第8話 失敗の価値 5
「はい。そこまで。みなさん後ろから順番にテスト用紙を前の席の子に渡していってくださいね。」
若ちゃん先生が生徒達に指示を出し、クラス全員分のテスト用紙を回収していく。丁度良いタイミングでチャイムが鳴り響き授業の終了を告げる。
休み時間の間クラスメイト達は問題の答えがどうだとか、難しい問題だった等仲の良い者どうしで話し合っていた。そして、詩織と雛も僕の席まで来て答え合わせをしていた。この二人は各々の得手不得手がバランス良く違っていて、間違えた所と正解している所を上手く教え合っているのだ。本当に良い関係を築いている。そんな二人の会話を聞きながらニコニコしていると、
「光君はどうだった??」
おもむろに詩織が訪ねてきた。
「ほぼ完璧〜かな?」
「光君すごいね! 雛全然ダメだったよぉ……」
雛が先に答える。雛は算数が苦手でいつも五十点ぐらいだ。詩織も後に続いて質問してきた。
「私もあんまり自身がないなぁ。そういえばテスト中に突然声出してたけど、どうしたの?」
不思議そうな顔で詩織が顔を覗き込んできた。朝の件のせいか詩織の顔が目の前にあると少しドキドキしてきた。いつもは詩織や雛が近くに居ても全く気にならないのだが今日は違った。
なんだろう? 嫌な気持ちじゃないけど胸に違和感。
そんな事を思いながらテスト中の件について、どう返事をしようか? 少し黙って考えた。ギルのおかげでケアレスミスを発見したせい……とは言えない。テストの時よりも頭をフル回転させこう答える。
「昨日遊んでたゲームの謎が分かって思わず声が出ちゃったんだ」
詩織はムスッとしてじっと見つめてきた。
「それ嘘でしょ、、、もぉ〜。いいですよーだ」
速攻で嘘がバレた。完璧だと思ったのに何でだろう? 顔に『僕は嘘ついてます』とでも書いてあったのだろうか? 更に詩織が追い打ちをかけてくる。
「ピナもそう思うでしょ!? ぜーったい嘘だもん。テスト中だよ! いくら光君でも流石にそれはないよー!」
過大評価である。授業中の僕の頭の中は大半はゲームの事でいっぱいなのです。
「嘘、、、かなぁ? でもリンゴがそう言うなら多分そうだと思う」
雛もやんわり詩織に同意する。
付き合いが長いせいか詩織には絶対嘘がバレてしまう。やれやれ。そんなバレバレだっただろうか? そんな事を思いながら二人に、こう答えた。
「間違えてた答えを見つけて思わず声が出ちゃったんだ。」
「光君らしいねw」
詩織の顔に笑みが戻ってくる。セーフだ。今のは嘘ではない。ギルの事だけ伏せれば良かっただけなのだ。
雛はなぜかあまり光とは話をしない。普段から自分の話よりどちらかと言うと詩織の話に合わせて会話する事が多かった。詩織の方が物事をハッキリ言うタイプで上手いこと会話が纏まっている感じだ。恐らく光の事が好きだから恥ずかしさもあるのだろう。この頃の女の子は精神年齢が男の子よりも二〜三歳高くおませさんなのだ。
性格が違い、好きな教科も違う。そんな詩織と雛に共通して光の事を好きな理由が1つあった。
それは光のおっちょこちょいなところだ。光の行動はどこか危なっかしい事が多く、周りの人間はそれによく引っ張り回されるのだ。母性本能が擽られるのだろう。だから詩織と雛の二人とも知らない内に『私が助けてあげないと』と思うようになっていたのだ。もちろん光の行動に可愛げがあるからそれも相乗しての好意だろう。
当の光本人がまったく意識していない所は問題でもあるのだが……。
その後も次の授業が始まるまで三人で仲良く会話していた。
これ、もしかして二人とも朝の事忘れてしまってるんじゃないかな? よくある子供の聞くだけ聞いて時間が経つと興味が無くなって忘れてしまう。みたいな? それならそれで僕的には助かるんだけど。
そんな事を考えていると、
「放課後までだからね!光君。」
詩織がピシャリと一言伝えて自分の席に戻っていった。
僕の心の中見られてる??
ギルって本当は詩織なんじゃないのか??
少し不安になってそんな事を思っていると、次の授業のチャイムが鳴り響くのだった。
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