第33話 危険と機嫌と棄権 4

 しばらく走って行くと少し明るい場所が見えてきた。

 道の駅だ。

 道の駅って最初に聞いた時、電車無いのに駅? と思ったが、どうやら違うらしい。

 興味が無いので深堀りしなかったが、車で休憩出来る場所なのだとそう思うようにした。

 昼間だとお店がやってたりして、賑わっているのだが夜は薄暗く所々に灯りがあるので肝試しが出来そうな雰囲気だ。


父親ドライバーさん「光。トイレ大丈夫か?」


光「うん。大丈夫」


 そう答えると、そのまま道の駅を通り過ぎていった。


「お化けが出てきそうな感じだったね☆」


 ギルに言われて吹き出しそうになる。

 足だけお化けはギルだよ。

 僕は心の中で爆笑しながら答えた。


「それは君が視えていないだけだよぉ☆」


「ちゃんと体とかもあるからね☆」


 分かった、分かった。

 そういうことにしておくよ。


 やっぱりギルがいるたけでいつもの二倍楽しい気がする。


「そういえば、最近あれやってないよね☆」


 あれ、と言われて思考加速ザ・ワールドの事が頭に浮かぶ。


「そうそう。それ☆」


 そうなんだよね。実際に生活している中で必要になる事ってほとんど無いんだよね。

 それに問題点もあって、ギルが出てきていないと使えないんだよ……。


「それはそうだよ。だって厳密には君とのやり取りの加速だから☆」


 そう。僕の思考が加速ではなくて、ギルとのやり取りが加速することの副産物で僕の思考が加速しているのだ。だからギルがいない時に『あっ!』って思っても時すでに遅しなのだ。

 この間なんか大変だった。

 ドッジボールの時に、どっちにボールを避けようか迷って、ギルがいない状態で『ザ・ワールド!』って心の中で叫んでいたらボールが当たってアウトになってしまったのだ。

 多分、普通に避ければ当たらなかったはずなのだ。

 使いどころに慣れるまでちょっと大変なのだ。

 まぁ、ズルしようとしたばちが当たったんだろう。

 いや、当たったのはボールか……。


「あれなんだろうね?☆」


 山の中なのに家が建っている。

 三角形の藁の家みたいな建物が何件も並んでいる。帰りの時は明るい時間なので僕も気になって月子ははに聞いた事がある。

 昔からある建物でなんか凄いらしい。

 お祖母ちゃんの家までの通り道なので何度か見たことはあるが立ち寄った事は無い。確かに昔話に出てきそうな家だ。

 冬になると雪が降って大変だから屋根が三角形の形をしていて雪があまり屋根に積もらないのだとか。

 その三角家すごいいえの横を通るとき、僕は助手席の窓に顔を擦り付けるようにして眺めていた。


「雪が積もったとこも見てみたいね☆」


 そうだな。

 年に二回。夏と冬に里帰りするから冬になったらまた来られる。

 その時の楽しみにとっといて……。


父親ドライバーさん「おう! 光。鹿やぞ」


 突然、父親ドライバーさんに言われて進行方向に首を回した。


光「すげえ! 鹿だ!」


 鹿が見えると同時に叫んだ。

 車のヘッドライトに照らされて、道路上にぼんやりと鹿の姿が浮かび上がっている。

 鹿の両目がライトを反射し強調しているせいで、なんとも不気味な雰囲気をかもし出していた。

 だが、ビックリとワクワクが勝っており、怖いとは全く思わなかった。

 車がゆっくり近づいていくと鹿は山のほうへ逃げていってしまった。


光「あーあ。行っちゃった」


父親ドライバーさん「行ってくれんとばあちゃんの家行けんくなるぞ」


光「それはダメ」


 そこからしばらくは曲がりくねった山道だ。

 まるで車のゲームをやってるみたいな感覚になる。これが楽しみで助手席に座っているのだ。

 実際にはそんなにスピードは出ていないのだが、頭の中でアクセル全開と急ブレーキの連続でコーナーの度にドリフトをしているイメージをして楽しんでいた。

 だから、曲がり道を進む時は、【キー! キャキャキャキャ!】とブレーキとタイヤのスリップする効果音を頭の中で勝手にイメージして鳴らしていた。

 もちろん立ち上がりもアクセル全開のイメージでF1カーのような音が鳴り響く。……僕の頭の中だけで。


「ヴォーーーーン!☆」


 いや、ノリノリのやつがもう一人いた。

 流石僕の見込んだだけはある。

 絶対にギルなら一緒に楽しめると思っていたが、予想以上に楽しんでくれていた。


 一通り楽しんだあとはしばらく単調な道に出る。

 少し眠気が襲ってきたが気合でなんとか踏ん張った。

 

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