第32話 危険と機嫌と棄権 3

 村橋君の話はそれっきりで特に何か聞かれることもなかった。

 その後、詩織に明日から旅行だと伝えると、『お盆だから私も田舎のお祖父ちゃんの家に行く』と言っていた。

 どうやら日本の風習でお盆は里帰りがスタンダードらしい。あまり興味が無いので知らなかった。

 お盆は死んだ人が帰って来ると言い伝えがあるらしく、お墓参りでご先祖様と向き合って元気にやってます等のお話をした気分になるのが習慣なのだと。仏教の教えは中々面白い。それが本当ならいつまで経ってもご先祖様は成仏出来ないのじゃないか? 成仏出来たらお盆の時だけあの世もこの世も行き来し放題とか?


 それにしても雛はお盆なのに風邪とは……、ご先祖様に嫌われているのか? 可哀想だから何かお土産買ってきてあげよう。


 ちなみに僕は無宗教だ。宗教が嫌いな訳ではなくて、全部をちょこっとずつ信じている。

 その結果、神様はいないとの結論に至ったのだ。

 あえていうのであれば、僕が神様みたいなもんだ。僕の人生を決められるのは僕だけだ。そして詩織の人生は詩織が、雛の人生は雛が、みんなそれぞれが神様なのだ。

 だから唯一神ではなく、多神教信者かな?

 キリスト教のアルマゲドンとか好きなんだけどな……、その辺はゲームとか漫画の影響が強いのだろう。

 まぁ幽霊とか視える人には視えるっていうし、神様ももしかしたらいるかもしれない。ギルが視える時点で僕にとやかく言う資格は無いだろう……。 

 信じる人は救われるってテレビのCMでもやっていたし、どっかの誰かの歌では『神様はいない』って歌ってた。結局のところ気持ち次第だ。


 気が付いたら昼過ぎだったので、詩織に『楽しんできてね』と言って別れ昼ご飯を食べに自分の家に帰った。


 僕の今からのプランは適当に遊んで早く寝る。いつもなら夜中までゲームなのだが、今日は違う。

 夜中のドライブを楽しむ為に先に寝ておくのだ。

 優理達はもちろん夜中寝ているから、車には抱っこされて乗せられる。その後もずっと寝たままなので、朝気付いたら田舎のお祖母ちゃんの家にいつの間にかいる。あらビックリ! という感じだ。

 勿体ない。

 夜中のドライブがあんなに楽しいのに寝ているから知らないのだ。

 その点、僕は違う。知ってしまったのだ。

 お化けが出そうな山道を車でぐいぐい走る。

 普段見たことが無いような景色。

 暗闇の中に吸い込まれそうな感覚。

 夜のドライブは全てが異質でワクワクの連続だ。

 

 というわけで、夜はさっさと寝ることにする。

 後は夜の父親ラスボスの機嫌次第だな。



 ゴソゴソ……。


 ……??


月子はは「あら? 起きちゃった?」


 気付いたら僕は父親ラスボスに抱っこされていた。

 どうやら出発の時がきたらしい。

 車に乗せられた所で返事をする。


光「うん。起きた!」


月子はは「眠かったら寝てなさいね」


 そう言われたが大人しく寝ると思ったら大間違いだ。

 ここからが楽しいのに寝るはずがない。


 優理達は先に車に載せられていたようでしっかり眠っている。


父親ラスボス「忘れ物ねぇか?」


月子はは「ちょっとだけ待って」


父親ラスボス「おう。チンタラしとんなよ。さっさと行くぞ」


月子はは「オッケー!」


 うん。父親の機嫌は良さそうだ。

 運転席には父親ラスボスが、後ろの席に月子ははと優理達。助手席には僕。

 頭も冴えてきた。バッチリだ!

 いざ! 出発!!


 しばらく走って街を抜け山道に入る。

 何が楽しいかと問われると言葉に出来ないが、僕は過ぎ去っていく景色にずっと目を奪われていた。


 車のヘッドライトが前方を照らし延々と山道を進んでいく。周りにほとんど車が走っていないから独走状態だ。ドライバーさんの機嫌も上々。

 ふと目線を上に向けるとそこには満天の星空が広がっていた。

 目で見える星の数が街中とは圧倒的に違う。

 なんだか今この瞬間を切り取って残しておきたい。そういう気分にさせる力が山の星空にはあった。

 しばらく星空を眺めていると星が落ちてきた。


 流れ星だ!


 一瞬の出来事で願い事は言えなかったが、嬉しくなって叫んだ。


光「流れ星!!」


父親ドライバーさん「おう! 良かったな」


光「凄かったよ!!」


 父親ドライバーさんは運転しながら笑っていた。

 ふと後ろを見ると月子はははすでにお休み中だった。


父親ドライバーさん「疲れとるから寝かしといたれ」


光「うん」


 僕は素直に返事をした。

 月子ははは仕事してきているから眠いのも当然だと思ったからだ。

 その時ふと気になる事があった。

 父親ドライバーさんは眠たくならないのだろうか?

 まぁ、無敵の王様みたいなものだから大丈夫なんだろう。

 普段から絶対の権力を持つ王様は無敵。そんな考えにより、勝手に自己解決しておいた。


 そういえば、ギルと一緒にドライブしたいと思っていたのに呼ぶのを忘れていた。

 父親ドライバーさんにバレないように、ものすごく小さな声で『ギル』と一言。

 チラッと右側に目線をやるが、父親ドライバーさんは運転に集中しているようだった。


「さっきの流れ星凄かったね☆」


 召喚成功だ。


 凄かったでしょ!

 夜のドライブはいっぱい楽しいはずだから期待していて!


「期待してるよ!☆」


 楽しい事は一人よりみんなで楽しんだほうが絶対楽しいはず。

 夜はまだまだこれからだ!

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