよね!」
僕もすかさず褒め返す。
この辺僕は抜かり無い。
自分がされて嬉しいことは相手にも嬉しいと思われるはず。
由来「ありがと! ねぇ……、光君ってさぁ。学校に好きな人とかいるの?」
光「いるよ。」
由来「そう……、なんだ。」
僕はすかさず答えた。
条件は学校のクラスメイト。
その中に好きな人がいるか?
もちろん即答でイエスだ。
「君さぁ……☆」
ギル?
なんか間違っていた?
気のせいか由来の顔もなんだか暗い感じがする。
「ナンデモナイ。マチガッテナイヨ☆」
間違ってないなら大丈夫だ。
光「学校で好きな人は一番が詩織で二番が雛。あと、三番目に若ちゃんかな?」
「あっ☆」
何? ちゃんと話の流れで異性縛りで答えたけど若ちゃん先生はダメだった?
「ダメじゃないけどダメかも☆」
光「若ちゃんは担任の先生ね。詩織と雛は一緒に宿題やったりするよ」
慌てて若ちゃん先生に関しては補足しておいた。
由来「へぇ〜。光君モテるんだ……一番の詩織ってどんな子?」
光「詩織はね、ドッジボールが強いの」
由来「ドッジボール?」
光「そっ。ドッジボール」
ん? なんかこのやり取り……前にも一回やってるような、懐かしいような……。
由来「その子と付き合ってるの?」
光「付き合ってはないよ」
「あーあ。お嫁さん泣いちゃうぞ☆」
嘘ではない。お嫁さんとかはおままごとみたいなものだからノーカンだ。それに付き合うとかは小学三年生には早すぎるだろ?
由来「そっか。まぁ……いいわ。漫画読みましょ」
そう言った由来の顔は少しだけ大人のお姉さんだった。
機嫌も良さそうだし、さっき暗い感じに思えたのは気のせいだろう。
由来は黙々と漫画を読み始めた。僕も続きを読もう。
しばらくの間沈黙の中漫画を読み進めると、やたら主人公の女の子と男の子がイチャイチャするシーンが増えてきた気がする。
「君もチューしたいの?☆」
ちょっと待て。なんでそうなる?
「したくないの?☆」
そうじゃなくて!
したくない訳じゃないけど、なんで今言うかな……。
ギルのせいであたふたする。
僕の両隣には日向と由来がいる。
今の今まで何も気にしていなかったのに妙に意識してしまう。
由来は年上の女の子。
改めてそう思うとドキドキしてきた。
多分僕は由良の事が好きだ。
ただそれを上手く言葉には出来ない。
女の子だから好きではなく由良だから好きなのだ。
だが、チラッと隣を見ると由良の長い髪の毛が余計に女の子であることを僕にアピールしてくる。
ギル! キスは好きな人同士がするものなの!
分かった!!
僕はギルにそう言いながら、自分自身にも同じ事を言い聞かせようとした。
だが、一度気にしてしまうとなかなか漫画に集中出来ない。
ギルのせいだぞ!
「えへへ☆」
えへへ、じゃないよ! もう……!
ギル。今日はえらく機嫌が良いからなぁ……。
楽しんでもらえてるのは良いんだけど僕で楽しむのは止めてほしい。
そこへ更に追い打ちをかけてくるギル。
「そういえば、さっき漫画に出てきた
きせいじじつ……。
確かにそんな言葉が出てきた気がするが集中して読めていないせいか、なんとなく感覚で流し読みしていた。
もう一度読み直してみたがちょっと難しい。
きせいじじつ……。
僕にも分からないぞ……。
主人公の女の子が『
僕なりになんとか解釈を得ようと何度か読み直し答えを出す。
きっとあれだ。キスするって事だ。
「本当に?☆」
うーん。分からん……。
多分そう……だと思う。
そこで僕の悪い癖が出た。
光「ねぇ。由良ちゃん。きせいじじつってなあに?」
思わず由良に聞いてしまった。
が、本当に聞いても良かったのか?
恐る恐る由良の顔を伺うと、恥ずかしそうに困惑していた。
由良「光君のエッチ! もう寝るよ」
???
よく分からないまま怒られた。
おまけに電気も消されてしまった。
おい! ギル。
怒られちゃったぞ!?
「ソ、ソウダネ☆」
ギ〜ル〜……誤魔化してるし。
ドキドキしている場合では無くなってしまった。
光「由良ちゃん怒ってる?」
由良「……、おこってない」
急に電気が消され暗くなったせいであまり表情が分からない。
光「なんか、ごめん」
なぜか僕は謝っていた。
でもそうすることが一番なのだと思った。
しばらくすると由良は寝てしまったようで、僕の目も慣れてきた為豆電球の灯りを頼りに漫画を読み始める。
「寝ちゃったね☆」
うん。
明日もう一度由良に謝ろう。
由良の件もあり、
今八巻目で主人公が必死になっていて良いところなのだ。
そしてあと少しで全巻読破出来るところまできた。
流石に僕も眠くなってきたが、もうちょっとなので気合で頑張る。
集中! 集中!
こんな中途半端な状態で漫画が読めなくなったら絶対に嫌だ。
その後も僕は黙々と漫画を読み続けた。
そして全部読み終わるまでなんとか起きていられた。
初めて少女漫画を読破したが思ったよりも興味が持てる内容だった。
少年漫画でもある程度の恋愛要素は入ったりするが、恋愛メインでも結構ドキドキして面白い事が分かったのだ。
同年代の女の子が男の子より大人っぽい理由が何となく理解出来た気もする。
由良が僕から見たらかなり大人っぽいと思うのも普通のことだろう。
「キスしちゃえ☆」
ギル〜……それは少女漫画の話ね……。
主人公が寝たフリしてイチャイチャしてたやつだろ?
女の子から誘うのは難しいとかそんな内容のシーンだ。
あれは好きな人同士だからオッケーなの。
今僕が由良にキスしたら大問題になるの!
分かる!!?
「チェッ☆」
からかうのも終わり!
もう寝るよ!
その後の記憶は無く、気付いたらお昼前だった。
やはり相当眠かったのだろう。
もちろん隣には誰もいない。
日向も由良も朝ちゃんと起きたのだろう。
僕はもちろん夜更かしの代償で、朝の遊ぶ時間を昨日の夜に前借りした分を睡眠で返し終わったところだ。
よく寝た。
そして寝て起きた僕は由良に謝ろうと思った事を……、もちろんすっかり忘れていた。
着替えてからみんなのいるであろう茶の間へと向かう。
途中台所があるのだが、そこで
光「ふわぁ〜おはよう。お腹空いた。ご飯を
あくびをしながらご飯を
この前漫画で覚えた。
一度使ってみたかったのだ。
よし! なんとか伝わったようだ。
僕はよく
基本的にゲームの用語だったりするので伝わらない事が多いのだが、今回は成功だった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます