第46話 危険と機嫌と棄権 17
最近お嫁さん達からやたら他の男子の名前が会話に出てくる為、僕はあまり機嫌がよろしく無い。
『村橋君今頃何してるのかなぁ?』
とか、
『村橋君元気かなぁ?』
とか……。
しかも直接僕に話しかけている訳では無く、詩織と雛の二人の会話なので僕は仲間外れだ。
それでも一日に一回はその名前を耳にするようになっている。
いつも一緒に帰ったりする為どうしても二人の会話が耳に入ってきてしまうのだ。
「機嫌悪そうだね?☆」
そりゃあ機嫌も悪くなるよ……。
「二人の心の中覗いてみようか?☆」
それはダメ。詩織と雛も禁止って言ったろ?
「なら、村橋君なら良い?☆」
なるほど。
その手があったか。
戦いに勝つ為にはまずは相手を知るべし!
アニメで孔明が言っていたな……。
僕の中で村橋君が敵に認定された。
少女漫画でもライバルは必須要員だった。
この間の初恋事件で僕の人生の目標に、『少女漫画みたいな恋愛をしたい』を追加したばかりだ。
ピンチはチャンスだ!
役者は揃った!
明日学校で試してみよう。
翌日僕はいつになく気合いを入れ学校へ向かった。
その日はまだお嫁さん達の口から『村橋君』の名前が出てくる事は無く仲良く登校した。
ホームルームが始まり若ちゃん先生がクラスメイトの名前を一人ずつ点呼する。
村橋君の事を考えていると自分の名前が呼ばれ僕は元気良く返事をした。
僕の中では村橋君がかなりの強敵になっていた。
勝手なイメージだが、誰が見ても優秀と言われるような子供だったからだ。
勉強に関しては算数と理科だけなら負ける気はしないが、総合的には向こうの方が上だろう。
運動でも身長が高く体格的に勝てる自身は無い。
ゲームなら勝つ自信があるのだが、ゲームが強い男の子にはたして魅力を感じるだろうか?
「ねぇねぇ☆」
何? 今色々考えて忙しいんだけど……。
「いないよ?☆」
ん? いない?
「うん。いない……☆」
若ちゃん先生「村橋君は体調が悪いからお休みです」
本当だ……。
やられた……。
僕に恐れをなして逃げ出したか?
このやる気をどうしてくれるんだ……。
「また明日でも良いんじゃない?☆」
そうだな。
また明日にするしかないな。
だが、翌日も村橋君は学校へ来なかった。
風邪だからしょうがないな。
そう思いながらも四日目に僕は違和感を覚えた。
四日目も来なかったのだ。
どう考えても休み過ぎじゃないか?
僕はイライラしていた。
自分の思い通りにならないと、イライラしてくるのは
このままだと戦いにすらならないじゃないか?
ライバルならちゃんとライバルらしくしろよ!
勝手な意見をその場にいない相手にぶつけたが勿論返事などあるわけも無い。
こうなったら詩織と雛に聞いてみるか……。
放課後二人に話を持ちかける。
光「二人は村橋君の事好きなの?」
単刀直入。
僕はストレートしか投げられないダメなピッチャーなのだ。
詩織と雛「えっ!? なんで??」
声が揃った。
久しぶりに二人の声が揃った。
質問が悪かったのか?
光「だっていつも村橋君の話をしてるから……」
すると詩織が真面目な顔で睨んできた。
雛も不思議そうな感じだが割と真面目な顔だ。
詩織「あれだけ休んでたら気になるのが友達じゃないの?」
雛「そうだよ。もう一ヶ月ぐらい休んでるよね」
詩織「うん。何かあったのか心配だよ」
知らなかった。
……いや、休んでる子がいたのは知っていた。
それが村橋君だと今初めて知ったのだ。
どうやら夏休み前から休みがちだったらしい。
それを詩織がいち早く察知して僕に相談しようとしていたのだ。
そして、夏休みが終わり始業式の後から休みが多くなり今では全く学校へ来ていない。
雛がそれに気付いたのがこの前僕に村橋君の事を問いかけた辺りだ。
僕の悪い面が露出した瞬間だった。
興味が無い事への無関心……。
少し反省しながら二人に確認する。
光「それって不登校?」
二人が首を縦にふる。
ライバルが仲間に格上げされた。
僕もギルやお嫁さん達がいなければ学校へ来られない可能性があったのだ。
教室の重たい空気。
今思い出しても耐えきれない。
村橋君は敵じゃなく仲間だ。
仲間は助けないと!
僕はまるで自分の事のように村橋君の事を思った。
しかし、何が出来る?
ほとんど話した事もなければ家も知らない。
そもそも、学校へ来ていない子の家に行くのは良いことなのか?
しばらくの間僕は村橋君の事で頭がいっぱいになってしまった。
「おはよう! 今日も絶不調だね☆」
おはよう。ギル。
モヤモヤがもやもやしてもうやだ。
自分でも意味不明な返答で返す。
「君は優しいからね☆」
こんな感じでなんとかギルに支えられていた。
数日後、若ちゃん先生がついに動き始めた。
流石に不味いと思ったのだろう。
授業中にみんなで村橋君を応援しに行こうと提案してきた。
誰も反対意見は無い。
小学三年生はみんな純粋なのだ。
モラル的に良いと思える事にはみな協力的になれる。
そしてやはりクラスメイト全員が心配していたのが僕の肌に伝わってくる。
僕も反対はしなかった。
若ちゃん先生は良い先生だ。
そんな先生の行動に間違いがあるはずもない。
それなのに胸の奥のモヤモヤがもやもやしているのは何故なんだろう……?
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