第31話 危険と機嫌と棄権 2

詩織「大丈夫? 顔色悪いよ?」


 しまった!? 顔に出ていた……。


光「大丈夫。だけど、社会だけ今度やるってのはダメかな?」


 一応提案してみる。

 駄目で元々、上手く行けばラッキーだ。


詩織「そんなに社会嫌い?」


光「うん。もう、全く意味が分からない」


詩織「でもテストの点数はそんなに悪くないよね?」


光「それはそうだけど、問題の意味じゃなくて、やらなきゃいけない意味が理解わからないの」


詩織「??? 何言ってるの? 宿題だからやるの当たり前じゃない?」


 忘れてた……。

 僕が多分普通じゃないことを……。

 ある程度普通の事が出来るようになってきてたから完全に忘れてた。

 普通の子の反応はそうなる。理解わかってたはずなんだけど、つい本音で喋っちゃった。

 社会の勉強が何に必要か理解わからないという意味なのだが……、それすらも『勉強するのが当たり前』の一言で片付けられてしまう。

 

 算数、理科、国語が必要なのは理解している。

 国語は苦手だが……。

 社会は何の為に必要なのだろう?

 ちょっと前に真剣に悩んだことがある……。

 正直言葉にして説明出来る気がしなかった。

 仕事をする事って大変だなぁ。とか、

 みんなが頑張ってるから生きていける。とか、

 なんていうか、当たり前の事を今更学ぶ意味……。

 義務教育だから強制的にやらされる。

 の響きだけで蕁麻疹がでそうになるから先に拒絶しておく。

 うん。防衛本能だな。


 社会のこと考えると頭が痛くなる……。


光「ギルぅ……。社会嫌だぁ……」


 小声でギルに助けを求める。


「うんうん。嫌だねぇ……。社会☆」


 助ける気……無いね?


「社会はねぇ……。お手上げ! 今はまだ無理☆」


 今はまだ……。ってことはその内なんとかなるってことだな。

 ここは潔く今は諦めよう。


詩織「もう〜。今日は社会無しにしよっか?」


 僕がよっぽど悲しそうな顔をしていたのか、詩織が今日は社会の宿題を無しにしようと提案してきた。流石詩織、ありがたい。お嫁さんポイントアップだw


 ちょっとまてよ……。雛にはいつも答え見せてもらって書き写しをしているから、もしかしたら雛のお嫁さんポイントもアップじゃないのか?


 二人共のポイントが上がってしまうから結局ドローか……。


 そんなくだらないことを考えながら無事今日の分の宿題は終わった。

 それにしても初めて詩織の部屋に入った時は驚いた。

 部屋は女の子らしいぬいぐるみだらけ……ではなく、アイドルのポスターが壁に張り巡らされていた。そういえば下敷きもアイドルが何人か横並びになっているものだったなぁ。

 好きなものに囲まれているとモチベーションが上がる。もちろん詩織も同年代の女の子だ。完全無欠ではないから、勉強へのモチベーション作りの結果なのだろう。

 勝手にそう考えた時、親近感と好感が持てた。

 僕も一度やってみようかな?

 部屋の中に好きなゲームキャラのフィギュアとか漫画のポスターとか……。あとはゲーム専用の椅子とか置いてみたりして……。

 んー……、無しだな。

 僕の考えた最強の部屋では全く勉強出来る気がしない。

 そして部屋から一歩も出られなくなりそうだ。

 幸せ過ぎるのも問題だな。


詩織「それにしても、相変わらず算数と理科の問題はあっという間だね」


光「うん。好きだからね。問題も簡単だし」


詩織「なんか悔しいなぁ。私も結構頑張ってると思うんだけどなぁ」


光「ステータスが攻撃特化型みたいなものだからね」


詩織「それ……、またゲームでしょ?」


光「例えだって。詩織はバランス型」


詩織「そんなことないよぉ。私も社会好きじゃないもん」


光「そっか……。じゃあ詩織は頑張り屋さんだね!」


詩織「そっ、そんなことないし。ふつうだし」


 詩織がなんだか照れてて可愛い。

 もっとからかいたい衝動をなんとか抑えて我慢する。昔やり過ぎて失敗したことがあるのだ。小さい子によくあるあれだ。気になる子や好きな子にちょっかいだすあれ。その時は他の女の子だったが、その子が幼稚園でもらった折り紙を取り上げたりしていたら嫌われた事がある。なんでもほどほどが良いということだ。


 僕は昔から好きなものに対して一直線な性格らしい。周りが見えなくなることも多々ある。

 気を付けようとは思うのだが……、今でもその性格は変わっていない。その証拠にハマったゲームなら何時間でもやり続けられる。

 好きな子にフラれたらストーカーになるタイプかもしれないな……。

 気を付けよう……。

 最近は相手の気持ちになって考えるよう心がけている。だからトラブルもほとんど無い……はずだ。


 その後アイドルの話題を詩織にすると、三十分ぐらい延々と話を聞かされた。

 この人の歌が良い! とか、

 この人はダンスが凄い! とか……。

 まぁ、良く分からないから適当に相槌を打って『うんうん』と返事しておいた。そんな折に、


詩織「そういえば……、光君って村橋君と仲良い?」


 詩織の口から突然クラスメイトの名前が出てきてビックリした。あまり仲の良い友達では無かったので僕は首を横に振った。


光「突然どうしたの?」


詩織「んーん。なんでもない……」


 ん? なんだ?

 突然ライバル出現か?

 反社会勢力しゃかいきらいぐみの僕に愛想尽かしたとか?


 村橋君は、大人しい感じの子だ。

 背の高さがクラスで三番目ぐらいで、運動も出来るし、勉強も平均以上に出来る優良物件。

 その大人しい性格の為か仲の良い女子がいないが、クラスの男子とは良く喋っている。

 客観的に見ても僕みたいな尖った性格の男子よりよっぽど女子にモテると思う。


 敵は早めに排除するべきか?

 真剣に迷ったがやめておくことにした。

 僕とジャンルが違いすぎる。

 同じタイプなら戦える気はするが、違うタイプだと戦いにすらならない。

 まだ敵と決まった訳じゃないのだからここはドンと構えておこう。

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