第12話 失敗の価値 9

 お嫁さん事件のあの日以来、僕は宿題に関してのみ普通の子のようになっていた。特別では無く普通になったのだ。


 理由は簡単。お嫁さんの力だ。

 家に帰ると必ず二人のお嫁さんが訪問してくる為、三人で宿題を終わらせていたのだ。おかけで宿題を忘れる事がほとんど無くなった。宿題を忘れないから、朝腹痛に悩まされる事も無くなった。

 順風満帆とはこのことだろう。

 そのせいか、困ることがあまり無くなかなかギルが出て来なくなった。それがちょっと淋しかった。


 まぁ、繰り返し同じ勉強をさせられる等に関しては今も変わらず拒絶していたが……。


 学校で他のクラスメイトと同じ様に授業を受けていれば親の立場からすればいわゆる【文句無しの子供】かもしれない。しかし、僕の場合は違う。宿題をすることで居眠りの時間が増えたのだ。

 なぜかって?

 もちろん授業がより楽しくなくなったからだ。それはそうだろ? だって家に帰ってから勉強の復習なんてやっていたら、授業の内容なんて本当に聞く必要が無くなってしまう。授業の時間を睡眠学習に充て、有効に使っていたのだ。だから気になる話しが聞ける授業以外はほぼ寝ていた。

 もちろん寝るのにも理由がある。家に帰ってからめいいっぱい遊ぶ為……。そう。毎晩夜中までゲームをしているのだ。

 昼間に寝て……夜遊ぶ! 完璧だ!!


 この日も絶賛爆寝中だった。

 若ちゃん先生はもちろん居眠りに気付いているはずだ。しかし、何故か注意されることは無かった。少し淋しい気持ちもあるが、好都合なので怒られるまではこのスタイルでいこう。


 光がさまざまな理由の上で居眠りするように、実は若ちゃん先生にもしっかりした理由があって光の居眠りに目をつぶっていたのだった。

 宿題を忘れただけでも精神的にやられて体調が悪くなってしまう。しかし、教室から出て行くと体調が良くなる事を若ちゃん先生は知っていた。実は光が早退した後に必ず若ちゃん先生は保健室へ来て光の状態を確認していた。そして保健室の先生から、保健室にいる時の光は意外と元気そうだと聞いていたのだ。

 なので、最近は早退しなくなった事が光の頑張りであり、褒めるべき事なのだと。居眠りしてでも学校には来ている。そして放課後まで体調が維持出来ている。

 光が繊細な心の持ち主である事を見抜いていたからだ。アタリの先生……では無く、大アタリの先生だったのだ。

 実の親にそこまで把握できるか? と問われると、光に関しては難しいだろう。

 心の繊細な子供が果たして居眠りをするだろうか? この子は図太いから居眠りなんてへっちゃらと思われるのでは無いだろうか?

 若ちゃん先生は光の事をしっかり把握している。

そして今学校に来られる事の大切さを知っている。光にとってこれ以上の先生はいないだろう。


 ふと居眠りから覚めて気づいた事がある。クラスメイトの一人が教室にいない。どうしたんだろうか? ちょっと考えてみたが分からない。多分早退でもしたんだろう。特に気にはならなかった為再度寝ることにした。


 その日も放課後は三人で帰ってきた。家に着いて数分後にはお嫁さん達が来る。このルーティンにも慣れてきた為、今日の宿題の準備をする。

 まぁ、準備といっても筆記用具を出してランドセルの中身を全て机の上に置くだけなのだが……。

 授業中に居眠りしている僕は宿題の内容なんて一切把握していない。お嫁さん達の指示に従えば良いので把握する必要が無いのだ。

 傍から見たら、なんてダメダメ人間なんだ! と言われてしまうであろう事は自分でも分かっている。しかし、必要無い情報は記憶しないと決めている。自分に正直に生きるとは素晴らしい事なのだ。


 一通り自分自身に言い訳をして納得していると、


 ピンポーン♪


 チャイムが鳴った。お嫁さん達だ。

 玄関まで出迎えに行き、二人を部屋まで案内する。二人も慣れたもので僕よりも先に部屋の中へ入っていく。

 あれから平日はほぼ毎日宿題をやっているが、初日が一番大変だった。

 なにが大変って? もちろん部屋の片付けだ……。

 ベッドの周りのは漫画の本が乱雑に敷き詰められており、床一面がある種の芸術作品のようになっていたのだ。それが僕の安心感の源であり、僕だけの領域だったのだが……、流石に二人をこの部屋に入れるとなると少し恥ずかしい気持ちもあった。

 片付けを開始してから一時間程でやっと普通の部屋に近づいた為終了し、自分で完璧だと思っていたが二人が部屋に入った時の反応は、『漫画すごいね……』だった。

 恐らくベッドの隣に漫画を積み重ねていた為だろう。好きな漫画がベッドから手に取れる状態にしたかった為、漫画タワーが二つ程ベッドの隣にそびえ立っていたのだ。その高さ八十cm……、僕の身長の半分以上の高さがある。自分では納得していたので、今もそのタワーはそのままにしてある。

 

「じゃあ今日の宿題やろっか?」


 詩織が主導権を持っており、テキパキと準備をする。雛もそれに続き算数のプリントを机に広げた。今日は算数から始めるらしい。雛のプリントを確認して、プリントを机に出すと全員の準備が出来た。

 宿題の開始だ。


 三人が各々のペースで問題を解いていく。

 数分後、僕が最初に宿題を終わらせた。

(よし! 一番乗り!)

 終わったと同時にその場で両手を上げて伸びをする。

 ここからは僕の主導権だ!


「光君早い! もう終わったの? 本当に算数の時の早さはビックリしちゃう」


 詩織はいつもこんな感じに褒めてくれる。もっと褒めても良いんだよ! 内心はこんな感じだ。

 雛は分からない問題があるらしく苦戦していた。そんな時は必ず僕に声をかけてくる。


「分かんないよぉ〜……、光君助けて」


 よし! 出番だ! 算数なら任せて!


「ここはこうやってこう! だからこうなるの! わかる?」


「うーん……、むずかしぃっ! もうちょっとゆっくり教えて」


 先生になるにはちょっと早かったようだ。

 詩織も算数が得意なので無難に問題を解いており、もうすぐ終わりそうだった。


「流石。詩織も早いね!」


「うん♡」


 ちゃんと詩織にもお褒めの言葉をかけてあげる。

 褒めて伸びるタイプはこれが一番のご褒美だ。


 逆に他の教科の宿題、特に社会の時の雛は頼りになる。社会の時は常に雛が一番早い。そして雛が終わらせたプリントを見て僕の宿題がスタートする。周回遅れも良い所だが、僕の場合これが一番早い

。雛様々だ。


 こんな感じに今日も宿題を全て終わらせ、お嫁さん達は自分達の家に帰っていった。



 この日の夜も、ベッドに腰掛けゲームをしていた。最近ハマっているゲームで謎解き等が多彩なRPGだ。普通のゲームと違って頭を使わないとクリア出来ない為、毎晩頭をフル回転させている。


 ちょっと疲れてきたなぁ……。


 ふと時計を見ると午後十一時だった。少し休憩する為にベッドへ横たわる。


「楽しそうだね!☆」


 ギル!?


 突然ギルが現れた。

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