第7話 失敗の価値 4
チャイムが鳴る前からクラスメイト達はみな各々の席に着席していたが、教室内はまださまざまな声でガヤガヤとしていた。
「今日もみなさん元気そうね。今から授業を始めますよ」
若ちゃん先生の声が響き渡る。クラス全体のおしゃべりが止まり教室内は静まり返った。みな真剣な顔付きで若ちゃん先生へ視線を向ける。
「昨日もお話したように、今日はテストをやります」
今日はテストの日だったらしい。
もちろん知らなかった。昨日の話なんて覚えているはずもない。あんな失敗してそれどころでは無かった。そして、今もそれどころでは無い状況に追い込まれている。一難去ってまた一難とはまさにこの事だ。
「二人のことは後にして〜、とりあえずテストやらないとだね。後でゆっくりかんがえよ☆」
ギルの言葉に頷き意識をテストに向けた。
若ちゃん先生がテスト用紙を配り終え教台に戻っていく。まだ昨日の事気にしているかな? そんな事を思いながら若ちゃん先生の言葉に耳を向けた。
「ではみなさんテスト用紙は行き渡りましたか?」
若ちゃん先生が生徒全員の様子を伺い、テスト用紙が行き渡った事を確認する。
「テストを始めてください。」
テスト開始の合図と共にテスト用紙を眺め、大きく息を吸い込み一気に集中する。一時間目のテストは大好きな算数だ。好きな教科である事と、ギルが一緒にいる違和感が良い方向に働き集中力が増していく。今誰かが話しかけても恐らく僕の耳には届かないだろう。もしかしたら耳には届いているかもしれないが、脳まで届く事は無い。ギルの声も今は届かない。それほど今日の集中力は凄まじかった。
ひたすら問題を解いていく。分からない問題は一つもなく、あっという間に答案用紙は全て埋まってしまった。軽く見直しをした後、教室にある丸い壁掛け時計に視線向けた。
よし! 二十分! 絶好調!!
光は自画自賛した。対戦格闘ゲームの様にルールが明確な場合、光の力は100%に近い形で発揮される。光にとってのテストはゲームと同じ感覚だった。テストは点数が全て。平均点以上採れていれば光の勝ち。そんな自分ルールが光の中にはある。そしてそれに飽きてきたのか、テストでタイムアタックをするようになってしまったのだ。
その結果、いかに早くテストを終わらせるかがテストに対しての楽しみ方になっていた。
まだ二十分以上も残り時間があるが、いつもこの時間を有意義にする為に光は居眠りを始める。しかし今日は違った。
「君。今寝ようとしたでしょw☆」
ギルだ。僕は心の中で返答する。
そうだけど、どうしたの?
「いつも余った時間は寝ちゃうよね? 勿体ないなぁと思ってさ☆」
頭の中に疑問符が浮かび上がる。自分では時間の有効活用が上手く出来ていると思っていたから、何が勿体無いのかが理解出来ない。
「君ならこのテスト百点採れるでしょ? だから勿体ないなぁって☆」
頭の中は更に疑問符で満たされていく。
いや、百点採れてるでしょ? 軽く見直したもん。難しい問題なんて一つも無かったし……。
「もう一回だけ、ゆ〜っくり見直ししてみたら? 良い事あるかもしれないよ☆」
再度テスト用紙に意識を集中させるが、間違えている問題は一つも無かった。
ギルぅ。答え全部合ってるよ?
「じゃあヒント。君はギガフレアに頭の中が汚染されている。ゲームの中なら良いけれど、もっと弱い魔法にも役割りはあるはずだよ☆」
ギガフレア? 魔法? テストに全く関係無いじゃん!?
そう思いながら僕はしばらくの間、テスト用紙を眺めていた。
「あっ!!」
答えの違和感に気付き思わず声を上げてしまった。
若ちゃん先生がこっちを見ている。
やばい!? 怒られる??
僕は申し訳ないような顔をして悪気が無かった事をアピールした。机の方へ一度うつ向きそしてゆっくりと上目遣いで若ちゃん先生の方を見た。
若ちゃん先生は最初怪訝そうな顔をしていたが、悪気が無い事が伝わったのかすぐにいつもの優しい顔に戻っていった。
セーフ! 大丈夫だった。
もう一度テスト用紙を見て百点と思っていた答えにアルファベットの小文字を追加していった。この作業を3回程繰り返して僕は今度こそ百点が採れると確信した。
いつものうっかりだった。答に単位を記入し忘れていたのだ。二年生までは元々答案用紙に単位が記入してあった為、三年生になってからもその感覚のまま単位を記入せずに答えを書いていたのだ。その為、三年生になってからは百点が採れるはずのテストで八十点しか採れていなかったのだ。
もうちょっと分かりやすく教えてよぉ。あんなヒント僕じゃないと理解出来ないよぉ。
ギルにお願いするように問いかけたが……。
「だ〜め!助言者だから助言じゃないとインチキになっちゃうよ☆」
軽くあしらわれてしまった。
だからって、メガフレアとミリメートルでは全然違うよぉ。弱い魔法って、小さな単位って事だろ? きっと……。でもまぁ、助かったよ。ありがと!
なんだかんだで無事算数のテストが終わろうとしていた。
やっぱりギルがいると面白いや!
「うん! 次の授業も頑張って☆」
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